見出し画像

貧困支援だけじゃない、子ども食堂でできること

日本の子どもの6人に1人が貧困状態にあると聞くと、「豊かで平和な国のはずなのに」と驚いてしまうのが本音ではないでしょうか。

実際に統計データを確認すると、ひとり親世代が増加傾向にあること、母子世帯の年間平均年収が243万円(※1)であり、母子世帯の約80%が生活が苦しいと回答している(※2)という現実が見えてきます。

※1 平成28年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要(厚生労働省)
※2 平成28年 国民生活基礎調査の概要(厚生労働省)

そして、家族や地域社会の繋がりが希薄になっている現代においては、厳しい生活環境下でも頼る人がいないという場合も少なくありません。

そこで注目されているのが、子どもたちに食事や安心できる場所を提供する「子ども食堂」です。いま、NPOや地域の方が中心に、全国でさまざまな形の子ども食堂が運営されています。

翔泳社の『地域で愛される子ども食堂 つくり方・続け方』は、静岡市内で10以上の子ども食堂の立ち上げ・運営に携わってきた飯沼直樹さんが、そのノウハウを共有することで、1つでも多くの子ども食堂が継続され、1人でも多くの子どもたちに居場所が提供され続けることを願って制作された本です。

現在は休校や外出自粛など社会環境の変化が原因で運営自体が難しい状況に陥っているケースが多いと思います。しかし、子ども食堂を必要とする子どもたちがいなくなったわけではありませんし、今後の経済状況によってはむしろ増加することも考えられます。

すでに子ども食堂に関わっている方は再開後の運営を見直す参考に、これから子ども食堂に関わってみたいという方には、どのようなものかを深く知るきっかけとして本書を活用いただければと思います。

翔泳社の通販サイトSEshopではPDF版を販売しています。

子ども食堂の目的はその名のとおり食事の提供がメインですが、それだけではありません。子育て支援や地域活性化の場としての機能も持つことができる、と飯沼さんは書いています。

本書では飯沼さんが携わった子ども食堂を事例として紹介しつつ、子ども食堂の始め方や計画の立て方、続け方や広げ方について具体的に解説されています。行政機関との関わり方や、最も懸念となるお金周りの問題も取り上げられています。

今回は本書から「第1章 貧困支援だけじゃない。子ども食堂でできること」を紹介します。関心のある方に、まずは子ども食堂がどんな存在なのかを知っていただれば幸いです。

以下、『地域で愛される子ども食堂 つくり方・続け方』(翔泳社)から「第1章 貧困支援だけじゃない。子ども食堂でできること」を抜粋します。掲載にあたって一部を編集しています。

笑顔があふれる子ども食堂をつくりたい

【子ども食堂ってどんなところ?】

皆さんは「子ども食堂」と聞いて、どんな場所を思い浮かべますか。「経済状態が良くない子どもを食事の面から支援する場所」と答える人もいれば、「子どもが中心となり地域のみんなでワイワイご飯を食べる場所」と答える人もいるのではないでしょうか。

私は、地域に住んでいる子どもたちのための場であり、利益を追求することなく食事を提供する活動であれば、「子ども食堂」といってよいと考えています。

だからこそ、子ども食堂にはできることがたくさんあります。実際に、子どもの貧困支援だけでなく、ひとりでご飯を食べる「孤食」の対策や、お母さん・お父さんの子育て支援、さらには食育や地域活性化など、さまざまなテーマを掲げる子ども食堂が誕生してきています。

【続けるにはノウハウが必要】

ただ、残念なことに、子ども食堂を立ち上げてみたものの、参加する子どもが集まらない、スタッフを確保できない、お金が続かなくなってしまったなどの理由で運営に行き詰まってしまった、という話も耳にします。

私も実際に子ども食堂を立ち上げてみて、定期的に子どもたちを集めて安全な食事と楽しい場を提供する、という活動を継続するためには、一定のノウハウが必要だと強く感じました。

画像1

【笑顔があふれる子ども食堂をつくろう】

私は2016年に子ども食堂を立ち上げて、現在では、静岡市で6つの子ども食堂の運営・サポートをしていますが、その過程は試行錯誤の連続でした。うまくいかなかったこと、失敗したことはたくさんありますが、そのたびに、スタッフの皆さんと改善を繰り返し、今では多くの子どもたち、保護者、地域の皆さんが楽しみにしてくれる場をつくることができました

この本では、今までの経験や反省点などを総動員して、地域に愛される子ども食堂をつくり、継続していくためのノウハウを紹介していきます。紹介している内容をヒントにして、子どもたちや地域の皆さんの笑顔があふれる子ども食堂をつくり上げていきましょう。

なぜ今、子ども食堂が必要とされているのか?

