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不得意分野や講師の話が理解しづらい、発達障害の人が上手に勉強するには?

発達障害を持つ方にとって、勉強は内容の理解だけでなく取り組み方にもいろいろな難しさや困り事があります。

例えば、得意分野ばかり勉強してしまい、不得意分野だと頭に入ってこない。あるいは、モチベーションはあるのに集中できなかったり、講師の話が理解できなかったり。

こうした悩みを乗り越え、同じような境遇の方を支援しているキズキ代表の安田祐輔さんによる著書『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本』が、翔泳社から発売中です。

安田さんが設立したキズキでは、不登校や発達障害、中退した方の学び直しや受験への個別指導を行う「キズキ共育塾」や、うつや発達障害で離職した方に向けた就労移行支援事業所「キズキビジネスカレッジ」を全国に展開されています。

安田さんの原体験は、自身が発達障害の当事者で、勉強にたいへん苦労したこと。本書にも、安田さんが勉強するために培ってきたノウハウが詰め込まれています。

◆著者について
安田 祐輔(やすだ・ゆうすけ)
うつや発達障害による離職からの復帰を支援する「キズキビジネスカレッジ」などを展開する株式会社キズキ代表取締役社長。発達障害の当事者。全国13の地方自治体や中央省庁から委託を受け、生活困窮世帯の子ども支援などにも携わる。著書に『暗闇でも走る』(講談社)がある。

本書ではスケジュールを立てて勉強する方法や、勉強する気が起きないことへの対処法、上手に講義を受けたり自習したりする方法について、具体的な解決策を提案しています。

この記事ではその例として、「不得意分野になると頭に入ってこない」と「講師が話している内容が理解できない」という困り事を解決する方法を解説したパートを紹介します。

勉強について悩んでいる方の参考にしていただければ幸いです。

不得意分野になると頭に入ってこない

○不得意分野は漫画やユーチューブ動画で興味を持ちやすくする
○不得意分野だけ予備校に通う
○不得意分野が終わった際の「ご褒美」を用意する

事例:不得意分野に手をつけられないまま、試験日まで残りわずかに

数カ月後の資格試験に向けて勉強を始めた。合格するためには、複数の科目をバランスよく勉強しなくてはならない。しかし、得意分野の問題集はサクサク進むのに対して、不得意分野はどうもやる気が起きないのだ。不得意分野は勉強を始めても、すぐに集中力が切れてしまう。

そうこうしているうちに、試験日まで残り1週間をきってしまった。慌てて不得意分野の勉強も始めたがまったく理解できず、焦りだけが募っていく……。

原因:興味を持てる分野が限られている

ASDの人は興味を持てる範囲に偏りがあることが多い。特定の分野へのこだわりが強い一方で、興味がないものに関しては、まったく知識が頭に入らなかったり、手をつけられなかったりする。

ADHDの場合も同じだ。興味のある事柄には何時間でも集中できる過集中状態になる一方で、興味がないことに取り組むと気が散りやすく、ミスが多くなったり、途中で投げ出してしまったりする。

解決法:障害の特性と対策方法を知る

こうした状態が続くと、傍から見ている人は「怠けているのではないか」と考えてしまいがちだ。また、本人が「自分はやる気がないのだろうか」と落ち込み、自信を失ってしまうことも多い。

しかし、これらはADHD、ASDの特性が原因であり、決して怠けているわけでも、やる気がないわけでもない。特性に合った対策方法を知っておくとよいだろう。

不得意分野は漫画やユーチューブ動画で興味を持ちやすくする

不得意分野に手がつけられないのは、その分野に興味が持ちづらいからだと考えられる。だとすれば「学ぶ方法」を興味が持てるものに変えてしまうのもひとつの手だ。具体的には、漫画教材やユーチューブなどの動画教材を用いることがこれに当たる。

たとえば、簿記の場合「マンガでやさしくわかる日商簿記」シリーズ(日本能率協会マネジメントセンター)がある。リストラの出向辞令が下った主人公が、元の職場に戻るために日商簿記に合格しようとするストーリー仕立てになっており、その過程で各科目の内容が説明されている。このように資格試験によっては面白く読める漫画が発売されている場合も多いので、探してみてもいいかもしれない。

