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自分の老後、家族の介護をサポートしてくれる「成年後見」の使い方

厚生労働省の推計によると、2025年には認知症の患者数が700万人に達するとされています(65歳以上の5人に1人)。日本の人口に比して大きな割合となり、多くの方にとって無関係の問題ではなくなるのは明らかです。

※厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(概要)

認知症の当事者には、程度の差はありますが判断力の低下が見られます。私たちは毎日の暮らしの中で、無意識のうちに決断や選ぶことをしているため、判断力は非常に重要です。

家を買う、仕事を辞めるといった大きな判断だけでなく、洗濯をする、食事を作るような何気ない行為ですら、多様な選択肢の中から判断して行動に移さなければなりません。

認知症は顕著な例ですが、人間誰しも老いれば判断力が鈍っていくもの。たとえいま健康な人でも必ず歳を取っていくのですから、さまざまな場面で困難に出くわすのは間違いありません。自身の老後、あるいは家族が認知症や精神疾患になったときに、それまでの生活をどのように守ればいいのでしょうか。

そんな場合に利用できるのが、後見人等が本人に代わって判断を行い、生活をサポートする「成年後見制度」です。超高齢化が進む中、成年後見は、財産管理や不動産の処分、介護や相続まで、お金・住まい・暮らしを守るために、ますます欠かせない制度になっていくはずです。

翔泳社ではこの成年後見制度について詳しく解説した『認知症700万人時代の失敗しない「成年後見」の使い方』を発売中です。

本書の著者は、社会福祉士・行政書士であり後見人として10年以上活動されてきた鈴木雅人さん。誰もが必要な状態になる可能性がある「成年後見」の制度について、分かりやすく説明してくれています。

今回は本書から、制度の概要を紹介した「1章 「成年後見」って何ですか?」の一部を抜粋します。

なぜ成年後見が必要なのか、誰のための制度なのか、そしてどんな場合に制度が必要になるのかを知っていただくことで、皆さんご自身の人生に密接に関係する制度なのだと実感してもらえれば幸いです。

以下、『認知症700万人時代の失敗しない「成年後見」の使い方』から「1章 「成年後見」って何ですか?」の一部を抜粋します。掲載にあたって編集しています。

記載の情報は本書発売当時(2017年2月)のものです。

なぜ、成年後見が必要なの?

本人のために「選び」「決める」人が必要

認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が低下すると、自分の人生に必要な様々な選択をすることができなくなってしまいます。

住まいを快適に整えたり、好きなものを食べたり、好きな場所へ行ったり、病院で必要な治療を受けたり、介護サービスを手配したり、そして、最期をどこで迎えるか考えたり。自分で日々の生活を組み立てられなくなったからといって、単に命を長らえれば良いわけではありません

私たちには、それぞれの人生経験があり、その過程で作られた価値観や好みがあります。判断能力が低下したとしても、それらを全部捨てて「ただ生きている」だけでは、自分の人生とはいえませんよね。

どんな状態になっても、その人らしい人生を最期まで送る。そのためには、本人に代わって、本人のことを第一に考え、「選び」「決める」人が必要なのです。

日常生活のある程度のことは、家族などが本人の代わりに対応できますが、金融機関での手続きや不動産の売却、施設への入所など、本人以外の人では対処できない場面も出てきます。

また、悪意のある者から、本人の財産や権利を守る必要もあります。そのためには「法律的に」本人を代理できる立場の者(後見人)のサポートが欠かせません。それを解決するのが成年後見制度なのです。

「成年後見」という言葉をニュースなどで耳にしたことがあるという人は多いですが、その内容まではあまり知られていません。しかし、認知症などで判断能力が低下してしまう可能性は、誰にでもあります。親や夫や妻、兄弟姉妹、あるいは自分自身にも起こり得ることで、そんなもしもの場合に備えるためにも、多くの人が知っておくべき制度なのです。

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成年後見の制度は誰のためのもの?

