「接客が怖い…」と感じている登録販売者のための基礎知識
ドラッグストアや薬局だけでなく、家電量販店やコンビニなどでも市販薬が販売されるようになり、登録販売者の活躍の場が広がっています。
現在の登録販売者試験は、受験前の実務経験が不要になっているため、合格後に「研修中の登録販売者」として現場に出ることに不安を持つ新人さんも少なくありません。
特に、お客さんの話を聴いてもどんな症状か分からない、あとになって「正しい商品をおすすめできただろうか?」と心配になるなど、接客の場面で悩む方が多いようです。
今回は、登録販売者講師として、資格者の悩みや困りごとをサポートされている仲宗根恵さんの著書『現場で使える 新人登録販売者便利帖 第2版』(翔泳社)を紹介します。
◆著者について
仲宗根 恵(なかそね・めぐみ)
登録販売者講師。一般社団法人くすりと漢方のスペシャリスト協会代表理事。約20年間、大手ドラッグストアや町の小さな薬店などさまざまな現場で医薬品販売に携わる。これまでに、延べ3,500人の現役登録販売者を指導・サポートしている。
本書では、登録販売者として店頭に立つために持っておきたい基礎知識を、仲宗根さんの約20年に及ぶ実務経験にもとづいて解説。資格を取得したばかりの登録販売者の方をはじめ、なかなか接客に慣れない方、身近に質問できる先輩がいない方、後輩や部下の教育を担当している方などから好評を得ています。
資格試験対策の勉強では学べない「実際の仕事に役立つポイント」に絞り、3つの章を設けています。
第1章 登録販売者になったらまずやること
第2章 接客の基本とすぐに覚えたい基礎知識
第3章 実務に直結する勉強法
痛みや熱、のどや胃のトラブル、便秘や下痢など、お客さんが話す症状から大事な情報を抽出し、適切な薬を選び、おすすめするための詳細なフローも掲載。「すぐに使える知識」と「スキルアップのための効率的な勉強法」が紹介されています。
この記事では第2章で解説される接客の基本について3項目を抜粋しますので、よければ参考にしてみてください。
店頭での接客フローを組み立てよう
接客が不安という人は、必要な段階をふんでいない可能性があります。症状の把握から商品選び、使用のアドバイスまでの流れを確認しましょう。
正しい接客の手順とコミュニケーション能力
登録販売者は、医師のように病気の診断はできませんが、皮膚炎や火傷の傷を店頭で見せられて「これに効く薬をください」などとお客様に言われることはよくあります。登録販売者としては、その権限を越えない範囲で、症状に適した商品を選び、情報提供を行わなければなりません。
新人時代は、接客のたびに緊張することでしょう。そんな時、接客フローが身についていると、お客様の話を聴くことに意識を集中できます。接客フローとは、「症状の聴き取り」から「商品の選択・提案」までの流れです。
医薬品を求めて来店する人は、何らかの症状を緩和・解消するのが目的ですから、まず具体的な症状を聴くことから接客が始まります。
次に、聴き取った症状から病態を判断し、剤型や作用についての要望(錠剤がいい、眠くなりにくいものがいいなど)やアレルギーの有無などをふまえて、適した商品を選択・提案し、お客様に判断してもらいます。さらに、その薬の使い方や養生法のアドバイスも行います。
この過程で最も重要なのが「症状の聴き取り」ですが、病態の判断に必要な情報を不足なく伝えてくれるお客様ばかりではありません。そのため、登録販売者から適切な質問をしていく必要があります。
新人のころは「何をどのように質問すればよいのか?」と、頭を悩ませることでしょう。先輩の登録販売者の応対を見て学んだり、自身の接客経験を積み重ねることでしか、スキルアップできない部分でもあります。商品や病態に関する知識量も大きく影響するので、コツコツ勉強し続けることも必要です。
また、短いやりとりの中で適切な答えを導き出すためには、コミュニケーション能力も必須です。挨拶や言葉遣い、笑顔など、接客業として求められる基本的なスキルも身につけましょう。
