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英語に強い子になってもらうには? 英語力に自信のない人のための子育て術

英語を使えれば世界中の人とコミュニケーションができ、人生の選択肢が大幅に増えるのは誰もが理解しているところ。

我が子にも英語に強くなってもらいたいと考える方は多いと思いますが、自分の英語力に自信がない場合、どのように子育てをし、英語学習をさせればいいのか難しく感じるのではないでしょうか。

今回はそんな方のための本、『小学生で高校卒業レベルに!英語に強い子の育て方 0~9歳児の親が今できるすべてのこと』(翔泳社)を紹介します。

本書は、東京で小学生向けの英語教室を主宰したのち、2022年からシリコンバレーに移住した江藤友佳さん。移住するまでは、日本でバイリンガル子育てに挑戦されていました。

江藤さんの英語教室では、小学生のうちに英検2級を取得することを推奨して指導していました。それは学習成果の可視化と英検が「次にやりたいことのための切符」になる可能性を考えてのこと。つまり、「英語""学ぶ」から「英語""学ぶ」ことへステップアップできるということです。

本書ではそんな江藤さんの指導や子育ての方針をもとに、英語教育の心構えや具体的な方法が紹介されています。例えば、自宅の学習環境の整え方や、聞く・読む・書く・話すといった英語力のつけ方、そして英検に合格するための準備方法も。

この記事では、英語に自信がない方がどのような考え方で英語教育をすればいいのかが分かる「第1章 現実的な英語習得目標を 理論から考えよう」を抜粋します。

まずは不安を払拭し、何から取り組めばいいのかを知っていただければと思います。

英語教育を始めるのは早ければ早いほどいい?

私自身は幼稚園以降に英語に触れ始めましたが、アメリカで過ごした期間が長いため、高い英語力が身につきました。当たり前のようですが、「英語を使う時間数」が英語力に影響します。我が家では日本での子育てだからこそ、英語に触れる総時間数を意識してきました

では、どれだけの学習時間が必要なのでしょうか。大人の外国語学習に必要な時間数に関する有名な研究データがあります。子どもを対象とした研究ではないのですが、参考になります。

外国語の習得にかかる時間

外国語習得のエリート集団を育てている国防総省外国語学校(DLI)の外国語センター2がまとめた「語学の習得に必要な時間数」が公表されています。これは、英語を母語とする人が、別の言語を学ぶのにどれだけ時間がかかるかを示しています。

研究の結果、英語と似た言語は習得が早く、英語とかけ離れた言語の習得には時間がかかることがわかっています。カテゴリー3は「英語と言語的な構造や文化的な構造が異なって難易度の高い言語」であり、カテゴリー4は「全く英語とは異なり非常に難易度が高い言語」とされています。

日本語は英語からかけ離れた言語と考えられており、カテゴリー4に分類され、習得するには2,200時間かかるとされています

大人の英語学習に関する議論の中で、日本語話者は英語を習得するのに約2,000時間がかかるということを聞くかもしれません。これはDLIのデータをもとに、日本語話者が英語を学ぶには、英語話者が日本語を学ぶのと同じくらいの時間がかかるだろうという仮説のもと掲げられている目標です。

DLIの研究対象には、スパイ候補、CIA候補、外交官候補など「語学習得が得意であろうポテンシャルの高い人たち」もたくさん含まれています。また、教室での学習時間しか考慮されていませんが、実際にはたくさんの宿題が出ており、教室外でも学習しています。

そのことを考えると、このデータは「どんなに早くてもネイティブっぽくなるにはこれだけの時間がかかる」というかなり楽観的な時間数だと言えます。

果たして日本語話者が英語を学ぶときの前提が、英語話者が日本語を学ぶときと同じなのか、という点で議論の余地がありますし、宿題として課せられていた学習時間数を加味したり、一般的な能力の人なら習得にもう少し時間がかかるであろうと考えると、4倍くらいの時間数が必要なのではないかと私は考えています

年齢にもよりますが、日本人の駐在員のお子さんがネイティブの子どもたちに追いつくのには2,200時間×4=8,800時間を必要とし、学校生活や英語でのそのほかの活動で毎日8時間英語に触れていたとしましょう。そうすると1,100日(約3年)が必要です。私の感覚では、中学生以下なら3年もすれば完全にネイティブの同級生たちに追いついているお子さんが多い印象なので、納得感があります。

必要な英語学習時間を確保するには?

