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「観る将」が観た第54期新人王戦決勝三番勝負第一局

10月2日、新人王戦決勝三番勝負第一局が関西将棋会館で行われました。新人王戦は、26歳以下で六段以下の棋士、女流棋士4名、アマチュア1名、奨励会三段リーグ上位者によるトーナメント戦で、決勝のみ三番勝負が行われます。若手にとっては登竜門とも言うべき棋戦で、過去の優勝者には羽生善治九段や森内俊之九段、渡辺明名人、藤井聡太竜王らが名を連ねています。

今期の決勝三番勝負は、藤本渚四段と上野裕寿四段の井上慶太九段門下の兄弟弟子対決となっています。
藤本四段は2022年10月プロ入りの18歳です。今年度は21勝3敗という驚異的な成績で、勝率0.875は現時点で堂々の1位です。加古川青流戦でも決勝に進出し、11月から吉池三段との三番勝負を控えています。非公式戦ながら、ABEMAトーナメントでは渡辺(明)名人(当時)を破るなど、注目の現役最年少棋士です。今期は齊藤(裕)四段、斎藤(優)三段、斎藤(明)五段、高田四段を降して勝ち上がっています。
上野四段は今月1日付でプロ入りしたばかりの20歳です。序盤研究の深さでは、三段当時から一目置かれていた注目の新人です。今期は中澤女流二段、伊藤(匠)六段(当時)、増田(康)七段、吉池三段と、強豪を次々に撃破して、堂々の決勝進出です。


矢倉対雁木

弟弟子ながら先にプロ入りした藤本四段が御上段の間の上座に就き、振り駒は"と金"が3枚出て上野四段の先手となります。上野四段が初手に角道を開けて矢倉を志向すると、藤本四段は雁木に構えます。上野四段が3筋の歩をぶつけて交換すると、藤本四段は5筋の歩を突き捨ててから△6五桂と跳ね、△5六歩と垂らします。

金桂交換

上野四段が▲4六銀と上がって5筋を補強すると、藤本四段は35分の熟考で4筋の歩を伸ばして銀を上ずらせ、△5七歩成と飛び込みます。この"と金"を6筋の銀で取ると後手の角が飛び出して飛香両取りになるので、上野四段は金で取って金桂交換を甘受しますが、藤本四段は6筋の歩を伸ばして銀を7筋に引かせ、△5五角と飛車取りに飛び出します。

上野四段の研究

上野四段が3筋に歩を打って飛車を守ると、次の48手目を藤本四段が考慮中に昼休となりました。後手が金桂交換の駒得ですが、形勢はまったくの互角のようです。各3時間の持ち時間の内、残り時間は藤本四段が1時間22分、上野四段が2時間40分と大きく差が付いており、上野四段の研究通りの進行を感じさせます。

角金交換

藤本四段が昼休を挟む34分の熟考で4筋の歩を突き捨て、角取りに△4七金と打つと、上野四段は角を6筋に引いてかわします。藤本四段が△4六金と引いて銀に当てると、上野四段は角で金を食いちぎり、▲4四歩と打って銀を捕獲します。残り1時間を切った藤本四段が△3三桂と跳ねて銀に当てると、上野四段は▲4三歩成と銀を取り、▲5六金と打って銀に紐を付けつつ角に当て返します。

歩の小技

藤本四段が角を7筋に引くと、上野四段は▲4四歩~▲5四歩と歩の連打で後手の金を6筋に追い、更に4筋の歩を成り捨てて後手陣を乱してから▲4四歩~▲3五桂と4筋を攻めます。藤本四段は△3五桂と銀をとり、上野四段が金で取り返すと、8筋の歩を突き捨ててから△8八歩と桂頭を叩きます。駒割りは角と桂2枚の交換ですが、形勢は上野四段に傾き始めたようです。

激しい攻め合い

上野四段は26分の熟考で残り1時間を切り、▲4三歩成と金に当てますが、藤本四段は構わず△8九歩成と桂を取って"と金"を作ります。上野四段は▲4二"と"と金を取って王手し、藤本四段が玉を6筋にかわすと、角取りに▲8五桂と打ちます。藤本四段は12分の考慮で残り6分となり、△8四角とかわしつつ先手陣を睨むと、上野四段は▲5二"と"と玉で取らせて引き戻し、▲5三銀から清算して後手玉を孤立させます。

ギリギリの終盤戦に突入

上野四段が飛角金取りに▲7三銀と打ち込むと、藤本四段は△5七歩と垂らして詰めろを掛けます。上野四段は27分の熟考で▲4三金と王手し、藤本四段が玉を6筋にかわすと、▲6四銀不成と金を取って王手します。藤本四段は玉を7筋にかわし、上野四段が▲7三桂成と王手飛車取りに飛び込むと、飛車を見捨てて△6一玉とかわします。

連続の詰めろ

上野四段が▲7五歩と角の利きを止めて詰めろを逃れると、1分将棋に突入した藤本四段は飛車取りに△3九角と打って詰めろを続けます。
上野四段が▲5九歩と打って詰めろを逃れると、藤本四段は△4七銀と打って詰めろを続けます。上野四段が▲4六金と引いて詰めろを逃れると、藤本四段は5筋の歩を成り捨ててから△2八角成と飛車を取って詰めろを続けます。

鮮やかな即詰み

上野四段が▲4七金と銀を取って詰めろを逃れると、藤本四段は△4九飛~△4七飛成と金を取って下駄を預けます。先手の持ち駒に銀が増えたため後手玉には即詰みが生じているようで、上野四段は▲6二銀から王手を続けます。藤本四段は数手指し続けましたが、上野四段の▲5三角を見て投了を告げました。

まとめ

本局は上野四段の仕掛けに藤本四段が反発し、金桂交換の戦果を挙げました。上野四段は研究範囲だったのか、歩と桂の攻めで後手陣を崩して主導権を握り、藤本四段は攻め合いに活路を求めました。終盤は藤本四段が連続の詰めろで迫りましたが、上野四段は正確な応手で凌ぎ切り、鮮やかな即詰みに討ち取りました。
兄弟子の上野四段が終始ペースを握っての快勝となりましたが、次局は先手番となる藤本四段の巻き返しにも期待したいと思います。

新人王戦は、しんぶん赤旗と日本将棋連盟が主催しています。棋譜等は下記サイトをご覧ください。


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