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SUNTORY将棋オールスター東西対抗戦2022 決勝戦

12月25日、昨年新設されたSUNTORY将棋オールスター東西対抗戦2022の決勝戦が行われました。本棋戦は、ファン投票によって選出された棋士(東西各3名)と、予選を勝ち上がった棋士(東西各3名)による東西対抗の団体戦です。出場する棋士については、下記記事にまとめましたので、興味がありましたらご確認ください。

本棋戦は持ち時間なし(初手から一手30秒未満)で、対戦カードは各チームの話し合いで前日に決められています。当日は明治神宮会館に約800人のファンが詰めかけたようで、非公式戦ではありますが、ファンの皆様に喜んでいただく棋戦という形で定着していきそうです。

第一局・第二局

主催者挨拶などの後、第一局と第二局が同時に行われました。

第一局 東軍:羽生善治九段 vs 西軍:山崎隆之八段

先手の山崎八段が相掛かりに誘導し、羽生九段は受けて立ち縦歩取りを狙います。山崎八段が▲7七金と上がって歩を守ると、羽生九段は飛車を8筋に戻して7筋の歩を伸ばします。先手陣は見慣れない陣形となりましたが、山崎八段が角で飛車を追い歩で飛車の利きを止めると、羽生九段は金取りに△6五桂と跳ねて桂交換します。山崎八段は2筋から飛車と銀で反発しますが、羽生九段は金取りに△5六桂と打って金を剥がします。羽生九段は飛車の横利きを通し、飛交換して凌ぐと再度角取りに△5六桂と打って後手玉に迫ります。山崎八段はかなり慌てた手つきで角を引きますが、羽生九段が△3八飛と王手角取りに打つと一気に形勢は傾き、角を取った羽生九段が即詰みに討ち取りました。

第二局 東軍:近藤誠也七段 vs 西軍:糸谷哲郎八段

後手の糸谷八段が一手損角換わりに誘導し、近藤七段は早繰り銀で対抗します。糸谷八段が銀矢倉の形に組むと、近藤七段は3筋の銀をぶつけて交換します。糸谷八段は△4七角と打ち込んで馬を作りますが、近藤七段は4筋の歩を取り込んで▲4三銀と打ち込みます。糸谷八段は馬で根元の歩を取りますが、近藤七段は金銀交換してから馬取りに▲4五金と打ちます。糸谷八段は△4三馬と引いてから7筋の歩をぶつけて反撃しますが、近藤七段は飛車取りに▲6一角と打ち込み、飛角交換して▲7一飛と王手で打ち込みます。糸谷八段は持ち駒の銀を投じて防ぎ、飛車取りに△1三桂と跳ねますが、近藤七段は飛車を見捨てて▲2三歩成と踏み込み、そのまま一気に寄せ切りました。

第三局・第四局

東軍が幸先良く連勝スタートを切り、続いて第三局と第四局が行われました。

第三局 東軍:横山泰明七段 vs 西軍:豊島将之九段

後手の横山七段が横歩取りに誘導し、豊島九段は受けて立ちました。横山七段が左銀を前進して飛車を追い、右銀も繰り出して先手の飛車を攻めますが、豊島九段も▲2五歩と叩いて後手の銀を攻めます。横山七段は△1五角~△3七角成と桂を食いちぎって△5四桂と飛車を捕獲しますが、豊島九段は冷静に自陣に飛車を打たれる傷を消します。横山七段が7筋の歩を伸ばして先手の桂頭を攻めると、豊島九段は桂を取らせる代わりに6筋の歩を伸ばして拠点を作ります。横山七段は角銀両取りに△6五桂と打ち、豊島九段が構わず"と金"で金を取ると、角桂交換してから金の両取りに飛車を打ち込みます。豊島九段は桂を打って両取りを凌ぐと手順に馬を作り、横山七段の馬取りに構わず▲6三桂と打って寄せ切りました。

第四局 東軍:永瀬拓矢王座 vs 西軍:藤井聡太竜王

先手の永瀬王座が矢倉を選択し、藤井竜王は急戦調の駒組みを進めます。藤井竜王が居玉のまま6筋の歩をぶつけると、永瀬王座は▲4六角と出て後手の桂の動きを牽制します。藤井竜王が角取りに4筋の歩を伸ばすと、永瀬王座は2筋の歩をぶつけます。藤井竜王は構わず角を取り、永瀬王座は2筋を突破し金を取って竜を作ります。藤井竜王は歩で竜を追い返すと、竜取りに△4九角~△6七角成と金を食いちぎり先手陣を大きく乱します。永瀬王座は自陣に金を打って粘りますが、藤井竜王は4筋に"と金"を作って銀を剥がし、金取りに△2四角と覗きます。永瀬王座は▲4六角と攻防に打ちますが、藤井竜王は再度△5七角成と金を食いちぎり、△6七金と打って寄せ切りました。

トークショウ

西軍が2勝を返してタイスコアとなったところで、写真撮影OKというファンサービスのトークショウが行われ、両軍の棋士が「今はまっていること」「新年を迎え新しく挑戦したいこと」というテーマでトークを繰り広げました。
藤井竜王がトレインシミュレータの話を熱っぽく語ったのと、解説の屋敷九段が来年は本棋戦に出場したいと話した時が、会場が一番盛り上がったような気がします。

第五局・第六局

トークショウに続いて第五局と第六局が行われました。

第五局 東軍:佐藤康光九段 vs 西軍:斎藤慎太郎八段(エキシビション)