またユーチューブでも、資格試験のポイントを解説した動画が公開されている。ユーチューブは視聴回数が増えるように配信者も飽きさせないような工夫を凝らしているし、「視聴者が困っているポイント」をまとめた動画も多いので役に立つ。とはいえ、ユーチューブは監修が入っていないケースもあり、正確性に欠ける動画も存在する。そのため、ユーチューブだけで学ぶというよりは、補助教材的に利用するのがよいだろう。

不得意分野だけ予備校に通う、予備校の動画教材を用いる

不得意科目だけ予備校に通ったり、予備校の動画教材を用いたりするのも有効な手だ。講師に教わればわかりやすいだけでなく、高い料金を払っており、かつ時間も拘束されているので、「やらなくてはならない」という意識になりやすい。不得意でも強制的に学習せざるをえなくなる。

先ほど漫画やユーチューブを紹介したが、予備校の講座や動画教材が優れているのは「体系的に学べる」点だ。たとえば、ビジネススクール大手の「グロービス・マネジメント・スクール」のカリキュラムを例に見てみよう。

「ファイナンスにおける基礎的概念の確認」「キャッシュフローの増分分析と事業採算性の検証」「企業価値評価(バリュエーション)の基本と資金調達」「バリュエーションと投資判断」といったようにファイナンスの知識を体系的に学ぶことができる。

多くの生徒が学んできた実績がある予備校や動画教材はそれだけ改善が行われているので、すっと頭に入ってきやすい。不得意分野を避けてしまうのは、もちろん興味がわかないという理由もあるが、単に理解ができておらず「よくわからないから」ということも考えられる。その場合は、このような
体系立てられた予備校の講座や動画教材を利用するとうまくいくことが多いだろう。

不得意分野が終わった際の「ご褒美」を用意する

内容に興味が持てない場合、力技ではあるが「ご褒美」を用意することでモチベーションを担保する方法もある。「今日勉強したら明日は休んでいい」「○ページまで終わったら、コンビニにおやつを買いに行く」など内容は何でもよい。自分がやる気になれるご褒美を考えよう。

不得意分野の習得は人よりも時間がかかることを理解し、焦らない

原因で述べたように、ASDやADHDの人は興味がない分野の内容が頭に入らなかったり、途中で投げ出してしまったりすることもある。

限られた時間で学習を進める中で、不得意分野になると途端に内容への理解度や集中力が低下し、焦る人も少なくはないだろう。焦れば焦るほど、参考書や教材動画の内容が入ってこなくなり、精神衛生上悪影響である。

だからこそ皆さんには、「不得意分野の習得は遅いのが当たり前、時間がかかるのは仕方がない」と思っておいてほしい。

そうすることで、不得意分野においては他の分野よりも2〜3倍の時間を確保しておくことができるし、参考書を2回読んで理解できなくても、悲観的になるのではなく、また読み返せば徐々に理解できるだろうと思えるようになる。

試験によっては、不得意な分野は最低限理解すべきところは取り組み、得意分野の点数を大幅に伸ばす、といった戦略も立てられるかもしれない。なるべくストレスを減らして学習に取り組めるように意識してみよう。

講師が話している内容が理解できない

○録音し、低速にして聞き直す
○文字起こしツールで口頭説明を文字情報に変換する
○雑音をカットするデジタル耳栓を使用する
○予習で事前知識を身につけ、理解しづらい部分をカバーする

事例:講師の口頭説明が理解しづらい

資格試験の勉強のために、先月から予備校に通い始めた。とても教え方がうまい人気講師がいると聞いて、講義を受けてみようと思ったのだ。

しかし、いざ受講してみると、評判とは裏腹にとてもわかりづらい。講師は、かなり早口な上に、板書もせずに長い時間話し続けるので、途中で何を話しているのかわからなくなってしまうのだ。

同じ講座を受けている人たちは「とてもわかりやすい」と言っているので、自分の理解力に問題があるのかもしれないと落ち込んでしまった。

原因:ASDは、耳から入ってくる情報の処理が苦手

ASDの場合、耳からの情報(聴覚情報)の処理が苦手な場合がある。そのため、口頭での長い指示や説明が理解しづらく、覚えづらい人も多い。

学生時代は、板書やプリントなどの視覚的な資料が理解を助けてくれるため、こうした問題が表面化しないことも多い。そのため、大人になってからはじめて聴覚情報処理の困難さに気づく人もいる。

