見出し画像

本人は「うつ」がつらく、家族は「躁」がつらい。知っておきたい双極性障害のこと

翔泳社より、5月19日(木)に『これだけは知っておきたい双極性障害 躁・うつに早めに気づき再発を防ぐ! 第2版』が発売となりました。

双極性障害の国内研究の第一人者である加藤忠史先生(順天堂大学医学部精神医学講座主任教授)が順天堂大学の臨床現場に移られ、そこで得た最新の知見や新薬の情報などを加えて改訂したのがこの第2版です。

今回本書から、「PART2 本人は「うつ」がつらく、 家族は「躁」がつらいのです」を抜粋して紹介します。双極I型の3人、双極II型の1人のケースを通し、当事者が何に苦しみ、周囲の人が何に困っているのかを俯瞰で知ることができます。

◆続編『もっと知りたい双極性障害』も発売中

1 双極I型 Aさん(33歳・男性)の場合

最初は、躁状態によりハイテンションになり、職場でトラブルを起こしてしまったAさんのケースを見てみましょう。

言葉も態度も尊大になったAさん

その後のAさんは……

温和だったAさんが暴言を吐き、社長に対しても高飛車な態度で直談判したことに上司は驚き、Aさんの様子が普通ではないと感じました。

家族と相談し、上司と家族が一緒になって根気強く説得を続けた結果、ようやくAさんは精神科の受診を承諾、そのまま入院となりました。入院治療によってAさんの躁状態はおさまり1か月後に退院。

その後、しばらく自宅療養したのち職場復帰することができました。今は、定期的に精神科を受診して、トラブルもなく仕事を続けています。

2 双極I型 Bさん(22歳・女性)の場合

躁状態では買い物やギャンブルなどで浪費や散財をくり返して、経済的なトラブルを起こすことも多いものです。Bさんもその一人です。

激しい浪費が止まらないBさん

その後のBさんは……

うつ状態におちいったBさんは、自分を責めました。心配した両親はBさんに強く受診を勧めました。Bさんは受診を承諾し、両親と一緒に精神科へ。診察の結果、双極I型と診断されました。

治療を続けるうちに気分も安定しました。主治医の勧めで、再発の予兆にどんなものがあるかを家族と話し合い、両親には「インターネットでの買い物が1間に2回以上続いたら病院に行く」と約束をしました。

財布には現金を多く入れないよう心がけ、クレジットカードも親に預けました。今は、普通の状態に落ち着いています。

3 双極I型 Cさん(43歳・男性)の場合


躁状態が悪化すると、妄想や幻聴が起こることがあります。ここに紹介するCさんも、誇大妄想によって家を飛び出してしまいました。

誇大妄想から家を飛び出したCさん

その後のCさんは……

Cさんは、薬の服用を中断し精神科の受診もやめてしまったあと、躁状態になってしまいました。心配した家族が受診を勧めてもCさんは「自分は病気ではない」と、受診を拒んでいたのです。

しかしこのたびのことがあってから、Cさんはようやく自分は双極性障害であることを受け入れることができました。症状がおさまっても受診し、再発予防のためにも薬の服用を中断しないことを家族と約束しました。

Cさんは、入院に際して仕事をやめてしまいましたが、躁・うつのエピソードに翻弄されることもなくなった今は、再就職を目指して、就労移行支援事業所に通う毎日です。

4 双極II型 Dさん(36歳・女性)の場合

軽躁状態では本人も周囲も病的だと思わず、ただの「好調な時期」ととらえがちです。Dさんも、まさか自分が双極性障害とは思ってもいませんでした。

双極II型と診断されたDさん

その後のDさんは……

Dさんは思いきって精神科を受診し、セカンドオピニオンを受けました。精神科医に問われるまま「うつ病から抜け出すと、とても元気になり、人がかわったかのようだと言われる」と話したところ、多くの症状項目について詳しい問診を受け、その結果、双極II型の可能性が高いと診断されました。

医師との会話の中で、抗うつ薬の中には、双極性障害を悪化させるものがあること(急速交代型)も知りました。Dさんは精神科への転院を決め、抗うつ薬をやめてリチウムの服用を始めました。

