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「観る将」が観た第54期新人王戦決勝三番勝負第三局

10月31日、新人王戦決勝三番勝負第三局が関西将棋会館で行われました。第一局に勝った上野裕寿四段と、第二局を制した藤本渚四段が、棋戦初優勝を目指して戦う楽しみな一局となりました。


両者得意の矢倉対雁木

あらためて振り駒が行われ、先手となった兄弟子の上野四段が矢倉に、1年先にプロ入りした藤本四段は雁木と、両者それぞれ得意の陣形に駒組みを進めます。第一局と同様、上野四段が3筋の歩を交換して角で取ると、藤本四段は6筋の歩を突きます。上野四段が角を6筋に引くと、藤本四段は5筋の歩を突きます。

継ぎ歩攻め

上野四段が先に手を変え▲4六歩と突くと、藤本四段は少考して8筋を継ぎ歩で攻め、4筋の歩をぶつけて角道を通します。上野四段が22分の考慮で▲8八銀と引いて受けると、藤本四段は25分の熟考で5筋の歩をぶつけます。上野四段が次の39手目を考慮中に昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は藤本四段が2時間16分、上野四段が1時間46分となっています。

飛車の転回

上野四段が昼休を挟む30分の長考で4筋の歩を取り込むと、藤本四段も5筋の歩を取り込みます。上野四段が▲4七銀と5筋の歩を狙うと、藤本四段は△8五飛と走ります。放置すると角と銀桂の2枚替えがあるので、上野四段は▲8六歩と止め、藤本四段が△4五飛と回して歩損を解消すると、▲7七桂と跳ねて後手の角の利きを緩和します。

藤本四段の馬

藤本四段は37分の長考で7筋の歩をぶつけ、上野四段が▲8七銀と上がって桂頭を守ると、更に21分考えて残り1時間を切り、△6五桂と跳ねてぶつけます。上野四段は▲6五同桂と応じ、藤本四段が△9九角成と香を取って馬を作ると、▲5三歩と金頭を叩きます。藤本四段が金を4筋にかわすと、上野四段は19分の考慮で残り1時間を切り、2筋の歩をぶつけます。

激しい攻め合い

藤本四段が構わず6筋の桂を取ると、上野四段は▲3七桂と跳ね、後手に飛車を引かせてから▲2三歩成と飛び込んで金に当てます。藤本四段は△3一金と引いてかわし、上野四段が飛車取りに▲3六桂と打つと、△5七桂と王手で打ち返します。上野四段が23分の熟考で玉を7筋に逃がすと、藤本四段は△8八歩と垂らして金で取らせてから、取られそうな飛車を9筋に回します。形勢はわずかに藤本四段に傾いてきたようです。

上野四段の凌ぎ

上野四段は▲4四歩と銀頭を叩き、藤本四段が銀を5筋に上がってかわすと、▲7八玉と上がります。藤本四段は△9五香と数を足して突破を図り、上野四段が▲9八銀と引いて受けると、△2七歩と飛頭を叩いて吊り上げてから、△4六歩と銀頭を叩いて逆方向から攻め立てます。上野四段は▲3二"と"と捨て、金で取らせて後手玉の玉を薄くしてから▲5六銀と桂を支える歩を取り払います。形勢は再び混沌としてきたようです。

藤本四段の踏み込み

藤本四段が△9八馬と銀を食いちぎり、王手金取りに△6九銀と打ち込むと、上野四段は玉を8筋にかわしつつ9筋を支えます。藤本四段は金を取って角に当て、上野四段が▲7九角とかわすと、△7六歩と取り込みます。上野四段は▲7八歩と受けますが、藤本四段は歩を成り捨てて△7八歩と角頭を叩きます。

上野四段の竜

1分将棋に突入した上野四段は▲8五角と詰めろかつ飛車取りに打ち、藤本四段が△5三銀と玉頭に迫る歩を払って詰めろを逃れると、飛角交換して▲8一飛と王手で打ち込みます。藤本四段が玉を6筋に上がってかわすと、上野四段は4筋の歩を成り捨てて後手陣の金の連結を断ち、▲5七角と取られそうな角で桂を食いちぎり、▲3一飛成と金を取って竜を作ります。

ついに決着か

藤本四段も1分将棋となり、角を取った成銀で銀も取ると、上野四段は自陣の飛車を▲2二飛成と飛び込み、2枚目の竜で王手します。藤本四段が合い駒に歩を打つと、上野四段は▲8四金と打ち、後手玉の脱出路を狭めて下駄を預けます。先手玉には即詰みが生じているようで、藤本四段は△7九角と王手しますが、上野四段が▲9九玉と引くと、意表を突かれたのか少し慌てた手つきで△9七香成として手を渡します。

衝撃の結末

なんと今度は後手玉に即詰みが生じているようで、上野四段は▲7四桂と王手し、藤本四段が△6三玉とかわすと、▲6一竜と追撃します。藤本四段は銀で合い駒しますが、上野四段は▲6二同竜と食いちぎって王手を続けます。藤本四段は数手指し続けましたが逃れることはできず、上野四段が▲7三銀と王手すると、投了を告げました。

まとめ

本局は両者得意の陣形から、藤本四段が継ぎ歩攻めから馬を作り、飛車を横に使ってわずかに優勢の局面を作りました。上野四段は決め手を与えず、形勢を互角に戻したかに見えましたが、藤本四段は馬を切って踏み込み勝勢となりました。先手玉には即詰みが生じましたが、上野四段の応手が藤本四段の盲点に入ったのか詰みを逃してしまいました。上野四段は後手玉の即詰みを読み切っており、大逆転の結末となりました。若い2人が繰り広げた死闘は、新人王を決める決着局に相応しい大熱戦だったと思います。

プロデビューの月に早くも棋戦初優勝を遂げた上野四段は「これからいろんな棋戦に出場していくので、ほかの棋戦でも活躍できるように頑張っていきたいと思っています」と初々しく語りました。歴代の新人王には、羽生九段や渡辺九段、藤井八冠などトップ棋士に駆け上がった例が多く、上野四段にもタイトルを争う棋士になることを期待したいと思います。

惜しくも敗れた藤本四段は、11月4-5日に行われる加古川青流戦でも決勝三番勝負に進出しています。新人王は来期以降に持ち越されましたが、悔しさをバネに加古川青流戦での優勝を勝ち取れるか注目していきたいと思います。

新人王戦は、しんぶん赤旗と日本将棋連盟が主催しています。棋譜等は下記サイトをご覧ください。


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