情報提供をする時の注意点
医薬品は正しい使い方をしてこそ効果があるもの。とくに副作用や使用上の注意はわかりやすくアドバイスしましょう。
副作用や使用上の注意・制限は「理由」とともに説明
登録販売者が行う「情報提供」とは、効能や副作用等を含めた商品の特徴、使用上の注意、養生法などを説明すること。お客様から問い合わせがあった時はもちろん、とくに質問がない場合でも説明するのが原則とされています。
医薬品の販売では、メリットだけでなくデメリットもお伝えしないといけません。推売品やPB商品を売る場合も効能だけを述べずに、副作用や薬を使用しても効果がなかった場合の対処法、長期連用のリスクなどもきちんと伝えるのが基本です。
新人の中には「何かあったら……」という不安からリスクばかりを強調してしまう人もいますが、商品知識が身についてくると、効能もリスクも過不足なく伝えられるようになるでしょう。
また、使用感や飲みやすさなどに関する第三者の意見も、購入の参考になります。おすすめする商品が自分も使用したことのあるものなら率直な感想を伝えたり、他のお客様からの評判などを紹介したりするのもよいでしょう。そうした話題によって、お客様との会話がしやすくなることもあります。
専門家として情報を提供する際には、その「理由」もしっかり説明できるようにしておくことも大事です。15歳未満は服用できない、授乳中の人は服用を避けるなど、使用上の注意で制限がある商品もありますが、なぜ制限されるのかについても理解しておきましょう。ここでも知識の丸暗記ではなく理解が求められます。
そして、登録販売者は病名を診断するような行為や発言をしてはいけないという点も肝に銘じておくことです。症状から判断して商品を選択する過程でいろいろな病名が頭に浮かびますが、それは推測でしかなく、医師の診断がなければ病名の確定はできません。
受診をすすめる場合、お客様にある程度具体的に説明しないとその必要性を納得してもらえないことも多いので、伝え方の工夫も重要です。
情報提供や商品PRは工夫次第
セルフ式店舗が増え、お客様と相対して接客する機会が減る中、ミニチラシやPOPを活用した情報提供や商品PRの重要度は高まっています。
店員に相談しにくい病気・症状もある
病気や不調の中には、人に知られたくないものもあります。たとえば痔や便秘、尿漏れなどは、「人目のある店頭でスタッフに質問しにくい」「商品に関するアドバイスを受ける時も他の人に聞こえないようにしてほしい」とお客様が感じていることが少なくありません。売り場面積が広く、相談スペースを確保できる店舗もありますが、「話すのが恥ずかしい」という思いから、セルフ式の店で相談も何もせずに購入してしまいたいと考える人もいます。
とはいえ、浣腸や坐剤、注入軟膏といった商品は、初めての場合、使い方がよくわからないことが多いです。また、正しく使えていないために本来の効果が得られなかったり、痛い思いをしたりすることもあります。
筆者の場合は、使用手順などをわかりやすく書いた小さなチラシ(ハガキサイズくらい)をあらかじめ用意しておき、接客時や会計時に商品と一緒に渡すようにしていました。
もちろん、口頭で説明することもありますが、近くに他のお客様がいたり、レジが混雑していたりすると詳しくお伝えできない場合があります。また、口頭のみだと、お客様が実際に使用する時に、説明内容を忘れてしまう可能性もあります。
ミニチラシは、乳児や小児の服薬のコツを説明したものも効果的です。たとえば母親が来店した場合は口頭での説明でもスムーズに理解してもらえますが、他の家族などが代理で買いに来た時にお渡しすると喜ばれます。
すべての商品につける必要はありませんが、筆者の経験では、使い方のアドバイスや注意喚起をわかりやすくまとめたチラシはおおむね好評でした。ちょっとしたことですが、リピーターのお客様を増やすことにもつながるのではないでしょうか。
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