見出し画像

「観る将」が観た第17回朝日杯本戦 藤井八冠の1-2回戦

1月14日に第17回朝日杯将棋オープンの本戦トーナメントで藤井聡太竜王名人が登場する1-2回戦が名古屋国際会議場で行われました。


1回戦 藤井聡太竜王名人 vs 斎藤慎太郎八段

午前中に行われた1回戦では、前回優勝で本戦から登場の藤井竜王名人と、二次予選で冨田四段と黒田五段を降して本戦に勝ち上がった斎藤八段の顔合わせとなりました。

藤井竜王名人が早繰り銀からの仕掛け

振り駒で先手となった斎藤八段が角換わりに誘導し、藤井竜王名人は珍しく早繰り銀を採用します。両者とも駒組みを進め、藤井竜王名人は7筋の歩をぶつけてから3筋の歩もぶつけ、斎藤八段が飛車を浮いて桂頭を守ると、3筋の歩を取り込んで飛車で取らせてから△2八角と打ち込みます。

両者の馬

斎藤八段は3筋の銀頭を叩いて2筋に引かせ、飛車取りに角を打ち込んで▲4四角成と馬を作ります。藤井竜王名人も香を取って馬を作り、斎藤八段が4筋に桂を跳ねて攻め駒を足すと、4筋に金を上がって馬に当てます。斎藤八段は馬で金を食いちぎり、6筋の歩を伸ばして銀に当てます。

藤井竜王名人の中段玉

藤井竜王名人は銀を5筋に上がってかわし、斎藤八段が▲3三金と打ち込むと、玉を5筋に上がって金に紐を付けます。斎藤八段が金を交換してから▲5三金と王手すると、後手玉はかなり危険な状態に見えますが、藤井竜王名人は△4四玉とかわし、AIの評価値は藤井竜王名人の76%と傾いてきました。

両者とも1分将棋に突入

斎藤八段が3筋の歩を成り捨て、1分将棋に突入してから6筋に銀を上がってぶつけると、藤井竜王名人は3筋の飛頭を歩で叩きます。斎藤八段は王手で銀交換してから飛車を2筋にかわし、藤井竜王名人も1分将棋となり、△3六金と打って飛車を捕獲すると、▲4三銀と打って詰めろを掛けます。

待望の反撃

藤井竜王名人が馬で先手の桂を支える歩を取って上部への脱出路を作ると、斎藤八段は飛車で金を食いちぎってから、取られそうな桂を銀と交換し、更に取られそうな金を6筋に寄って飛車に当てます。藤井竜王名人は飛車を見捨てて玉で銀を取り、斎藤八段が飛車を取ると、△5六桂の王手から待望の反撃です。

鮮やかな寄せ

斎藤八段が銀で桂を食いちぎり、王手で飛車を打ち込むと、藤井竜王名人は玉を3筋に上がってかわします。斎藤八段は自陣に金を投じて粘りますが、藤井竜王名人は香で王手し、合い駒の桂と交換してから8筋に飛車を打ち込んで王手します。斎藤八段が銀で合い駒すると、藤井竜王名人は8筋に歩頭桂を打って空けたスペースに銀を打ち込みます。斎藤八段は7筋に金を寄せて詰めろを逃れますが、藤井竜王名人が△6六銀と詰めろを続けると受けがなく、投了を告げました。

1回戦のまとめ

本局は藤井竜王名人が仕掛け、斎藤八段は攻めを催促される展開になりました。後手玉は薄く一手間違えればすぐに詰まされてしまう状況でしたが、藤井竜王名人は正確な受けで凌ぎ、反撃に転じると鮮やかに寄せ切りました。

2回戦 藤井聡太竜王名人 vs 増田康宏七段

午後に行われた2回戦は、前回も2回戦で顔を合わせ、昨年度の名局賞特別賞を受賞した激戦を繰り広げた藤井竜王名人と増田七段の再戦となりました。今回、増田七段も本戦からの出場で、1回戦では及川七段を退けています。

戦型は角換わり

振り駒で先手となった藤井竜王名人が角換わりに誘導し、いったん相腰掛け銀の形になってから、お互いに銀を6筋に引いて5筋の歩を突き合います。藤井竜王名人が5筋に飛車を回して歩を交換すると、増田七段は手順に雁木の形に組み直します。

増田七段の仕掛け

藤井竜王名人は少し時間を使って5筋に銀を上がり、増田七段が3筋に桂を跳ねると、飛車を2筋に戻して飛先の歩を交換します。増田七段は2筋を受けずに7筋の歩をぶつけ、藤井竜王名人が銀を6筋に引いて受けると、少考して7筋の歩を取り込んでから2筋に歩を打って飛車を追い返します。

