介護保険制度の対象者は? どうやって利用すればいい? 分かりやすく解説した本を紹介
介護事業を営む方や介護職に就いている方、なにより介護サービスを利用する方にとって、介護報酬やサービス利用料に関わる「介護保険制度」について知っておくことが欠かせません。
介護保険制度は2018年に改正され、次回は2021年に改正されます。同制度は3年ごとに見直されますが、その理念や基本的な内容は大きく変更されることが少ないため、基礎知識として現行法の内容を知っておくことで制度を有効活用できるのはもちろん、次の改定に備えることもできます。
翔泳社では、介護保険制度について詳細に解説している本として『これならわかる〈スッキリ図解〉介護保険 第3版』(2018年5月)があります。
東洋大学ライフデザイン学部准教授で、社会福祉士・介護支援専門員でもある高野龍昭さんが執筆してくださった本書では、難解な制度の全体像を分かりやすく紹介するだけでなく、関連する医療制度や福祉サービスについても説明しています。
介護保険制度を知るうえで網羅的に情報がまとまっていますが、今回は本書から「保険者」と「被保険者」について説明したパートと、介護保険を利用する際の手続きを解説したパートを紹介します。
介護保険制度について詳しく知り、うまく活用したいときの1冊として本書を読んでいただければ幸いです。
以下、『これならわかる〈スッキリ図解〉介護保険 第3版』から「第1章 介護保険の基礎知識」の一部を抜粋。掲載にあたって編集しています。
本記事の内容は発売当時(2018年5月)のものです。
保険者とは誰のこと?
保険制度では、そのしくみを運営する組織を「保険者」といいます。介護保険制度の保険者は、市町村(および特別区:東京23区)です。
たとえば、東京都千代田区の住民の介護保険制度の運営は千代田区が、北海道札幌市の住民の介護保険制度の運営は札幌市が担います。
なぜ保険者は市町村なのか?
介護保険制度の法的な枠組みや運営の基本的な規程は国が決めます。しかし、介護という問題は住民や地域の生活に密着した分野であり、地域ごとに異なる課題を抱えています。そのため、国が細かな点まですべて一律に決めるのは無理があります。
そこで、地域ごとの特徴(人口構成や介護サービスの事業所・施設の整備状況、住民意識など)を反映できるしくみとするために、保険者は市町村単位と決められています。
ただし、保険制度は人口や財政にある程度規模のある方が安定的に運営できることから、近隣の市町村が共同で保険者となる「広域連合」や「一部事務組合」という形態もあります。
保険者の役割とは?
保険者の役割として最も重要な点は、財源について責任を持つことです。
そのために、まず被保険者の資格を管理すると同時に保険料を決めます。そして、保険給付(介護サービスに必要な財源の支出)を行います。
また、保険制度では保険給付の条件(保険事故)が定められており、介護保険制度ではその判断を保険者が行います。すなわち、保険者は被保険者に保険事故である「要介護状態」「要支援状態」が起こっているかどうかの「要介護認定」という介護保険制度特有の認定業務を担うことになります。
そのほか、保険者である市町村は、下図のような大切な役割を果たします。住民にとって、介護保険利用や相談の第一の窓口は市町村だということになります。
被保険者とは誰のこと?
保険制度では、そのしくみに加入をする人びとを「被保険者」といいます。介護保険制度などの社会保険制度は、法律によって一定の条件の人びとに加入が義務づけられます(強制適用)。
介護保険制度の第1号・第2号被保険者の条件は下図のとおりですが、国籍の要件はなく、外国籍であっても日本に在留資格があり住民登録をしていれば強制適用の対象となります。
なお、生活保護受給者の一部は例外的に医療保険に加入しないこととなっていますので、その場合、40歳以上65歳未満の者は介護保険の被保険者とはなりません。
また、次ページに示す施設・医療機関に入所・入院中は介護保険の「適用除外」となり、この場合も被保険者とはなりません。
被保険者の義務と権利
被保険者は保険者等の定める保険料を納付する義務があります。また、住所変更などの手続きを適正に行うこと、介護サービスを適切に利用することなども求められます。保険者はそれをもとに被保険者の資格管理を行います。
その一方、被保険者は要介護状態・要支援状態となったときに、その状態に応じて介護保険制度によるさまざまな介護サービス(保険給付)を利用することができます。
なぜ被保険者は40歳以上?
本来、介護保険制度は「国家レベルでの介護に関する助け合いのしくみ」ですから、被保険者が年齢で区切られるべきものではありません。
しかし、介護保険制度の創設当初は介護という問題をすべての人びとが身近に受けとめていた状況にはなく、議論の末、強制適用の枠を40歳以上とすることで落ち着きました。自分の親に介護の不安が出てくる年代以上を被保険者としたわけです。
制度改正が検討されるたび、この被保険者の枠がどうあるべきか、たびたび議論が繰り返されています。
介護保険を利用する際の流れは?