日本での子育てで、1日1時間英語に触れたとしても8,800時間に達するには24年間もかかります! しかし、日本にいても英語をたくさん使う環境はあります。英語で大半のことを学ぶ授業を行っている学校に進むというやり方です

早稲田大学、慶応大学、上智大学、立命館大学などでは英語で学べる学科があります。日本育ちで英語力がかなり高い日本人の友人たちは英語だけの大学生活を送り、バイリンガルになっています。大学で英語の学習時間を蓄積していったわけです。インターナショナルコースやグローバルコースといった英語をたくさん学べるコースを設けた私立中高に通わせるのもいいでしょう。

小学生のうちに英語の素地をつくっておき、将来英語で学ぶ環境に身を置けば、高い英語力を持つバイリンガルになる道が開けます。

高い留学費用を払わなくても国内で英語を習得する環境を整えられるのはありがたいことです。我が家は「アメリカの大学に行ったらどう?」と簡単に言える経済状況ではないので、どのタイミングでどのような環境をつくるか、長期的なプランニングが重要だと考えています。

英語学習のスタートは早いほうがいい?

英語教育のスタート地点が早ければ、スケジュールを立てやすいというメリットがあります。ただ、英語を早く始めれば英語が確実に身につくわけではありません。2歳から英語教室に通っても、小学校入学と同時に教室通いをやめて英語から離れてしまうと、学んだ内容はあまり覚えていません。人間は忘れる生き物なので、学習過程において長い期間その言語から離れてしまうと、すごろくで言う「ふりだしに戻る」といった状態になります。継続してコツコツ続けていき、ゆっくりでも英語でわかることやできることを積み重ねていくのが重要です

また、インターナショナルスクールや英語学童保育にお子さんを入れるつもりなら、「小学校に入ってから英語をスタートしても身につく」と考えていいでしょう。そう考えると、幼少期に英語以外の習い事をさせる時間ができます。事前に我が子のための選択肢をリサーチできていればその分、計画は立てやすくなります。

小学生から英語を始めても全く遅くはありません。日本には大人になってから本格的に英語を始め、世界で活躍している優秀な人もたくさんいます。英語の開始時期よりも学習時間数のほうが重要なため、英語を始めるのに、どんな年齢でも遅くはないのです

あまり英語が得意ではない保護者の方も今から本格的に英語に取り組めば、日本語が母語の偏重バイリンガルになることは十分に可能です。今からでも遅くないので、英語に十分な時間をかける方法を考えましょう

「臨界期」は恐れるべき?

英語を学び始めるタイミングよりも総時間数が大切だと述べました。しかし、早期英語教育に関して一般的に言われている注意点があります。発音に関してだけは、小さい頃から英語を話している人のほうがネイティブの発音に近づきやすいのです

大人になって英語を学んだ人は非常に流暢に複雑な構文で話していても、発音はネイティブと同様ではなく、多少の癖があることがほとんどです。

「臨界期」という単語を耳にしたことがあるのではないでしょうか。人間には何かを学んだり能力を習得したりするために適切な時期があり、その時期を過ぎてしまうと努力してもなかなか習得できなくなるという考え方です。言語習得において臨界期があるのは、主に発音のみだと私は考えています

小児失語症患者の言語回復を発症年齢別に調べたエリック・レネバーグは1967年、14歳頃の思春期までを言語習得の臨界期とする「臨界期仮説」を提唱しました。レネバーグの臨界期仮説をもとに第二言語習得に関するさまざまな研究が行われ、今では第二言語を習得するときの「音」に関する能力は、9歳くらいまでにかなり失われてしまうとされています。

聴覚科学を専門とするパトリシア・クールによる赤ちゃんの脳波を対象にした研究では、12カ月までの赤ちゃんはどの言語のどの音でも聞き分けられると結論付けました。1歳を過ぎると徐々に母語の音を理解することに集中し始め、さまざまな音を聞き分けるために備わっている能力が7歳から低下していくと述べられています

そして、その能力が失われるのが9歳頃と考える研究者が多いため、音に関する臨界期は9歳頃なのではないかと言われています。大人は母語を介した音の解釈しかできないので、音に関する能力の違いが発音に影響するという考えが一般的です。