基本となる3つの理念

成年後見は、判断能力の低下した人に後見人をつけることで、適切な財産管理や生活の組み立てをし、本人の状況や好みにそって生活の質を保つためのものです。本人の人生を預かる後見人の責任は重大。そのため、この制度には次の「3つの理念」があり、後見人はこれを踏まえて活動することになっています。

①自分の人生は自分で決めることが原則。今ある能力を最大限活用するとともに、できる限り本人の意思を引き出し尊重する。その上で、判断能力の低下により不十分になった部分を支援する(自己決定の尊重

②財産管理だけでなく、本人の立場に立った生活の組み立てをおこなう(身上の保護の重視

③判断能力の低下に関係なく、皆が同じ地域で暮らせるようにする(ノーマライゼーション

成年後見に関わる専門家は、原則、専門的な研修を受けることになっており、最初にこれらを学びます。

この3つの理念は、判断能力の低下のレベルに合わせて、本人を尊重し後見人の介入を最低限にするためといわれています。ですから、成年後見は、植物状態や重度の認知症などのためににまったく意思疎通ができなくなってしまった人だけではなく、判断能力がすっかり低下してしまった人から、少し低下し始めた人、さらには(任意後見の場合)病気もなく、判断能力もしっかりしている人まで、様々な人が活用できるものになっています。

また、後見人は個人的な価値観を押し付けたり、本人の話を聞かずに勝手に物事を進めたりしてはいけません。ただただ、本人のための制度なのです。

ちなみに、成年後見制度の利用は、個人単位。たとえば夫婦2人とも利用する際も、夫と妻のそれぞれに後見人がつきます。ただし、(任意後見の場合)2人で同じ後見人とそれぞれ個別に契約することは可能で、(法定後見の場合)夫婦で同じ後見人が選ばれることもあります。

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どんな場合に成年後見が必要になるの?

身近な人の生活を守る必要がある時

成年後見は、まだまだ一般に詳しく知られていません。認知症や障害のある家族をサポートする過程で何か手続きをしようとした際に「本人確認」の壁に直面し、「後見人はついていますか?」と言われて初めて制度を知るという人も多いでしょう。後見人が必要になるケースをいくつか挙げてみたいと思います。

親の医療や介護の費用は、なるべく親自身のお金でまかないたいところ。キャッシュカードと暗証番号で強引に引き出してしまう人もいるようですが、入院や施設入居のためにまとまったお金を引き出したり、高額な振り込み定期預金の解約をしたりするとなると、後見人が必要になります。

また、認知症の親が有料老人ホームに入るため、親名義の不動産を売却して入居金にするといった場合も後見人が必要。認知症となった人は判断がつきませんから、不動産売買などの法律行為ができなくなるのです。

さらに、認知症や知的・精神障害のある人が遺産を相続する場合も後見人をつけます。遺言がない相続の場合、遺産分割協議(遺産を分ける話し合い)をおこないますが、その協議で本人が不利益を被らないようにするためです。

そして、認知症などにより適切な判断ができなくなると、悪徳業者に騙されたり、必要のない高価なものを買ったりする可能性もあります。家族が同居して常に見守れる状況でなければ、とくにひとり暮らしの場合は、詐欺被害や浪費を防ぐためにも後見人をつけることが効果的です。

自分の老後に不安を感じた時

一方で、自分自身に後見人が必要となるケースもあります。たとえば、シングルの人で自身が年をとった時にサポートを頼める親族などがいない場合、子どもをもたない夫婦でどちらかが先に亡くなった場合、子どもやきょうだい、甥や姪などサポートを頼めそうな親族はいるが彼らに負担をかけたくないと考える場合などです。

このような場合では、判断能力があるうちに自分の「もしもの時」に誰に何を頼むかを考え、後見人となる人を決めておく(任意後見)ことになるでしょう。

今すぐか、将来か、タイミングの違いはあるにせよ、後見の必要性を感じる時は多くの人に訪れます。

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