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親が倒れて入院、最初に何をすべき? 費用や保険の不安を解消するために

突然親が倒れて入院しなければならなくなった。あるいは、病院から電話がかかってきて「親が入院した」と知らされる。

予期も準備もしていない状態でそんな事態になると、慌てふためいて何をしたらいいのか分からなくなってしまいます。

病状の確認、入院の手続き、費用や保険の検討、今後介護が必要になりそうか……やること、考えることがたくさんあるだけでなく、自身の仕事や家庭とも両立しなければなりません。

高齢の両親がいる方は「いざというときに備えなければ」と思う一方で、「まだ大丈夫だろう」「親が倒れるなんて考えたくない」とつい先延ばしにしていないでしょうか。また、すでに親の入院や介護が始まっているという方も、初めてのことばかりで「これでいいのか?」と判断に迷うことが多いかもしれません。

日本では、入院や介護について、さまざまな制度やサービスが用意されていますが、それらは基本的に、自分で情報を収集して手続きをしないと活用できません。自分から動かないと始まらないのです。

そんな場合におすすめなのが、親や家族の入院・介護に直面した際に必要となる知識や情報をまとめた、『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第2版』(翔泳社)です。

翔泳社の通販サイトSEshopではPDF版を販売しています。

本書は介護や暮らしをテーマに活動するジャーナリスト、太田差惠子さんが老親介護の現場を取材して培った知見を詰め込んだ1冊。入院前後で対応すべき短期的戦略、親の介護と自分の生活の両立する中期的戦略、施設介護も視野に入れた長期的戦略の3つに分け、それぞれの時期にやるべきことをわかりやすく解説しています。

入院の手続き、家族やきょうだいとのコミュニケーション、介護サービスの利用方法やケアマネジャーとのやりとりなど、さまざまな情報を時系列で紹介しているので、2015年刊行の第1版でも「知りたい情報が探しやすい」「先々に起きることを想定して準備できた」とご好評をいただきました。この第2版では「顔も見たくない親の介護」「8050問題」など、近年浮かび上がってきた新たなテーマも追加しています。

今回は本書から、親が倒れた直後、入院の前後ですべきことをまとめた「第1章 突然、そのときは来た!─短期的戦略─」の一部を抜粋して紹介します。そのときが来てから慌てるのではなく、少しでも冷静に対処するためにいまのうちから備えておければ、親にとっても自分にとっても負担は減るのではないでしょうか。

以下、『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第2版』(翔泳社)から「第1章 突然、そのときは来た!─短期的戦略─」の一部を抜粋します。掲載にあたって内容を編集しています。
なお、本書は2018年10月現在の情報に基づいています。

「親が倒れて入院した」と電話がかかってきた!

【親が倒れるのは突然】

親が倒れる……。「そのとき」は前触れもなく突然やって来ます。深夜、寝ているときに病院から電話がかかってきて叩き起こされる。あるいは、仕事中に母親から「お父さんが、倒れた」と携帯電話に連絡があるかもしれません。

突然のことに、心臓はドキドキして、どうしたらいいのかと頭はパニックになるでしょう。緊急な状況なら、即、救急車を呼ぶように指示します。あなたが代わりに通報してもいいでしょう。

救急車を呼ぶべきか迷う場合もあります。地域によっては、そんなときに相談できる「救急相談窓口」が設けられています。親の暮らす地域に、そうした窓口が存在するか、事前に確認しておくと安心です。「救急相談窓口」はなくても、各都道府県の「医療情報ネット」(厚生労働省のホームページに各都道府県の「医療情報ネット」へのリンクがまとめられている)を確認すれば、夜間や休日に開いている地域の病院などの情報を得られます。

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【最初の病院は「救急指定病院」】

119番通報をしてから現場到着までの全国平均時間は8.5分。通報から病院搬送までは39.3分。また、搬送される人のうち、高齢者は約57%を占めています(2017年、総務省消防庁)。

通常、最初に搬送される病院は「救急指定病院」です。消防法の規定に基づき、都道府県知事が告示・指定している病院で、3年ごとの更新制になっています。救急隊は、その症状に適した最も近い救急指定病院に搬送するのが原則です。かかりつけなどの理由で搬送先を希望することもできますが、症状や病院との距離、病院の受け入れ状況および希望の理由などにより判断されます。

搬送先の病院が分かったら、なるべく早く駆けつけるようにしましょう。スケジュールを確認して、当面の予定を調整します。どうしても外せない予定があるなら、家族に頼む。あるいは、きょうだいや親戚に連絡して、代わりに駆けつけてくれるように依頼します。

入院には「保証人」や「保証金」が必要?

