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「観る将」が観た第54期新人王戦決勝三番勝負第二局

10月23日、新人王戦決勝三番勝負第二局が関西将棋会館で行われました。先勝した兄弟子の上野裕寿四段が優勝を決めるのか、プロ入りでは1年先行した藤本渚四段が決着を第三局に持ち越すのか、楽しみな一局となりました。


戦型は相掛かり

先手の藤本四段が相掛かりに誘導し、お互いに飛先の歩を交換して中住まいに構え、下段飛車に引きます。藤本四段が4筋の位を取ると、上野四段は角を交換し△4二銀と上がります。藤本四段が8筋の歩を突くと、上野四段は5筋の歩をぶつけて前例を離れます。藤本四段は▲7七角と設置し、上野四段が△3三角と応じると、5筋の歩を取ります。

開戦準備

上野四段は△5三銀と上がり、藤本四段が▲8七銀と銀冠の形を作ると、6筋の歩を伸ばします。次の53手目を藤本四段が考慮中に昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は藤本四段が1時間55分、上野四段が2時間7分となっています。

藤本四段の仕掛け

藤本四段が昼休を挟む31分の熟考で3筋の歩をぶつけると、上野四段も18分考えて同歩と応じます。藤本四段は▲2五桂と跳ねて角に当て、上野四段が角を2筋に引いてかわすと、1筋の歩もぶつけます。上野四段は20分の熟考で△6四銀左と6筋の位を支え、藤本四段が1筋の歩を取り込むと、△1二歩と受けます。

4,5筋の位

藤本四段が▲4六銀と上がって4,5筋の位を支えると、上野四段は△5六歩と先手の玉頭に垂らします。藤本四段が▲4七金~▲5六金と垂れ歩を取る間に、残り1時間を切った上野四段は7筋の歩をぶつけて取り込みます。上野四段が△5四歩と合わせると、藤本四段は25分の熟考で残り1時間を切り、7筋の桂頭を叩いて銀で取らせ、▲7五歩と押さえ込みます。

角の押さえ込み

上野四段が銀を6筋に引き戻すと、藤本四段は▲3三歩と金頭を叩いて桂交換し、4筋の歩を突き捨ててから▲3四歩と角頭を叩きます。上野四段は△2四角とかわし、藤本四段が5筋の歩を取り込むと、△6六歩と突いて先手の角の利きを止めます。藤本四段は▲2五歩と角頭を叩き、後手の角を5筋に引かせてから、6筋の歩を歩で取ります。形勢はわずかに藤本四段に傾いてきたようです。

玉頭の攻防

上野四段は△5七歩と玉頭を叩き、藤本四段が▲6八玉とかわすと、5筋の玉頭に迫る歩を銀で取ります。藤本四段は▲5五歩と打ち直し、後手に銀を引かせてから▲5七玉と嫌味な歩を取り除きます。上野四段が△4三金と上がって玉頭に厚みを加えると、藤本四段は2筋の歩を突き捨ててから、金取りに▲5四桂と打ちます。上野四段は△5三金上とかわし、藤本四段が▲4二歩と角の利きを止めると、△3四金と上がって2筋の歩を支え、先手の飛車の侵入を阻止します。

銀の突進

藤本四段が▲6七金と更に厚みを加えると、上野四段は△8三桂と控えて打ちます。藤本四段が▲3三歩と垂らし、金で取らせてから▲6五歩と伸ばして銀に当てると、上野四段は△7五銀とかわしてぶつけます。藤本四段は▲3五銀と上がり、1分将棋に突入した上野四段が△7四銀と上がると、▲2四銀と突進します。上野四段が△3四金とかわすと、藤本四段は▲3三銀成と成り捨てます。

角の活用

上野四段が△7六銀と銀交換してから王手角取りに△6五桂と跳ねると、藤本四段も1分将棋となり、▲6五同金左と食いちぎって銀桂との2枚替えをします。上野四段は△8四角と眠っていた角で王手し、藤本四段が▲7五歩と角の利きを止めると、△5六歩と玉頭を叩きます。藤本四段は▲6六玉とかわし、上野四段が△6四歩と金頭を叩くと、▲4三銀と王手し後手玉を下段に落としてから▲3四銀不成と守りに利かせます。

両者1分将棋の死闘

上野四段が△5七銀~△4六金と王手してから△6五歩と金を補充すると、藤本四段は角取りに▲7四金と打って反撃に転じます。上野四段は△6三金打と自陣を補強し、藤本四段が▲2一飛成と竜を作って王手すると、5筋に底歩を打って凌ぎます。藤本四段が金で角を取ると、上野四段は△7五桂と王手しつつ飛車の利きを金に当てます。藤本四段は▲7六玉とかわし、上野四段が飛車で金を取ると、▲8五歩と打って飛車を追います。終盤の寄せ合いとなり、形勢は混沌としてきたようです。

相入玉か

上野四段が飛車を逃げずに△6六銀成と王手し角と交換すると、藤本四段は▲6二銀から8連続王手で迫りますが、中段に脱出した後手玉は詰みません。相入玉の可能性も出てきて、藤本四段が飛車を取ると、上野四段は△8七角から4連続王手で王手馬取りに△5二銀と打ち、馬と銀を交換します。藤本四段は▲2五竜と引いて王手し、上野四段が歩で守ると、▲5一玉と潜って入玉を確定させます。

入玉阻止

上野四段は6筋に"と金"を作って相入玉を目指しますが、藤本四段は▲4七銀と打って上部を押さえます。この銀を取ると寄せられてしまうので、上野四段は△5六金打と粘りますが、藤本四段は金銀交換してから▲4七金と打ち直します。持ち駒に金がなくなった上野四段がやむなく△4七同金と取ると、藤本四段は▲4五銀と縛ります。上野四段が△4五同馬と取ると、後手玉には即詰みが生じたようで、藤本四段は▲6五飛と王手し181手の激闘に終止符を打ちました。

まとめ

本局はお互いに中住まいの玉頭に厚みを築き、藤本四段が後手の角を押さえ込んでわずかに優勢となりました。上野四段は決め手を与えず辛抱し、角を再活用して攻め合いに持ち込み、両者1分将棋の中どちらに転んでもおかしくない終盤戦が長く続きました。藤本四段が先に入玉し、上野四段は相入玉を目指しましたが果たせず無念の投了となりました。
藤井八冠より若い世代の2人による新人王を巡る熱い戦いは、1勝1敗で第三局に決着を持ち越すこととなりました。次局に向け、藤本四段は「この2局を指して、上野さんの強さを嫌というほど分かったので、あまり気負わずに指していきたいと思います」、上野四段は「準備をしっかりして、いい将棋が指せるように頑張りたいと思います」と話しています。10月31日に行われる最終局も、両者が力を出し切っての好局になることを期待したいと思います。

新人王戦は、しんぶん赤旗と日本将棋連盟が主催しています。棋譜等は下記サイトをご覧ください。


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