難解な中盤戦

増田七段は8筋の歩を突き捨て、藤井竜王名人が銀で取ると、9分程考えて6筋の歩をぶつけます。取ると王手金取りがあるので、藤井竜王名人は6分程考えて1筋の歩をぶつけ、増田七段が3筋の歩をぶつけると、4筋の歩をぶつけます。歩が4か所でぶつかる難解な局面となり、お互いに少しずつ時間を使ってバランスを保っています。

2度に渡る桂交換

増田七段が4筋の歩を桂で取ると、藤井竜王名人は桂交換に応じてから、5筋に桂を打って後手の銀頭を狙います。増田七段が銀頭に桂を打ち返して再度交換すると、藤井竜王名人はじっと金を5筋に上がります。増田七段は空いたスペースに△4八角と打ち、1分将棋に突入した藤井竜王名人が歩で金を支えると、銀取りに△6四桂と打ちます。

増田七段の馬

藤井竜王名人は歩で銀を支え、増田七段が3筋に角を成って馬を作ると、銀を後手の桂が効いている6筋に上がります。増田七段が△3八馬と飛車に当てると、藤井竜王名人は飛車を6筋にかわします。増田七段も1分将棋となり、銀桂交換してから、取られそうなもう1枚の桂を5筋に逃がすと、藤井竜王名人は押さえ込まれそうな飛車を浮きます。増田七段が銀を5筋に上がって攻め駒を足すと、藤井竜王名人は4筋に桂を打って銀に当てます。

激しい駒の取り合い

増田七段は飛頭を歩で叩き、藤井竜王名人が王手で▲7五角と打つと、玉を3筋に上がってかわします。藤井竜王名人は飛頭の歩を金で取り、増田七段が角取りに銀を7筋に上がると、桂で5筋の銀を取ります。増田七段は角銀交換してから5筋の桂を取り返し、藤井竜王名人が3筋の歩を取り込むと、攻防に△3六角と打ちます。ここまでほぼ互角の範囲で揺れていたAIの評価値は、藤井竜王名人の66%と傾きます。

増田七段の中段玉

藤井竜王名人は5筋に金を上がって攻め駒を足し、増田七段が5筋に2枚目の馬を作って飛車に当てると、▲3四銀と王手します。増田七段は玉を2筋に上がってかわし、藤井竜王名人が玉頭にもう1枚の銀を打って王手すると、馬で取って銀2枚と交換します。後手玉は中段に逃れ、AIの評価値は増田七段の62%と逆転模様です。

後手玉を押し戻す藤井竜王名人

藤井竜王名人が▲3四角と王手すると、玉で3筋の歩を取って入玉を目指すのも有力だったようですが、先手の攻め駒に近づく危険な手でもあり、増田七段は玉を引いてかわします。藤井竜王名人は金を4筋に寄せて上部脱出を阻み、増田七段が金取りに銀を打つと、玉頭に歩を打って王手します。増田七段は玉を3筋に引いてかわしますが、AIの評価値は藤井竜王名人の74%と再逆転しています。

藤井竜王名人が飛車切りの踏み込み

藤井竜王名人は4筋に桂を打って後手の守りの金に当て、増田七段が金を4筋にかわすと、更に金頭を歩で叩いて引かせてから、取られそうな金を引いて銀に当て返します。増田七段がもう1枚の銀を打って銀に紐を付けると、藤井竜王名人は▲4七同飛と食いちぎります。増田七段は馬を飛車と交換してから△6九銀と打って攻め合い、藤井竜王名人が金で自玉を脅かす5筋の桂を取ると、飛車を打ち込んで詰めろを掛けます。

増田七段の勝負手

藤井竜王名人は6筋に桂を打って後手の飛車の横利きを緩和し、増田七段が銀取りに6筋に桂を打つと、銀を前進してかわします。増田七段は8筋に歩を合わせてから、銀で2筋の歩を取ってタダ捨てする勝負手を放ちます。藤井竜王名人は角で取り、増田七段が8筋の飛車を走って王手金取りを掛けると、玉を9筋に上がって飛車に当てる顔面受けでかわします。増田七段は桂を取りつつ竜を作って詰めろを掛けますが、藤井竜王名人は▲3四銀と打って即詰みに討ち取りました。

2回戦のまとめ

本局は増田七段が用意していたという作戦に誘導し、中終盤まで難解な局面が続く激戦となりました。増田七段は玉を中段に逃れて優勢の局面もありましたが、藤井竜王名人は角の王手で後手玉を押し返しました。最後は増田七段の勝負手でギリギリの寄せ合いとなりましたが、藤井竜王名人は正確に対処し143手の熱戦を制しました。1分将棋の中、2年続けて白熱の攻防を繰り広げた両雄に、会場からは温かい拍手が贈られました。

藤井竜王名人は2月10日に行われる準決勝に駒を進めました。対戦相手はまだ決まっていませんが、熱戦を期待したいと思います。

朝日杯将棋オープン戦は、朝日新聞社と日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「朝日杯将棋オープン戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#asahi_cup)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?