【「保証人」を2名求める病院もある】

親が入院する場合、もう一方の親が手続きを済ませていればいいのですが、それが難しい場合は子どもが手続きをすることになります。

まず、「入院保証人」を求められます。緊急の連絡先、利用料金などの支払い、遺体や身柄の引き取りなどを保証するものです。保証人を1名ではなく2名、あるいは「緊急連絡先」を別途求めるなど、内容は病院ごとに違います。保証人が2名の場合は、通常、1名は「別世帯」を条件としています。

一人っ子の場合は、選択の余地はありませんが、きょうだいがいる場合は、相談の上で誰が署名するか決めたほうがいいでしょう。容態の急変などで、たびたび病院から連絡が入る可能性もあります。

【「入院保証金」は現金で求められることも】

また、通常、「入院保証金」が必要です。退院時に精算されますが、5〜10万円くらいが相場だと考えておきましょう。クレジットカードでの支払いができず、現金払いのみという病院もあります。5章で詳しく紹介しますが、親の医療費や介護費を誰がどこから支払うかを事前に決めていない場合、突然の費用負担に困惑するケースも珍しくありません。親族間トラブルに発展することもあります。

入院時に必要な衣類や洗面用具などは、ほとんどが病院内の売店で売られています。

高齢の親が一人暮らしの場合は、事前に必要なもの一式をバッグにまとめ、緊急の入院時にそれさえ持っていけばいいように準備しておくのもおすすめです。

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入院中の「スケジュール」を知りたい

【入院日から退院日までの予定表】

入院すると、入院日から退院日までの予定表を病院から渡されます。「入院時診療計画書」、あるいは「クリニカルパス」と呼ばれるものです。どちらも治療や検査、看護ケアなどの内容およびスケジュールが記されています。「クリニカルパス」は旅行に出かけるときに旅行会社から渡される日程表に似ており、病気ごとに一覧できる、より見やすいスタイルです。

両者を併用する病院もあります。もちろん計画を立てているといっても、その時々の患者の状態に合わせて、適宜変更して診療やケアが行われます。

【疑問や不安を解消する手がかりに】

検査や手術はいつになるのか、次にどのようなことが行われるのかが分からないと不安です。突然、「明日、手術します」と言われたら、心の準備をする余裕もありませんが、事前に予定表で確認できると大きな安心感につながります。手術後、何日目から食事がとれて、入浴できるか。さらには退院予定日が記入されているケースもあります。

遠方で暮らす親が入院した際など、退院まで連日病院に通うのは難しいので、予定が分かると病院に行く日を調整しやすく助かります。また、読んでおくことで、聞きたいことや疑問点がまとまり、医師や看護師へスムーズに質問できます。

もし、こうした書類を親が入院した病院で渡してくれない場合は、もらうことができないか聞いてみるといいでしょう。病気の特性や状態によっては、標準的な経過が把握しづらく、作成できないケースもあるようですが、簡単な形式のものは作成してくれるはずです。

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手術や検査、治療には「同意書」が必要?

【「インフォームドコンセント」とは】

病院で親が手術や検査、治療を受ける場合、「同意書」を求められます。医師は、治療法や薬の内容について、患者に十分な説明を施し、患者の同意を得た上で、それらを実行するべきだという考え方によるものです。「インフォームドコンセント」とも呼ばれています。

本来は患者本人の意思を尊重するものですが、高齢の親で判断力がない場合は、家族が同意を代行することとなります。本人に判断力がある場合でも、説明に同席を求められるケースが多いでしょう。医療の現場でも訴訟が増加し、病院側も慎重になっているという背景があります。同意書には、「いかなる事態が生じても、一切異議を申し立てません」という趣旨の免責条項が含まれている場合もあります。

もちろん、同意書にサインしても、医師や病院側に医療ミスの疑いがあれば、患者やその家族は提訴してもかまいません。

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【主治医以外の意見を聞く】

医師からしっかりと説明を受けた上で、別の医師の意見も聞いてみたいと思った場合には、「セカンドオピニオン」を受けることを検討しましょう。病気や治療法の理解を深めるため、現在かかっている医師以外の専門医に意見を求めることをいいます。紹介状(診療情報提供書)を書いてもらい、検査データを借ります。制度として存在する方法なので、遠慮は無用です。ただし、健康保険は適用されず、30分で1〜3万円ほど。新たに診察を受けるものではないので、親を連れて行くのが難しい場合、本人の同意があれば、家族だけで話を聞くこともできます。