なお、発音に関してはかなり個人差があります。大人になってから英語学習を始め、ネイティブのような発音をする人もいます。話し方のモノマネが上手な人もいます。これらの実情から、臨界期仮説(critical period hypothesis)の「critical=決定的」という単語はふさわしくないとし、「sensitive period=敏感期」とする学者もいます。

また、早く英語を始めたからといって、100%ネイティブのような発音ができるとも限りません。幼い頃に聞いた英語の音のサンプル数が不十分なら、特定の音はきれいに発音できません

私は発音については、英語に全く慣れていないノンネイティブの人でも理解できるレベルであればよいと考えています。「誰もが理解できるレベルの発音」といった現実的なゴール設定をすれば、焦らずに英語子育てができます。また、誰もが理解できるような仕事や生活におけるコミュニケーションで全く支障のない発音を身につけるのに、臨界期はないと信じています。

英語で何ができるようになるべき?

英語学習において私が掲げるのは、「年齢相応のことが英語でできる」ことと「TPOに応じた英語の使い方ができる」ことの2つです。年齢や職業に応じて必要なことを適切な言語で行い、目的を達成できるようになることを目指す機能的バイリンガリズム(functional bilingualism)という考えがあります

子育て中に目指すべき一番大切なことは英語で年齢相応の知的なことができることです。例えば、日本人の5歳児であれば形や色が言えて、数が数えられて、ひらがなが書けることを目指すでしょう。そして、お友達とモノの貸し借りを行い、謝ったりお礼を言ったりすることが自然にできるようになっているべきだとされます。アメリカの5歳児も概ね同様のことを目指します。

言語はあくまでもコミュニケーションツールなので、人間の知的な発達の過程において使い方が変わっていきます。成長の変化に合わせて、学ぶ英語も変化すべきです。自宅でできる年齢相応の遊びや学習方法については、本書でたくさん紹介します。

もう1点、保護者が特に意識すべきだと考えているのがTPOに応じた英語に対する意識の持ち方です。ネイティブ・スピーカーのようにカジュアルな表現、特に「チャラい英語」を子どものうちにあえて学ぶ必要はありません。あえて「チャラい」という表現を使いましたが、「フォーマルな」の反対の意味で使っています。

軽いコミュニケーションを取り、そのときどきでクールだと思われているような英語表現を使うスキルは、同じ年齢のネイティブとコミュニケーションを取っているうちにすぐに身につきます。そのようなリアルなコミュニケーション機会をつくることは大切ですが、家庭での学習は「きちんとした英語」に特化すべきです

こう考えるのは、私が大学で教えていても、高校のときに留学した学生が「環境問題」などの重要なテーマで“So, yeah. You know, this is pretty important, so we gotta work together.”といった話し方をすることがあります。

日本語に意訳をするとこのように聞こえます。「ってことで、そうなんっすよ。これが大切ってわかるっしょ。一緒に取り組まないといけない的な」。これでは英語力が高いとは言えません。英語力が高いというのは、その場にふさわしい語彙、表現、構文、段落の形などを使いこなすことです

外国語として英語を学ぶ以上、さまざまな英語力判定のテストを受けることになります。留学したいなら、TOEFLやIELTSなどを受けて英語力を証明することが必要です。日本の大学受験では、日本英語検定協会が運営するTEAPという試験が使われています。

ビジネス英語の試験は多数ありますが、日本国内ならTOEIC Speaking & Writing Testsでどれだけ英語で話せるか、書けるかを評価するかもしれません。こうしたテストではすべて、「学校や会社で使うのにふさわしい表現」がどれだけ適切に使えるかを試されています。

もちろん、テストが人生のゴールではないですし、指標の1つでしかないと私は強く信じています。しかし、テストには波及効果があり、保護者としてこれを使わない手はありません。例えば英検では級ごとにライティングやスピーキングで適切と考えられている語彙力や文法力があり、それらを使いこなす精度が試されます。テストのために単語を学んだり、普段は気にしていない文法精度を高めることにつながります。

読者のみなさんには、お子さんが教養のあるグローバル人材になるような英語子育てを目指していただきたいと思います。マナーやTPOに応じた振る舞い、考え方を教えるのは家庭の責任ですが、さまざまなテストを基準に「教養のある人の英語」を習得できるようにお子さんをサポートしてください。

こちらの記事では英語を学べるゲームが紹介されています。


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