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「観る将」が観た第80期順位戦B級1組 藤井竜王12回戦

2月3日に順位戦B級1組12回戦、藤井聡太竜王(王位・叡王・棋聖)と阿久津主税八段との対局が行われました。藤井竜王はここまで8勝2敗でトップに立っており、この日の他局を含めた結果により昇級が決まる可能性があります。阿久津八段はここまで3勝7敗と降級圏に入っており、本局に勝って残留に望みをつなぎたいところです。

両者はこれまで2回対局があり、いずれも藤井竜王が勝っています。阿久津八段はこれまで向かい飛車と横歩取りを採用しており、本局にどのような作戦で臨むのか注目されました。

先手の藤井竜王が飛先の歩を突くと、阿久津八段は角道を開け横歩取りに誘導します。藤井竜王が青野流に構えると、阿久津八段は2筋に歩を垂らして先手の陣形を牽制します。水面下に大技の変化が潜む横歩取り特有の駒組みとなり、両者慎重に熟考を重ねて指し進め、藤井竜王が27手目を考慮中に昼休となりました。各6時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が5時間8分、阿久津八段が5時間6分と拮抗しています。

昼休明け、藤井竜王が右桂を跳ねて攻撃の準備を進めると、阿久津八段は角交換して△4四角と打ち先手の飛車を追います。藤井竜王は角を合わせて交換し、▲5五飛と後手の玉頭を睨みます。阿久津八段は1筋の歩を伸ばしますが、藤井竜王は▲7五角と5三の地点への攻め駒を足します。阿久津八段が先手の角道に飛車を寄って守ると、藤井竜王が次の45手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値は藤井竜王の65%と少し傾いてきました。残り時間は藤井竜王が2時間51分、阿久津八段が2時間13分となっています。

夕休明け、藤井竜王は角を飛車と交換し、飛車を8筋に回して飛車成を狙います。阿久津八段は金を寄って防ぎますが、後手陣は7筋が壁になり、金が浮き駒になる苦しい形を強いられます。これを見た藤井竜王が3筋の桂頭を狙って歩を突くと、阿久津八段も歩を打ち返して桂を取り合います。阿久津八段は△1二角と打って先手から飛車を打ち込まれる隙を防ぎつつ、遠く先手陣の金を睨みます。藤井竜王が金を寄って桂による王手金取りを防ぐと、阿久津八段は△4五桂と打って3七の地点を狙います。AIの評価値は藤井竜王の82%と大きく傾いてきました。

藤井竜王が手抜いて▲3四歩と攻め合いを選択し王手で桂を打つと、阿久津八段は銀で桂を食いちぎり△3七歩成と"と金"を作って3筋を突破します。藤井竜王が▲4五飛と桂を取りつつ後手の玉頭に飛車を回すと、阿久津八段は"と金"で金を取って下駄を預けます。藤井竜王は少考で▲3三銀と王手で打ち込み寄せに入ると、飛車を切ってすべての持ち駒を使い切る即詰みに討ち取りました。持ち時間を1時間40分以上残し、順位戦としては異例の21時前に終局という圧勝となりました。

本局は阿久津八段が得意とする横歩取りに誘導しましたが、藤井竜王は隙のない指し回しでわずかにリードを奪うと、着実にリードを拡大し最後は鮮やかな寄せを魅せました。藤井竜王は9勝2敗となり単独トップを維持したまま、最終13回戦の佐々木(勇)七段戦に臨むことになりました。勝てばもちろん昇級が決まりますが、敗れると他局の結果によって昇級を逃す可能性もあり、厳しい戦いが続きます。

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