上司からの口頭指示や説明、会議で話し合われた内容の理解が難しい場合も、この聴覚情報処理の困難さが疑われる。

さらに、ASDの場合、雑音などが多い環境で、必要な音声を選択的に聞き取ることが難しい人も多い

通常、人間の脳には、必要な音声を選り分けて聞き取る機能があるが、ASDの場合、雑音を遮断する機能が弱いのだ。そのため、周囲の声やエアコンの音などの「雑音」と「講師の声」が同じ大きさに聞こえてしまう。これも講義の理解のしづらさにつながっていると考えられる。

解決法:ツールを使って「聞き取りづらさ」を緩和する

こうした課題がある場合、いくら「頑張って聞き取ろう」と集中しようとしても難しいことが多い。集中力の問題ではなく、特性が原因だからだ。

ここでは特性による「聞き取りづらさ」をサポートし、課題感を緩和するツールについて説明していく。

録音して、低速にして聞き直す

1つ目は、レコーダーを用いて録音する方法だ。録音しておけば、うまく理解ができなかったところを、家に帰って聞き直すことができる。

その際、再生速度が調整できるICレコーダーを使うのがお勧めだ。通常よりも低速にして再生すれば、内容が理解しやすくなる。一例として、ソニーのICレコーダーは、録音したものを0.5〜2倍速の間で調整できるので、理解できないところはゆっくりと、すでに理解できているところは速く聞くことができる。

このとき、0.5倍速程度で再生すると、遅すぎて逆に聞きづらい可能性がある。0.6〜0.8倍速など、自分が聞き取りやすい速度に調整できるよう、小刻みに再生速度を設定できるICレコーダーを選ぶようにしよう。

文字起こしツールで口頭説明を文字情報に変換する

口頭説明が理解しづらい場合、音声情報を文字情報に換えてしまうのもひとつの手だ。その際に有効なのが、文字起こしツールだ。

まず、教室の前方など、講師の声が聞きやすい位置に座る。そして、文字起こしツールを起動し、講師の口頭説明をアプリに読み込ませる。すると、リアルタイムで内容が文字に起こされる。書き起こしされた文章を視覚補助にして内容を理解したり、帰宅後に復習に役立てたりできるだろう。

最近ではさまざまな文字起こしアプリやツールが出ているが、ここではグーグルドキュメントの文字起こし機能を紹介したい。多少の音声の取りこぼしや誤変換はあるものの、問題ないくらいの精度で文字起こしができる。

雑音をカットするデジタル耳栓を使用する

最後に紹介するのは、雑音などが多い環境で、必要な音声を選択的に聞き取ることが難しい場合に使用できるツールだ。キングジムから発売されている「デジタル耳栓」である。

デジタル耳栓は、エアコンの機械音、電車の騒音など「環境騒音」と呼ばれる特定周波の音をカットしてくれるデジタル機器である。耳栓のように物理的に耳をふさいで音を聞こえなくするのではなく、イヤホンに内蔵された小型マイクロホンが周囲の環境騒音と逆位相の音を出すことで騒音を打ち消す
仕組みだ。そのため、特定周波の音が消せるという特徴を持つ。

つまり、講師の声はしっかりと聞こえるが、エアコンの機械音や外を走る電車の音、周囲のざわつきといった雑音はカットしてくれる。もし講師の声と雑音が区別しづらく、講義が理解しづらいという人はぜひ試してみてほしい。とはいえ、人によって体感効果は異なるため、購入する際は、可能であれば店頭で試してみてから購入するようにしよう。

講義内容の予習で事前知識を身につけ、理解しづらい部分をカバーする

これまでは講義中・講義後にできる解決策を紹介した。最後に、事前にできる対策方法をお伝えしよう。それは、事前知識によって、講義内容での理解しづらい範囲を減らすやり方だ。

ASDの人の中には、「耳からの情報(聴覚情報)の処理が苦手」な場合があることは前述の通りだが、発達障害の有無にかかわらず、「事前知識の少ない分野の講義が頭に入ってきづらい」と感じる人もいるのではないだろうか。聞いたことがない単語が多く出てくることも、混乱を招き、講義内容への理解を妨げることもあるだろう。

このような原因が考えられる場合は、「予習」が効果的だ。次回の講義範囲がわかっている場合は参考書の該当箇所を軽く読み、わからない単語の意味を簡単にメモしておくだけでも、講義への理解度は変わる。

予習をして準備万端の状態で授業に臨むようにしよう。


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