渡辺名人の欠場により西軍の不戦勝となり、エキシビションの形で佐藤康光九段が登場します。後手の佐藤九段が阪田流向かい飛車を採用し美濃囲いに構えると、斎藤八段は▲3七桂と跳ねて備えます。佐藤九段が4筋から仕掛けて桂交換すると、斎藤八段は7筋の歩を突き捨ててから▲8六桂と打ち美濃囲いの弱点を突きます。佐藤九段が△6二桂と打って先手の桂跳ねを阻止すると、斎藤八段は飛車を4筋に回します。佐藤九段は△3七角と打ち込み銀頭を歩で叩きますが、斎藤八段は▲5六銀と後手の歩頭に逃れます。佐藤九段はこの銀を歩で取ると王手飛車を食らうので銀交換し、△3八銀と打って先手の飛車を2筋に追います。斎藤八段は▲9四桂と跳ねて端攻めし突破しますが、佐藤九段は△5四桂と跳ねて脱出路を確保し、更に△6六桂と跳ねて反撃します。両者とも詰むや詰まざるやの激闘となりましたが、最後は佐藤九段が寄せ切りました。

第六局 東軍:増田康宏六段 vs 西軍:稲葉陽八段

後手の稲葉八段が角道を止め雁木に構えると、増田六段は右四間飛車を採用します。増田六段が▲2五桂~▲1三桂成と飛び込んで桂交換し、金取りに▲4四桂と打ちますが、稲葉八段は金を上がってかわします。稲葉八段は9筋を端攻めしてから△6三桂と打ち、角を追ってから歩で銀も追い返し、先手の4筋の桂を取ります。増田六段は9筋の傷を消してから▲4六銀とぶつけ、飛車を2筋に戻して攻め掛かります。増田六段は2筋の歩を突き捨て、銀交換してから歩の技で一気に後手陣に殺到します。稲葉八段は角で金を食いちぎり、自陣に投じて粘りますが、増田六段は取った飛車を▲4二飛と打ち込み即詰みに討ち取りました。

リレー将棋

両軍3勝3敗となり、リレー将棋の結果で勝敗が決まります。リレー将棋は1手20秒未満で行われ、5手指す毎に棋士が入れ替わります。両チームとも3分間の作戦会議を1回取ることができます。

東軍:永瀬拓矢王座&羽生善治九段 vs 藤井聡太竜王&豊島将之九段

東軍は羽生九段が、西軍は豊島九段が先に指し始めます。先手の豊島九段が▲2五歩を保留したまま角換わりに誘導し、羽生九段は受けて立ち相腰掛け銀の将棋となります。定跡形となり、羽生九段が△4四歩と突くと、豊島九段は▲4五歩と仕掛けて銀をぶつけます。羽生九段が銀交換を避けて△5五銀と上がると、豊島九段は2筋を継ぎ歩で攻めます。羽生九段が△4七歩と金頭を叩くと、藤井竜王は力強く玉で取ります。藤井竜王が玉を戻すと、永瀬王座は再度△4七歩と金頭を叩きます。藤井竜王は今度は金を3筋に寄ってかわし、7筋の歩をぶつけます。ここで永瀬王座が作戦会議の札を上げます。

作戦会議を終え、永瀬王座が△6三角と打って桂頭を守ると、藤井竜王は7筋の歩を取り込み、豊島九段は角頭を歩で叩いて▲7四角とぶつけます。羽生九段は飛車を4筋に回しますが、豊島九段は角を交換して▲8三角と打ち込みます。羽生九段が8筋の歩を突き捨て△8八歩と桂頭を叩くと、藤井竜王は金で取ります。永瀬王座が3筋の歩を突き捨て、桂取りに△3六歩と打つと、藤井竜王は銀で取ります。永瀬王座が6筋の歩をぶつけると、藤井竜王が作戦会議を宣言します。

作戦会議から戻った藤井竜王が▲4五歩と打って後手の飛車の利きを止めると、永瀬王座は6筋の歩を取り込みます。藤井竜王は手抜いて桂取りに▲7四歩と伸ばしますが、永瀬王座は構わず△6七歩成と王手で飛び込みます。豊島九段は玉で取りますが、羽生九段は取られそうな桂を銀取りに△6五桂と跳ねます。豊島九段が▲7二角成と馬を作ると、羽生九段は△7四金と歩を払います。豊島九段は▲6三歩と垂らしますが、羽生九段は歩で防ぎます。左辺を制圧した豊島九段は▲2五桂と跳ねて右辺から攻め、少し慌てた手つきで▲4七金と先手陣の嫌味となっていた歩を取ります。

羽生九段が△7七桂成と銀桂交換し、永瀬王座は飛金両取りに△3八銀と打ち、△4九角と王手で追撃します。藤井竜王が玉を引いてかわすと、永瀬王座は歩で飛頭を叩き1筋に追いやります。永瀬王座が△2五銀と桂を取ると、藤井竜王は▲6七桂と銀取りに打って引かせ、豊島九段は▲2五銀と銀を取って前進します。羽生九段は△4七銀成と金を剥がし、△6五桂と打って先手の玉頭に迫ります。豊島九段は銀を打って金桂交換を甘受し、王手金取りに▲4四桂と打って反撃します。羽生九段が飛車で桂を食いちぎると、永瀬王座は△4六桂と打って先手玉を受けなしに追い込みます。藤井竜王は▲6二歩成から王手を続け、交代した豊島九段も王手を続けましたが、後手玉に詰みはなく東軍の勝利となりました。

表彰式

昨年はリレー将棋を含めて全敗の屈辱を味わった東軍が、不戦敗1つのハンデを背負いながら4勝3敗で勝利を掴み取りました。すべての棋士が日頃見せない和気あいあいとした表情を見せながら、盤の前では真剣勝負を繰り広げ、早指しとは思えない高度な技を魅せてくれました。来年もこの大会が行われ、年末の恒例行事として定着することを期待したいと思います。

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