介護保険制度の利用には、原則として本人(もしくは家族)からの申請・手続きが必須となります。まずは介護保険の保険者である居住地の市町村役場か、市町村が設置している地域包括支援センターに連絡し、その相談や説明を受けることが必要です。
なお、地域包括支援センターは市町村内をいくつかの区域(日常生活圏域)に分けて担当エリアが決まっています。
利用の流れの概要
実際の利用に際し、必要となる手続きの流れは次のとおりです。
⑴介護や支援の必要な程度が軽い場合
①基本チェックリストによる質問を受ける
②一定の基準にあてはまると〝介護予防・生活支援サービス事業(第1号事業)該当者〟と認められる。
③地域包括支援センターによるケアマネジメントにより、総合事業の各サービスを利用する。
⑵介護の必要な程度が比較的重い場合
①要介護認定の申請を行い、認定調査を受ける。
②要介護認定の結果に応じて、居宅介護支援事業者等によるケアマネジメント(もしくは自己作成のケアプラン)により保険給付(予防給付・介護給付)を利用する。施設入所等を希望する場合は、直接その施設と入居についての相談をする。
※要支援1~2の場合は総合事業も利用が可能となる。
⑶ 支援の必要性は少ないものの介護予防に役立つサービスを利用する場合
①市町村もしくは市町村からの委託を受けている事業者と相談する。
②一般介護予防事業を利用する。
※ ケアマネジメントは不要となる。
市町村によって流れに「差」も!?
この⑴と⑵の振り分けに関しては、実際には市町村ごとに対応の差があります。その後の利用サービスに大きく影響しますから、市町村の担当者等と事前に相談を行うことが欠かせません。
要介護認定と基本チェックリストの概要は?
介護保険制度を利用する際、まず重要となるのは「要介護認定」「基本チェ
ックリスト」です。
要介護認定
介護保険における「保険事故」は「要介護状態等」とされ、その確認のための手続きを「要介護認定」といいます。
保険給付(介護給付・予防給付)を利用する際、まずはこの認定を受ける必要があります。その手続きの流れはおおむね次のとおりです。
①申請
・本人が市町村に申請書等を提出する。
②認定調査等
・市町村の担当者が本人と面接し、認定調査(法令で定められた心身の状態等に関する74項目)などを行う。
・市町村は、本人の主治医に対して主治医意見書(法令で定められた様式)を依頼し、それを取得する。
③市町村(保険者)による審査・判定
・法令で規定された手順に従い、認定調査の結果から「1次判定」を行う。
・次に、市町村に設置された介護認定審査会(学識経験者の合議体)において、1次判定の結果や主治医意見書をもとに「2次判定」を行う。
④認定
・2次判定の結果を市町村が認定し、本人に通知する。認定には有効期間が設定される。
基本チェックリスト
現状では要介護状態等ではないものの「要介護状態等に陥るおそれのある高齢者」を把握するための質問表が「基本チェックリストです。これによって一定の要件に該当する場合、「介護予防・生活支援サービス事業(第1号事業)」の対象者となります(この有効期間の設定については市町村ごとに異なります)。
これについては、まず市町村窓口や地域包括支援センターに相談することが必要ですが、高齢者の特定健康診査の際などに併用して、対象者の早期発見に努めている市町村もあります。
ケアマネジメントによるケアプラン作成
介護保険を利用するには、その計画書(ケアプラン)を作成することが必要です。このケアプランを作成し、介護サービス利用の仲介をする業務を一般に「ケアマネジメント」といいます。
この業務は主に、介護支援専門員(ケアマネジャー)が担当し、介護が必要になったことでの生活上の問題の相談に応じ、必要となる介護サービスやその事業者の選定の助言、その依頼を行います。それに加えて、利用料などの計算や要介護認定の手続きの支援なども行います。また、ケアプランを一定期間ごとに(あるいは状態の変化に応じて)見直すなど、継続的に高齢者の相談・支援を担当します。
①在宅で要介護の場合
ケアプラン(居宅サービス計画書)は利用者自身が自己作成することができます。しかし、実際にはそれにさまざまな手続きや煩雑な書類作成が付随しますので、居宅介護支援事業所に依頼をしてケアマネジャーにケアプランを作成してもらうことが可能です。
なお、居宅介護支援事業所は利用者が自分で選択することとなります。
② 在宅で要支援・事業対象者の場合
事業対象者の場合、ケアプラン(介護予防サービス・支援計画書)は自己作成できず、地域包括支援センター(介護予防支援事業者)に依頼し、そこに勤務する社会福祉士や保健師等がケアプラン作成をすることとなります。
要支援1~2で総合事業を利用しない場合はケアプランの自己作成は可能ですが、作成依頼する場合は同様です。
ただし、市町村がその業務を居宅介護支援事業所に委託している場合も少なくありませんので、確認が必要です。
③施設等に入居する場合
施設や認知症グループホームに入居して介護サービスを利用する場合のケアプランは、それぞれの施設等に勤務するケアマネジャー等がケアプランを作成します。
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