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親が「脳卒中」で倒れた! 入院・転院のフロー

【まず入院するのは「急性期病院」】

親が「脳卒中」(脳血管疾患)で倒れたとします。

脳卒中には数種類ありますが、大きくは脳の血管がつまる「脳梗塞」と、脳の血管が破れて出血する「脳出血」や「くも膜下出血」に分けられます。脳卒中は、がん、心臓病、肺炎に次いで、日本における死因の第4位です。

また、「介護が必要になった原因」を要介護度別に見ると、要介護者では「脳血管疾患(脳卒中)」が17.2%と第1位。次に「認知症」「高齢による衰弱」と続きます。発症した場合、ただちに「急性期」を専門とする病院で治療を受けます。「命」を救うための治療を行う病院です。

【約1か月で「回復期リハビリ病院」に転院】

そして、発症後1か月少々して病状が安定したら、「回復期リハビリテーション病院」に転院します。集中的なリハビリを行い、低下した能力を再び獲得することを目的とする病院です。脳卒中の場合は「発症後2か月以内の入院」が原則。

最大の特徴は、土日祝日も含めて毎日リハビリが受けられること。高密度なリハビリで早期自宅復帰を目指します。各リハビリ職種(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)による個別の集中訓練を受けることができます。

入院できる期間は、疾患や傷病名によって日数が決められています。

例えば、脳梗塞や脳出血などは150日以内、高次脳機能障害(脳がダメージを受け、記憶・思考・言語などの機能が低下した状態)や脳卒中の重症例は180日以内となっています。自宅に戻った後も安心して療養できるよう、医療と介護サービスを利用することが一般的です。

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「病院は長居させてくれない」はホント?

【診療報酬は段階的に下げられる】

前ページで紹介したように、例えば脳梗塞で「回復期リハビリテーション病院」に入院した場合の入院期間は150日以内。大腿骨頸部骨折などで入院した場合は、それよりぐっと短い90日以内です。

一方、最初に入院することが多い「急性期病院」は、具体的な入院期間が定められているわけではありません。けれども、病院側から見ると、入院して最初の2週間は高い診療報酬がつくのですが、段階的に引き下げられ、30日を超えると加算がなくなる仕組みになっています。そのため、比較的早期の退院が一般的になっています。

90日を超えると退院・転院となるのは…

また、「入院期間は最長3か月」ともよく聞きますが、これにも理由があります。

診療報酬には「出来高払い」と「包括払い」があります。出来高払いは、ファミリーレストランで「ハンバーグ1、ナポリタン1、コーヒー2」というよ
うに単純に足し算で支払うスタイルをいいます。一方、包括払いは食べ放題や飲み放題。「いくら食べても飲んでも1人2000円」といった料金設定です。

日本の医療費用は出来高払いが基本ですが、入院に関しては包括払いが主流となりつつあります。投薬や点滴、検査などをどれだけやっても病院の受け取る総額は変わらない、というスタイルで「まるめ」とも呼ばれます。

一般病院でも90日を超えた患者は「まるめ」となるため、病院側としては長居を歓迎しないという結果になるわけです。過剰診療が抑えられる一方、「すぐに退院」という厳しい現状を招いている側面もあります。

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■コラム 病院で亡くなることが難しい時代

高齢者の死因第1位はがんです。Aさんの母親(80代)も、がんと診断されました。ひどい貧血で病院に搬送されたときは、すでにあちこちに転移。わずか1 週間で退院を促されました。起き上がるのもやっとの状態で、母親は「先生は私のことを見捨てた」と泣きましたが、結論は翻りません。「治療は困難」と判断されたのです。その後、母親は在宅で亡くなりました。

人口動態統計によると、日本の2016年の死亡者数は約131万人。そのうち、医療機関で亡くなった人が76%。1976 年に「医療機関での死亡」が「自宅での死亡」を逆転して以来、その割合は増加し続けてきました。

しかし、2030年には年間死亡者数が161万人に上ると予想されています。30 万人の増加。このままでは、都市部の病院のベッドは高齢者であふれ返ることに……。国は高齢者の病院死を減らして、在宅や施設での死にシフトする方向に進めています。

入院中の不安は、誰に相談すればいい?

【「こんな状態で退院?」と頭を抱えたら】

近年、短期間で退院を迫られるケースが増えています。親が入院した場合にも、早い段階で医師や看護師から「退院」の話が出てくることが通常です。「えっ、こんな状態で退院して、これからどうするの!?」と悲鳴をあげる家族に出会うことが往々にしてあります。

「家に戻っても、親は一人暮らし……」「同居しているけれど、自分は日中仕事に出るため、親が一人になってしまう……」「親は夫婦二人暮らしだけど、このままでは共倒れになる……」

病院側に都合があるように、家族の側にも都合があります。結果、当事者である親本人が不自由な思いをすることが想定され、頭を抱えてしまいます。転院できる病院はあるのだろうか……、それとも施設は?

