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ABEMAトーナメント2023の振り返り

半年に渡り観る将を楽しませてくれたABEMAトーナメント2023が、チーム永瀬の優勝で幕を閉じました。現役最年少の藤本四段が渡辺名人(当時)を破る衝撃のデビューを飾ったり、藤井竜王名人が斎藤(慎)八段に鮮やかな即詰みで大逆転勝利したりと、記憶に残る熱戦が多い大会だったと思います。


優勝チームと準優勝チーム

優勝:チーム永瀬
私はドラフト直後に優勝候補筆頭に挙げましたが、順当に頂点に立ったという印象です。特に永瀬王座の勝利への執念は凄まじく、本大会用に研究したと思われる公式戦ではあまり指さない後手番の横歩取りを連採し、徹底的に石橋を叩いて渡る将棋で白星を重ねました。増田七段と本田六段は先手番の対局が多くなり、チーム全体の勝率アップの要因になったと思います。

準優勝:チーム稲葉
同一メンバーでの2年連続優勝は惜しくも成りませんでしたが、他チームからマークされる中での準優勝は立派な成績だと思います。チーム恒例となった連投連勝は、団体戦における流れとか勢いの重要性を再認識させるものとなり、特に準決勝での4連敗後の5連勝は、このチームの強さを示すものだったと思います。

個人賞

今回から設けられた個人賞は、以下の通り決まりました。

最高勝率賞:羽生善治九段(100%、6勝0敗)
過去3年は5割に満たない成績でしたが、今大会では見違えるような安定した成績で若手を牽引し、予選突破に大きく貢献しました。次点の藤井竜王名人は、9局目まで全勝でしたが、10局目に敗れて受賞を逃しました。

最多対局賞、最多勝:永瀬拓矢王座(16局、13勝)
唯一6試合を戦ったチーム永瀬で、獅子奮迅の活躍を見せたリーダーがダブル受賞となりました。次点の稲葉八段は決勝で力尽き、14局で10勝でした。

敢闘賞(初出場者の中で最高勝率):
澤田真吾七段(60%)

初出場とは思えない指し回しを見せ、チーム藤井のベスト4進出に大きく貢献しました。次点の藤本四段は56%で惜しくも受賞を逃しましたが、チーム千田の予選突破の原動力となる活躍でした。

予選最高成績賞(予選を通じて最多勝、同数の場合は最高勝率):
藤井聡太竜王名人(5勝0敗、100%)
前回大会では振るいませんでしたが、今大会では本来の実力を発揮しチームを予選突破に導きました。次点の稲葉八段は5勝1敗でした。

今大会で生まれた記録

4連敗後の5連勝:チーム稲葉
準決勝第二試合で、四局目まで4連敗して絶体絶命となりましたが、稲葉八段が連投連勝、出口六段も連投連勝、決着局は服部六段が制して、大会初の4連敗後の5連勝となりました。

ABEMAトーナメント2023の総括

ABEMAトーナメントが団体戦形式になって4年目を迎え、将棋界にもフィッシャールールが浸透したきたのか、チーム間の差が小さくなってきたように思います。象徴的なのは、フルセットの試合数が以下の通り増えてきています。

第3回:1試合(本戦9試合中)
第4回:3試合(予選/本戦24試合中)
第5回:7試合(予選/本戦24試合中)
2023:9試合(予選/本戦24試合中)

(筆者集計値)

そんな中、リーダーの勝敗がチームの勝敗に直結しているようで、予選敗退の5チーム中、4チームはリーダーの負け越しが響きました。フィッシャールールでは調子の良し悪しもあるようで、前回大会では不振でも今大会では大活躍する棋士がいる一方で、前回大会で活躍しながら今大会では星が上がらなかった棋士もいました。
もう一つ今大会の特長として、新人の活躍が挙げられると思います。昨秋にデビューしたばかりで、ドラフト時点ではまだ対局数が10局に満たなかった藤本四段と齊藤(裕)四段が指名を受けましたが、両者とも相手リーダーからの勝ち星を含め5割前後の成績を残しました。ともにサプライズ指名という印象もありましたが、見事に戦力としての役割を果たし、チームの予選突破に大きく貢献する活躍でした。
ABEMAトーナメントは来年も開催されると思いますが、誰が誰を指名し、どんなドラマが生まれるのか、今からとても楽しみです。

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