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目の病気は早期発見が大事! 異常がないかチェックできるアムスラーチャートの使い方

最近、目がかすむ。なんだか目が痛い。視界が欠けていたり、歪んでいたりする。

こうした症状は目の病気に関する兆候ですが、実は自覚できる状態になってからだと病状がかなり進行しているケースが少なくありません。普段から健康に気を遣っていて、違和感があってからすぐに診察を受けたつもりでも失明寸前の場合があるそうです。

どうしてそうなってしまうのでしょうか。

これまで10万人以上の治療に携わってきた眼科専門医の平松類さんは著書『「マス目」で気づく目の病気 視力を一生守るための簡単チェック&ケア!』(翔泳社)で、「目に問題があれば、痛みや何かしらの症状が出て気づくだろう」といった勘違いがあることを強調します。

実際には症状が出てからだと遅いのです。だとすれば、目の病気は早期発見するのが鍵。平松さんはそのチェックに役立つ「アムスラーチャート」の使い方を本書で説明してくれています。

アムスラーチャートは中央に○が描かれた正方形の方眼紙です。その見え方によって緑内障や糖尿病網膜症(黄斑浮腫)などの病気の兆候を判別できます。もちろん100%正確ではありませんが、手軽にセルフチェックできるのがポイントです。

平松さんがアムスラーチャートの利用を推進するのは、父親がたまたま雑誌で見かけたアムスラーチャートで緑内障を早期発見し、治療して視力を守れたからだそうです。

自覚症状はたしかに心身からの重要なサインですが、それだけに頼ると思いがけないことが起きてしまいます。

そこで今回は、本書からアムスラーチャートの使い方が解説された「3章 実践・アムスラーチャートの使い方」を抜粋して紹介します。視力検査だけでは見つからない病気の兆候を掴むべく、ぜひ活用してみていただければと思います。

以下、『「マス目」で気づく目の病気 視力を一生守るための簡単チェック&ケア!』から「3章 実践・アムスラーチャートの使い方」の一部を抜粋します。掲載にあたって編集しています。

チェックの精度を上げる正しい使い方

アムスラーチャートは、目の病気に関するセルフチェックの方法として紹介されることが多いので、テレビや新聞、雑誌などで見たことがある人もいるのではないでしょうか。

実際に、チャートを切り取って試した経験もあるかもしれません。しかし、たいていの人は一度チェックしただけで終わっていたり、チェックの仕方を間違えていたりします。正しく使えていないために、チャートの効果を発揮できていないことも多く、それはとてももったいないことです。

まずは、アムスラーチャートを正しく使うための、5つのポイントを押さえましょう。

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アムスラーチャート。この図を目から30cm離した状態で、片目ずつ眺めてください。目線を中央の○に固定したまま、その周りのマス目模様がどのように見えるかチェックしましょう。

ポイントの1つ目は、「片目ずつチェックする」こと。両目で物を見ると、互いに見え方を補い合うので異常に気づきにくく、病気の兆候を見逃してしまいます。必ず、右目をつぶって左目、左目をつぶって右目、というようにチェックしましょう。もし、片目ずつつぶるのが難しい場合は、手で隠してください。

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2つ目は「矯正した視力で見る」こと。近視などで眼鏡やコンタクトレンズを使っている人、老眼で老眼鏡を使っている人は、それらを装着した状態でチャートを見てください。本書に載っているアムスラーチャートなら、目から30cm離した位置で見るようにします。

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 3つ目のポイントは、「中央の○を見つめる」。チャートを見る時の目線は、中央の○印に固定してください。右目で真ん中の○を見つめ、その時、周りの格子がどう見えるかを確認します。どこかが欠けていたり、線が歪んでいたりしないでしょうか。次に、右目をつぶって左目だけで○を見つめます。格子の見え方に異常はないか確かめましょう。

