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「観る将」が観た第48期棋王戦挑決トーナメント 阿久津八段vs里見女流五冠

8月15日、棋王戦コナミグループ杯挑戦者決定トーナメント2回戦、阿久津主税八段と里見香奈女流五冠の対局が行われました。阿久津八段は挑決トーナメントからの出場で、1回戦では屋敷九段を破って勝ち上がりました。注目の里見女流五冠は予選から出場し、澤田七段や池永五段らの実力者を倒し、決勝では古森五段を降して女性では初めての本戦出場を果たしました。挑決トーナメントは2回戦からの出場となっています。古森五段に勝った時点で得た棋士編入試験受験資格を行使し、8月18日に第一局が行われることでも注目を集めています。

里見女流五冠の中飛車

振り駒で先手となった里見女流五冠は、初手に迷わず5筋の歩を突き得意の中飛車に振ります。里見女流五冠が美濃囲いに構えると、阿久津八段は△4四銀と繰り出します。里見女流五冠が34分の熟考で3筋の歩を突いて自玉のコビンを開けると、阿久津八段は次の24手目を50分以上考え、そのまま昼休となりました。AIの評価値はほぼ互角、各4時間の持ち時間の内、残り時間は阿久津八段が2時間55分、里見女流五冠が3時間20分となっています。

長考の応酬

阿久津八段が昼休を挟む65分の長考で6筋の歩を突くと、里見女流五冠は更に40分考えて4筋の歩も突きます。阿久津八段が7筋の歩を突き、里見女流五冠は右桂を跳ねます。阿久津八段が30分の熟考で右桂を跳ねると、里見女流五冠は4筋の歩を突いて後手の銀を追い返してから、▲5九銀と引きます。阿久津八段が32分考えて△6五桂と跳ねると、里見女流五段は銀を引いて空けたスペースに▲6八角と引きます。阿久津八段がすぐに△1三角と覗いてぶつけると、AIの評価値は阿久津八段の61%と少し傾いてきました。

銀を犠牲に馬

里見女流五冠は角交換に応じてから5筋の歩を突き捨て、▲4八銀と上がって陣形を整えます。阿久津八段は銀を上がって5筋の歩を支えますが、里見女流五冠は空いたスペースに飛車取りで▲7三角と打ち込みます。阿久津八段は飛車を引いて逃れますが、里見女流五冠は▲9五角成と馬を作って後手の飛車先突破を防ぎます。阿久津八段は△2四銀と上がってから△2二角と打ち、里見女流五冠に歩で銀を取らせる代わりに△9九角成と香を取って馬を作ります。

阿久津八段が攻勢

歩切れの里見女流五冠は▲6八馬と引いて守りを固めますが、阿久津八段は悠々と馬で桂を拾います。里見女流五冠は6筋の歩を突いて桂を取りにいきますが、阿久津八段は構わず馬銀両取りに△5六桂と打ちます。里見女流五冠は▲4六馬とかわしますが、阿久津八段は銀桂交換してから桂取りをかわして△7七桂成と成り込みます。

里見女流五冠の反撃

里見女流五冠は▲2六桂と据え、3筋の歩を交換して歩切れを解消します。阿久津八段は飛車取りに△6七成桂と寄り、飛車を引かせて△8八馬~△6六馬と要所に引き付けます。里見女流五冠は▲6八歩と打って成桂を追い、金を自玉に近づけて守りを固めます。阿久津八段も玉を5筋に逃がしますが、里見女流五冠は▲5六金と上がって馬を追い、後手の玉頭から攻め掛かります。阿久津八段は丁寧に受け、里見女流五冠が▲3四桂と跳ねると△3一香と打って桂香交換します。里見女流五冠は▲5六香と攻め駒を足しますが、阿久津八段は△4二桂と守り駒を足します。

激しい攻め合い

両者とも残り時間が10分を切り、後手の玉頭で激しい戦いが続きます。里見女流五冠は▲6四金~▲5三金と金を交換しますが、阿久津八段は△4四金と打って馬を追い、△6八成桂と飛車に当てます。里見女流五冠は飛車を見捨てて▲4五歩と打ち後手陣の金を剥がします。阿久津八段も△2六歩と攻め合いますが、里見女流五冠は▲6二歩成と金を取って後手玉に迫ります。阿久津八段は△2七歩成と銀を1枚剥がしてから△6二銀と"と金"を取ります。里見女流五冠は▲4四歩~▲5四香と後手玉を追いますが、阿久津八段はするする△6四玉とかわします。AIの評価値は阿久津八段の83%と大きく傾きました。

両者1分将棋の激闘

里見女流五冠は▲7七金とタダ捨ての勝負手を放ちます。阿久津八段は取れる金を取らずに△2六歩と金頭を叩きます。1分将棋に突入した里見女流五冠は同金と取りますが、阿久津八段は攻防に△6八飛と打ちます。里見女流五冠が歩で王手を逃れると、阿久津八段も1分将棋となり、△7七馬と金を取ります。阿久津八段が△5八飛成と王手すると、里見女流五冠は馬と交換しますが、後手玉に迫る足掛かりがなくなります。先手玉には即詰みが生じたようで、阿久津八段が△3八金と王手すると、里見女流五冠は静かに投了を告げました。

まとめ

本局は序盤に里見女流五冠が工夫の駒組みを見せ、阿久津八段は持ち時間を削られながらも銀を犠牲に馬を作り、拾った桂香を使って攻勢を掛けました。里見女流五冠は辛抱して陣形を整備してから反撃しましたが、阿久津八段は丁寧に受けながら攻め合いに持ち込み、最後は鮮やかな即詰みに討ち取りました。中盤以降、AIの評価値は終始阿久津八段に振れていましたが、阿久津八段自身が対局後に「苦しい時間が長かった」と話した通り、里見女流五冠の攻めには一手間違えれば逆転という迫力がありました。
女性として初めて本戦に進出した里見女流五冠の、今期の棋王戦での快進撃は止まりましたが、8月18日にはいよいよ棋士編入試験の第一局が行われます。どのような結果になるのかわかりませんが、里見女流五冠が自らの力を出し切って戦う姿を楽しみにしたいと思います。

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