【子ども食堂の数は、全国に500以上!】

子ども食堂は都市部から始まりました。都市部では地方に比べて、シングルマザー率が高く、また、子どもたちの経済格差も大きく、生活環境に課題を抱えた家庭も少なくありません。こうした状況を問題視した人たちが集まりそのような家庭の子どもたちに食事や学習支援、人とのつながりを提供しようとする活動が自然発生的に生まれていったのです。

子ども食堂が多くの人から注目されるようになったのは、日本の子どもの6人に1人が貧困というショッキングな報道がきっかけでした。子どもたちが置かれている状況に共感が集まるとともに子ども食堂の取り組みがメディアに取り上げられたのです。そして、2017年現在では、500を超える子ども食堂が都市部だけでなく、全国各地に次々と開設されています

画像2

【子どもはもちろん、家庭、地域を支える場へ】

活動が全国へ広がっていくにつれ、それぞれの地域のニーズをくみ取る形で貧困支援以外のさまざまな取り組みが行われるようになりました。

例えば、貧困率の低い地域では、食事提供の他、地域の高齢者との交流や体験学習などを通して、失われつつあった地域の交流を促進したり、地域の大人が子どもたちにさまざまな体験の場を提供したりする活動が積極的に行われています。

現代ではなかなかみられなくなった「地域での子育て」が子ども食堂を通じて実現しているのです。さらに、地元の企業や団体と連携し、提供する活動の質を高める子ども食堂も増えてきています。

このような活動は、少子化対策の一環として「子育てしやすいまちづくり」を目指す行政からも熱い視線が向けられています。

昔のような近所付き合いが失われつつある日本において、「家族以外の人たちとともに食事をする機会」が得られる子ども食堂への期待は今後ますます高まっていくと思います。

子育て支援の場としての子ども食堂

【ひとりで子育てに悩む保護者は多い】

子育て支援についての期待は、子ども食堂を運営する中でも日々実感しています。現代では核家族化が進み、親族やご近所さんとのつながりが昔ほど強くはありません。そのような中で、子育てに悩みながら周囲に相談できないお母さん、お父さんも少なくないのです。

特にお子さんが小学校に上がるときに不安になる保護者が多いようで、私たちの子ども食堂に参加したことでその地域の同年齢のお母さんと交流できたと感謝されたこともあります。

【子ども食堂は幅広い世代と交流できる貴重な場所】

私たちの子ども食堂ではスタッフとして「シニア世代」、利用する子どもたちの「保護者の世代」、そして大学生や高校生などの「学生世代」と、さまざまな年代の方々に参加していただいています。

核家族化や少子化が進む中で、子どもたちがシニア世代の方と一緒に食事をしたり、大学生や高校生のお兄さんやお姉さんと遊んだり勉強したりできる機会はとても貴重です。

普段接することの少ない世代の方々と一緒に、気取らずに食事やさまざまな体験を通じて交流することには大きな意味があると感じています。

画像3

【家で学べないことが子ども食堂では学べる】

子どもたちは家庭や学校で、食事の作法などの生活習慣や、他者との交流の仕方などの社会性を身につけます。しかし、各家庭で教える内容には、知らず知らずのうちに偏りが生まれてしまっていることもあります

子ども食堂では「家族以外の人との交流」を通じて、上図のような学びの機会を得ることができます。

これらの内容は、主催する側が意識して行い、子どもたちに伝えている場合もありますし、全く意識していなかったのにもかかわらず、新鮮な気づきや学びが提供できていることもあります。

さまざまな立場や世代のスタッフが参加することによって、その子ども食堂には多様なルールや意見が持ち込まれます。そうしたルール・意見の1つひとつが、普段家庭では経験できない学びの機会になるのだと思います。

画像4

【「苦手」が克服できることも】

子どもたちと一緒にご飯を食べに来た保護者の中には「普段、家では絶対に食べない野菜を今日は食べている!」と驚かれる方もいらっしゃいます。また「家ではお代わりなんかしないのに、子ども食堂ではお代わりをしていてビックリした」という声を聞くこともあります。

友だち同士やスタッフと一緒に食べる楽しさから、行動に「勢い」がつきやすいのだと思います。また、育児経験があるスタッフの「経験」も、こうした子どもたちの行動を引き出しているのだと思います。

それは学習支援でも同様で、担当のスタッフの教え方が素晴らしく、それまで苦手だった部分が理解できることもあります。

そうして子どもたちは「今日、子ども食堂で○○が食べられた!」「苦手だった○○ができるようになった!」と家に戻って保護者に報告します。

【子ども食堂には子育てのヒントがいっぱい】

保護者は、子どもの変化を通じて「こうして料理すれば食べてくれる」「こうした教え方なら理解してくれる」と学ぶこともできます。食事担当のスタッフが可能な限りバランスの良い献立と子どもたちが食べやすい味付けを意識してくれているおかげで、普段食べない苦手な食材でも、子どもたちは新しい刺激として食べることができます。