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4つ目のポイントが、「定期的にチェックする」ことです。せっかくアムスラーチャートの存在を知って見え方をチェックしても、「とくに異常はなかった。あぁ、よかった」と、その1回で終わってしまう人が多いのです。思い出した時にチェックするという人もいますが、チェックのタイミングが不定期だと、前回の見え方との比較がしづらかったり、長期間チェックしないことで病気に気づくのが遅れたりする可能性があります。

そして、 5つ目が「毎回、同じ環境でチェックする」こと。チェックをする場所は、毎回同じにしましょう。前回は台所で、今日はリビングで……と環境を変えてしまうと、部屋の明るさも違いますし、異常に気づきにくくなってしまいます。たとえば、本書のチャートを切り取って冷蔵庫に貼っておいたり、本書をどこか決まった場所に置いておくなどして、毎回チェックします。

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そして、チェックをする時間帯も、朝起きてすぐ、夕食の後、就寝前などと決めておきましょう。チェック自体は数分もかかりません。朝はなかなか時間が取れないという人でも、「朝食をとった後に、食器をキッチンに運ぶ際に冷蔵庫の前でチェック」などと決めておくと、続けやすいのではないでしょうか。

就寝前にチェックする場合は、暗い寝室でおこなうのは避けましょう。部屋が暗いとアムスラーチャート自体がはっきり見えず、異常を見逃してしまいます。電気をつけて、明るくして実施してください。また、自分の影がチャートにかからないように注意しましょう(影で暗く見えるのか、目の異常で暗く見えるのか、判別できなくなります)。

アムスラーチャートを使うタイミング

「定期的にチェックといっても、どのくらいの頻度で?」と疑問に思った人もいるでしょう。あなたが40代くらい、または、とくに目の病気を指摘されておらず、予防的にチェックするという場合は月に1回で大丈夫です。

でも、1か月も間があくと、次回チェックすることを忘れてしまうかもしれません。そこで、「だいたい月に1回」ではなく、「毎月同じ日」にチェックするようにしましょう。

たとえば、10月10日は「目の愛護デー」なので、「毎月10日」にするというのはどうでしょうか。1月10日、2月10日、3月10日……と、「毎月10日は目のチェックの日」としておきます。ちなみに、この日にはアムスラーチャートのチェックだけではなく、眼鏡やコンタクトレンズなどのチェックもおこなっておくとよいです。

見逃してはいけない異常とは?

アムスラーチャートで見え方をチェックする時、見逃してはいけない異常があります。明らかに全体的に欠けている、歪んでいるという場合は、念のために眼科で診てもらいましょう。

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しかし、「線の一部が欠けているような気がする」「歪んでいるかも?」といった程度であれば、数日間確認してみてからで大丈夫。何度チェックしてみても、やはり異変を感じる、となった段階で眼科を受診します。

では、もし異常があらわれたら、それは必ず病気の兆候なのでしょうか? 実は、そういうわけでもありません。「線が歪んでいるように見える」「消えているように見えた」と病院に来たものの、検査してもとくに異常は見当たらないという場合もあります。

ある雑誌でアムスラーチャートのことを知って、早速試してみたという60代の女性が、私の病院に来られました。「左目は普通に見えたけれど、右目は一部が欠けているようだ」とのこと。「もしかしたら、緑内障なので……」と心配になって診察にいらしたのです。調べてみると、緑内障はなく、その他の異常も認められませんでした。

女性は、ほっと胸をなでおろすとともに、「でも、何で異常が出ちゃったんでしょう? 心配して損しちゃった」とおっしゃいます。確かに、心配で検査までしたのに何もなかったというのは、拍子抜けかもしれません。実際に、気にしすぎたり、強く思い込んだりすることで、病気ではないのにアムスラーチャートで異常があるように見えてしまう人もいます。
 
でも、セルフチェックというのは、100%正確に判断するためのものではありません。異常が検出されたけれど、きちんと調べてもらったら問題なかったというのは、よいことなのです。

だからといって、「なんだ、精度はそんなに高くないのか」と何のチェックもしなければ、病気になっても重症化するまで気づかない、ということになりかねません。目の病気は自覚症状があらわれにくいのですから。