【「医療ソーシャルワーカー」に相談】

初めての入院であれば、退院後のことに限らず、入院費用のことや、入院生活上のことでも不安がいろいろ出てくると考えられます。

誰に相談すればいいか分からない、相談しにくい、どのタイミングで聞けばよいか分からない……。

そのようなときに相談にのってくれるのが、「医療ソーシャルワーカー」という職種の相談員です。Medical Social Worker(メディカル・ソーシャル・ワーカー)を略して「MSW」といったり、広い意味で「ケースワーカー」と呼ばれたりもしています。

必須の資格はありませんが、多くは社会福祉系大学などの専門教育を修了した者で、病院によっては社会福祉士・精神保健福祉士などの国家資格取得者に限定して採用しているところもあります。ある程度の規模の病院では、「医療相談室」や「総合相談室」「地域医療連携室」と呼ばれる部門を設けており、そちらに在籍しています。

医療ソーシャルワーカーは、本人はもちろん家族にも対応するので、困ったことがあったら相談しましょう。相談費用はかかりません。病院によっては、相談内容で担当者を決めているところもあるので、事前に電話でアポを取っておくほうがいいかもしれません。

ソーシャルワーカーなどの相談対応の専門職員を配置していない病院では、遠慮せずに医師や看護師に質問すればいいでしょう。

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親の「入院費用」はどれくらいかかる?

【75歳以上の親の医療費は1割または3割】

親が入院した場合、費用はどれくらいかかるのか不安になります。必要となるのは、医療費の自己負担額、食事代(1日3食)、差額ベッド代(希望して個室などに入った場合)、おむつ代や先進医療など保険適用外の費用、そして病院に通う家族の交通費などです。

医療費(外来・入院)の自己負担額は、親の年齢とその所得によって違いがあります。70歳未満の親は3割負担。70〜74歳の親は2割または3割。75歳以上の親は1割または3割となります。

月をまたいだ入院の場合は、月末締めで翌月に、退院時の精算は退院日の前日くらいに、概算の請求書が病室に届けられることが一般的です。事前に請求書の提示がない場合は、こちらから聞いてみるといいでしょう。

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【80歳の親が大部屋に2週間入院した場合】

詳細は「高額療養費制度」(P144)の項で説明しますが、医療費は所得によって「自己負担限度額」が定められており、青天井ではありません。ここでは例えば父親( 80歳・一般所得者)が2週間入院したケースを考えてみましょう。左のような形で料金が発生することになります。

意外にかかるのが交通費などの雑費です。交通の便が悪かったり遠方だったりすると、たびたびタクシー利用になることも。それほど遠方でなくても、仕事帰りに寄ろうとすると、「面会時間に間に合わないから」とやはりタクシー利用となりがちです。

また、なかには「おむつ代」が1日1500円などという病院もあり、かなりの出費になることもあるようです。

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入院中でも「介護保険」は申請できる?

【介護保険制度とは】

療養病床には「医療型」と「介護型」があると紹介しました。「介護型」って何だろう? と疑問が生じる人もいるかもしれません。日本には、「公的医療保険」があるように、「公的介護保険」があります。

介護が必要になっても住み慣れた地域で、できる限り自立した生活が送れるよう、介護を社会全体で支えようという趣旨で2000年に設立。40歳以上の全員が強制加入の社会保険です。65歳以上の人は、介護が必要になれば申請をして、支援や介護が必要と認められれば全員がサービスを受けられます(40〜64歳は、老化が原因の疾患〈特定疾患〉で介護が必要になった場合のみ)。

「介護型」の療養病床(介護医療院)などへ転院したり、自宅に戻って介護サービスを利用するには、介護保険で支援や介護が必要だと認定を受けていることが条件となります。

【入院中でも申請できる】

病院に入院中の場合は、医療保険が適用されているので介護保険のサービスは利用できません。しかし、退院後に介護保険の利用を希望する場合は、入院中に申請を行いましょう。

要介護認定を受けるためには、親の住んでいる市区町村の窓口に申請を行います。原則として30日以内に結果が通知されます。要支援1・2、要介護1〜5の7段階があり、結果に応じてサービスを受けられます。申請のタイミングは、医師や医療ソーシャルワーカー(P26)に相談してみましょう。なお、介護保険の申請で分からないことは地域包括支援センター(P44)に相談しましょう。

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