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「観る将」が観た第48期棋王戦挑決二番勝負第一局

12月19日、棋王戦コナミグループ杯の挑戦者決定二番勝負第一局が行われました。挑決トーナメントを最後まで勝ち残った佐藤天彦九段と、敗者復活戦で伊藤匠五段と羽生善治九段を破った藤井聡太竜王の顔合わせとなっています。佐藤九段は1勝すれば、藤井竜王は2連勝すれば挑戦権獲得となります。

佐藤九段は第44期以来の挑決二番勝負登場で、第41期には敗者復活戦から勝ち上がり、佐藤康光九段に2連勝して挑戦権を獲得した実績があります。藤井竜王はこれまで棋王戦では目立った活躍がなく、初めての挑決二番勝負登場となりました。


戦型は横歩取り

振り駒で後手となった佐藤九段が横歩取りに誘導すると、藤井竜王は受けて立ち青野流で迎え撃ちます。佐藤九段が中原囲いに構えると、藤井竜王は36分の熟考で飛車を2筋に戻します。佐藤九段が32手目を考慮中に昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が2時間52分、佐藤九段が3時間25分となっています。

佐藤九段の垂れ歩

佐藤九段は昼休を挟む22分の熟考で8筋の歩を合わせ、藤井竜王が4筋の歩を突くと、46分の長考で2筋に歩を垂らします。この歩を飛車で取ると角交換後に飛車に当てての角打ちの筋が生じるので、藤井竜王は82分の長考で6筋の歩を突いて角交換を避けます。AIの評価値は藤井竜王の55%とわずかに傾いています。

難解な中盤戦

佐藤九段も6筋の歩を突くと、藤井竜王は歩で後手の飛車を追ってから3筋の歩を伸ばします。藤井竜王の残り時間が1時間を切りました。佐藤九段は時折額を膝に付けるような姿勢を取りつつ39分考え、3筋の桂頭を歩で叩きます。藤井竜王が桂を跳ねて角に当てると、佐藤九段は角を4筋に上がってかわします。

残り時間の切迫

藤井竜王が3筋の歩を伸ばすと、佐藤九段は2筋の銀を上がって先手の飛車に圧力を掛けます。藤井竜王は4筋に銀を上がって3筋の歩を取りにいきますが、佐藤九段は6筋の歩をぶつけて角交換を目指します。藤井竜王が銀で歩を取ると、佐藤九段の残り時間も1時間を切り、6筋の歩を取り込みます。

角交換の実現

藤井竜王が構わず銀を前進して角に当てると、佐藤九段は6筋の歩を成り捨て、玉で取らせてから角交換します。先手陣は金銀がバラバラで玉が露出してかなり危険な状態に見えますが、AIの評価値は藤井竜王の77%と大きく傾いています。

相手玉近くの馬と天王山の角

佐藤九段は31分の熟考で残り22分となり、飛車に当てて角を打ち、先手玉の近くに馬を作ります。藤井竜王が天王山に攻防の角を打つと、佐藤九段は7筋の歩をぶつけて飛車の横利きを通します。藤井竜王は10分の考慮で金を寄って馬に当てますが、8筋の守りを薄くする手でもありABEMAの解説陣を驚かせます。

佐藤九段の連続王手

佐藤九段は残り10分を切り金取りに馬を寄せますが、藤井竜王は更に金を寄せて2枚の金を連結させて馬に当て返します。藤井竜王が香を取りつつ馬を作ると、佐藤九段は玉頭を歩で叩き、飛車を5筋に回して王手します。藤井竜王が香で合い駒すると、佐藤九段は飛車で香を食いちぎります。

玉が攻撃の拠点!?

この飛車を馬で取って孤立する玉の守りに利かせる方が安全に見えますが、藤井竜王は力強く玉で取り、佐藤九段の銀取りにも構わず更に玉を前進します。佐藤九段は1分将棋になるまで考えて馬で銀を取りますが、藤井竜王は自玉を攻撃の拠点にして銀頭を歩で叩きます。受けが難しくなってきた佐藤九段は、6筋の歩を成って金に当てると同時に馬同士を向かい合わせます。藤井竜王がタダで取れる馬に見向きもせず銀を取り、更に金頭を歩で叩いて追撃すると、万策尽きた佐藤九段は秒読みの声を聞きながら投了を告げました。

まとめ

本局は佐藤九段が得意とする横歩取りに誘導し、藤井竜王も気付いていなかったと言う垂れ歩で主導権を握りました。一手間違えれば一気に形勢に差が付く難しい局面が続きましたが、藤井竜王は正確な応手でリードを奪いました。最後は自玉を戦場に送り込み、攻撃の拠点とする大胆な構想で決着を付けました。
この結果、12月27日に予定されている第二局の勝者が渡辺棋王への挑戦権を得ることになりました。藤井竜王が六冠目への挑戦となるのか、佐藤九段の久し振りのタイトル戦登場となるのか、熱戦を期待したいと思います。

棋王戦コナミグループ杯は、共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「棋王戦の棋譜利用ガイドライン」(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kiou)に従っています。インターネットでの棋譜の利用はすべて「営利を目的とする」ものとみなす(有償)と通知がありましたので、棋譜の利用は断念しています。

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