チャートでチェックしたら記録を残しておく

アムスラーチャートを片目ずつ眺めてみて、とくに異常がなければ、そのままチェック終了でもかまいません。もし、見え方で気になることがあったら、それを記録に残しておきましょう。

記録には、白地に黒い線で描かれたアムスラーチャートを使用します。ちなみに、医療機関でアムスラーチャートの検査をする時は、下記のような、左右の目の見え方をそれぞれ記入できる用紙を使うことが多いです。

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たとえば、歪みや欠けを感じても、「ここからここまでが、くっきり歪んでいる」などと明確なものではない場合が多いです。「何となく、上のほうが歪んでいる気がする」「左下が欠けているかな?」といった具合にあいまいです。あいまいなままでかまわないので、それを記入します。

「右から何マス目が歪んでいて……」というように、厳密に書き留めたくなるかもしれませんが、マス目を数えようとすると目が中心から動いて、かえって不正確なチェックになってしまいます。自分の感覚を大切にして、それを落とし込むという書き方をしましょう。
 
次の月にチェックする時にも同じように記録をとって、前回との比較をします。急な進行が見られたら、早めに眼科を受診しましょう。

すでに目の病気がある場合は毎日チェック

予防的なチェックは月1回で十分ですが、すでに眼科を受診して目の病気の診断を受けている場合は、1~2週間に1回くらいのペースでアムスラーチャートのチェックをするのをおすすめします。

また、アムスラーチャートのチェックでも異常があらわれている場合は、毎日チェックしましょう。そうすることで、さらなる悪化が起きていないかを確認することができます。
 
アムスラーチャートは、「目の病気になっていないか?」というチェックと同時に、「目の病気が悪化していないか?」というチェックにも使えるものなのです。とくに黄斑変性や黄斑浮腫などの場合は、アムスラーチャートで早く異変に気づき、さらなる悪化を食い止めることができます。
 
では、もし病気が悪化しているように感じたら、どうすればいいでしょうか? アムスラーチャートの見え方が、以前と明らかに変化していたら、早めに眼科にかかりましょう。翌診療日で結構ですから、主治医に相談してください(夜間の緊急外来に慌てて行く必要はありません)。
 
「悪くなった」とは言い切れないが、悪化している気がして心配という場合は、もう2~3日様子を見てください。アムスラーチャートのチェックを2~3日続けても「やっぱり悪くなった気がする」と感じるのであれば病院に行きましょう。

受診する時は、チェックの際に記録したアムスラーチャートのメモを持参してください。

自覚症状がなくても、眼科に行って大丈夫?

毎月、アムスラーチャートをチェックしていたら、初めて異常があらわれた。でも、目が痛いとか、見えづらいといった自覚症状はない― こんな時、「病院にかかっていいのかな?」と心配になることでしょう。

異常があるように感じたのは気のせいで、病院で調べたらまったく問題がなかったり、あってもごく軽い状態だったりしたら、「この程度で病院に来たの?」と思われるのではないかと不安になります。
 
もし、アムスラーチャートや視力表のセルフチェックで異常が出た場合は、変な言い方かもしれませんが、自信を持って受診してください。「普段の生活に支障が出ていない=症状がない」と思われがちですが、それは間違いです。生活に困らない程度だとしても、歪んで見えたり、そのことが気がかりになっているなら、立派な「症状」です。

そして、経験のある医師なら、「患者さんは『大したことではない』と思っていたが、診察してみたら実は重大な病気だった」というケースに少なからず遭遇しています。通常の診療時間内であれば、堂々と受診していいのです。

また、セルフチェックで異常が出なければ病院にかかってはいけない、というわけでもありません。たとえば、「緑内障になった家族がいるから自分も心配で……」「お友達が目の病気で見えなくなってしまって、私も大丈夫なのか気になって……」という場合でも、眼科で相談するのはよいことです。


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