そのような献立のレシピやコツを直接調理担当のスタッフに聞くお母さんも少なくありません。そうしたことで大人同士の交流も生まれます。

このように子ども食堂では、調理や学習支援などのノウハウをもつ方々や子育て経験豊富な地域の高齢者などと、子育てに奮闘する保護者を結びつけることができます。つまり、今ではなかなか見られなくなった「地域での子育て」を実現する場になっていると感じています。こうした子育て支援も、子ども食堂の大切なひとつのテーマだと考えています。

地域活性化の場としての子ども食堂

【スタッフの「居場所」と「生きがい」を提供できる】

子ども食堂は、参加するスタッフやさまざまな形で協力をしてくださる方々にとっても大切な「場」となります。私たちの子ども食堂では、開催地域に住む団塊世代からそれ以上の年齢の女性がスタッフとしてたくさん参加してくれています。

その中には「子育ての重責から解放されたのはいいけれど、たまには元気な子どもたちと触れ合いたい」「子どもたちや周りのスタッフから必要とされて、とっても楽しい」と目を輝かせながら話してくれる方もいます。

自治会や町内会の活動と違い、子ども食堂の活動は持ち回りでもなければ強制力もありません。あくまで個人の思いで、地域の子どもたちのために参加してくれる方が多いので、皆さんの意識が高く、スタッフ同士の一体感が生まれやすいのだと感じています。

そうして生まれた仲間意識も、スタッフが「この活動は自分にとって大切だ」と思ってくれることに影響していると感じています。

【子ども食堂の活動は、自分の世界を広げる】

高齢者や主婦の中には、普段の生活のパターンが同じになりがちで、自分の目の届く範囲の物事にしか興味を示さなくなったり、新しい人間関係を構築する機会が減ったりしている人がいます。

そのような方々が子ども食堂に参加すると、多様な子どもたちの個性に触れたり、地域に住む子どもたちや家庭が抱える課題を知ったりして大きな刺激を受けます。そのことが、地域のさまざまな問題を考えるきっかけとなり、新しい活動を始めてさらなる交流へとつなげる人もいます。

このように、子ども食堂は、希薄になったといわれる地域コミュニティの活性化にも貢献できるのです。

画像5

【地域を巻き込むことで、地域に根付く活動になる】

私は子ども食堂は子どもたちだけのものだと思っていません。今まで紹介したように、「自分の居場所」だと思っているスタッフがいたり、子育ての参考になる場と考えている保護者の方がいたり、三世代交流の場としておじいちゃん・おばあちゃんが参加したりと、さまざまな人が子ども食堂に対し、それぞれの思いをもって集まっています。

また、直接活動のお手伝いはできないけれど、金銭面で、あるは食材提供などを通じてサポートをしてくださる企業の経営者もいます。理念を共有し相談に乗ってくださる自治会や行政組織、教育機関、保健所、社会福祉協議などの方々もいます。

このように、地域をより良くしようという前向きな思いをもった多くの人が、子ども食堂を通じて連携したり互いに理解し合ったりすることで、地域に必要とされ、根付いていく活動になるのだと信じています。

そうした「必要とされる子ども食堂」であれば、食事提供だけだけではなく、もっと多くの活動や意味合いを含む進化した子ども食堂になれるはずです。

理想の子ども食堂をイメージしてみよう

【子ども食堂の方向性はひとつだけじゃない!】

子ども食堂の基本的な形は自分の意思で集まった地域の子どもたちに食事を提供することです。これは皆さんのイメージから大きく離れていないと思います。ですが、今まで紹介してきたように、子ども食堂には食事提供以外にも、子どもたちや保護者、そして地域のためにできることがたくさんあります。そのため、子ども食堂を立ち上げる人の思いや目標もさまざまです

【自分なりの子ども食堂をイメージしてみよう!】

子ども食堂の立ち上げや、運営方針の見直しを行うにあたっては、まずは「誰のため」「何のため」という点を自分なりに考えることが大切です。そのときに、ひとつだけ守るべきことは、その地域に住んでいる子どもたちのためのものであることです。この点だけは、最優先にするようにしましょう。

【やりたいことは複数でも構わない】

「子ども食堂」の中身や方向性が、主催者の思いや地域性によって違ってくるのは自然な姿だと思います。逆にいえば「地域の子どもたちのために食事を提供する」という点さえ守っていれば、さまざまな思いや内容を盛り込んでいける自由さが子ども食堂にはあります

目的やゴールはひとつではなく、複数でも構いません。活動を続ける中で、子どもたちや地域社会の要望、スタッフの意思などをもとに目的やゴールを途中で増やしてもよいかもしれません。肌で感じ取った地域の問題と向かい合うことが、長く愛され、続けるためのポイントだと思います。

画像6


いいなと思ったら応援しよう!

翔泳社の福祉の本
よろしければスキやシェア、フォローをお願いします。これからもぜひ「翔泳社の福祉の本」をチェックしてください!