リチウムを服用するようになると、気分も安定して、つらかったうつ状態の落ち込みも少なくなってきました。

躁状態では家族が激しいストレスを感じます

躁状態になると気分が高揚し、欲求のおもむくまま突っ走ります。常軌を逸した言動に家族は振り回され、傷つき、経済的にも不利益をこうむります。

多くの場合、本人は躁状態を「本当の自分の姿」だと思っています

躁状態のとき、本人は、大変調子の良い状態だと感じています。「これまでの自分は間違っていた。やっと本当の自分になれた」と思っていることも少なくありません。

周囲から見れば突飛な行動も、本人は「正当な理由で行動している」と思い込んでいますから、家族が行動を止めたりいさめたりすれば、烈火のごとく怒りだします。病院の受診を勧めても、頑として聞き入れません。

自分でもコントロール不能な状態になります

お金を湯水のように使ったり、不特定多数の人と性的な関係をもったり……。躁状態の患者さんは、なんの歯止めもなく突っ走ります。家族や周囲はそれに巻き込まれ、翻弄されて大変苦しみます。

またしゃべりたい欲求が強まって、機関銃のようにしゃべり続けたり、ときに暴言を吐くこともあります。暴言の内容が事実に反していたり支離滅裂であれば、家族も「病気が言わせている言葉なんだ」と思うことができるかもしれません。

しかし、躁状態の患者さんの難しいところは、「事実に反することではないけれど、通常はそこまでは言わないだろう」ということを言いたてて、家族を激しく責めたりすることです。このことが家族の心を傷つけます。

また、破産や失職など、家族は経済的にも大きな不利益をこうむることになります。しかし、治療には患者さんと家族がともに病気と向き合うことが必要です。家族の理解と支えがあれば、患者さんの病状が安定します。

本人と家族は「うつ」と「躁」の受け止め方が違います

本人と周囲とでは「躁」と「うつ」の感じ方が異なります。認識のズレを互いに理解していないと、ストレス→病状悪化の悪循環におちいります。

本人は躁状態を軽く考える傾向があります

躁状態とうつ状態の受け止め方は、家族と本人との間に大きなギャップがあります。本人にとって躁状態のときは、「本来の明るい自分にやっと戻れた」という認識ですから、特にトラブルを起こしているとは思っていません。

うつ状態のときは、うつがつらいことを強く訴えますが、躁状態のときの言動に対しては、軽く考えてしまうのが普通です。しかし家族や周囲は、躁状態のときの本人の言動にとても大きなストレスを感じます。常軌を逸した言動と次々に起こすトラブルに振り回されて、家族はヘトヘトになります。

本人にとっては、何よりうつ状態がつらいもの

一方、うつ状態では双方の受け止め方が正反対になります。本人がうつ状態のときは、躁状態のような派手なトラブルを起こさないため、家族や周囲はうつ状態を軽くみてしまう傾向があります。

しかし、本人にとっては、死にたいと思うほど毎日つらい日々が続きます。「取り返しのつかないことをしてしまった」など、周囲が考える以上に自分を激しく責めて、重い罪の意識にさいなまれることもあります。また「もう生きていけない」と思い詰めることもあります。患者さんの間ではよく「つらいのはうつ、怖いのは躁」と言うそうです。

このように、家族と本人のお互いの認識に大きなギャップがあることを理解することで、双方の受け止め方もまた、かわってくるはずです。

再発を防いで自分の人生を取り戻しましょう!

双極性障害は、本人が病気を十分に受け入れずに、寛解期(病状が落ち着いている期間)に治ったと思い込んで服薬を中止したりすると再発し、再び躁状態とうつ状態をくり返すことになってしまいます。

最初は家族も一時の病気として本人をサポートしようと思えるかもしれませんが、躁状態がたび重なると家族はその対応に疲れ果ててしまいます。

職場でも行きすぎた行動や長期の休職が重なれば、重要な仕事を任せてもらえなくなるばかりではなく、失職の危機にもつながります。

このように双極性障害はコントロールしないと、患者さんの社会生命を脅かしかねない病気です。しかし一方で双極性障害の治療法は確立していますから、病気をコントロールしさえすれば、双極性障害をもっていること自体は社会生活の障害にはなりません。毎日薬を飲む以外は、病気のことなど忘れて普通に生活を送ることができるのです。

双極性障害という病気に振り回されないためには、治療を早期に開始し治療を継続しながら再発予防に注意を払うことが何より大事です。そのためにも、本人も家族も双極性障害について理解を深めましょう。


よろしければスキやシェア、フォローをお願いします。これからもぜひ「翔泳社の福祉の本」をチェックしてください!