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スタンフォード生の人生を変えた! 急に話を振られても即答できる方法とは?

「急に話を振られるのが怖い」「会議で意見を求められると固まる」
「プレゼンはまだしも、最後の質疑応答が本当に嫌」
「乾杯の挨拶は、断れるものなら断りたい」
「立食パーティーは、できれば行きたくない」――。
そんな人でも、「型」さえ身につければ、アドリブで話せるようになる!
スタンフォード大学のMBA生に人気の「話し方」講義を書籍化した、
『Think Fast, Talk Smart』。
本書を翻訳した見形プララットかおりさんと編集担当が、
本書の魅力についてトークしました。

話すためには訓練が必要?

編集者(以下、「編」) 『Think Fast, Talk Smart』を最初に読んだ時の印象はいかがでしたか?

見形プララット かおり(以下、「見」) 実は私、もともと通訳の仕事に憧れていたんです。通訳を学ぶコースにも通っていたんですが、話すことが得意ではなくて、だからこそ翻訳の仕事が向いていると感じることもあるんですよね。
 だから本書の最初に、「話すシチュエーションで、あなたはこう感じたりしませんか」と例を挙げて書かれている内容がいちいち心に迫ってきて、自分のために読みたいと思いました。
 でも、スタンフォード大学の頭の切れる学生たちも話すことが怖い、と書いてあるのを読んで、正直「まゆつばでしょ」と思っていました。

 「そんなわけないでしょ」と(笑)。

 そう。私はイギリスに住んでいて、やっぱり欧米で言う「頭の切れる人」イコール「喋れる人」というイメージがあったんです。
 ただ今回、イギリスで総選挙を迎えるにあたり、リシ・スナク首相と労働党党首のキア・スターマーの党首討論をたまたま見て、その時に思ったことがありまして。

編 スターマーはもともと法廷弁護士で、政治家になった人物ですよね。

見 そうです。だから話すのが好きなんだろうと思っていたんです。そしたら、スナクの方がびっくりするくらいプレゼンテーションが上手で。
「労働党が当選したら、税金負担が年間2000ポンド高くなりますよ」と、ずっとずっと言い続けるんです。
 計算に根拠がないことは翌日の報道で指摘されるんですが、スターマーはそれが嘘だとすぐに言えず、討論会の場で狼狽えているのが目に見えてわかりました。
 労働党優勢と言われるなかで油断があったのかもしれないけど、何が間違っているのか、何が嘘なのか、言葉で反応するのが遅い。どんなに百戦錬磨でも、即興で話すことはそんなに簡単じゃないって思いましたね。

 この本でも、アメリカの大統領選挙のディベートの例が出てきますね。見ている側からすると、絶対あの場には立ちたくないと思うけど、ディベートではあらゆる事態を想定して準備しているから答えられると書かれていました。
 とっさに話すために、あらかじめ準備をしている、と。

見 スターマーももちろん準備していたんでしょう。ただ、実際にその場に立たされると、心理的・精神的な反応で自分の想定外のものが出てしまうんですよね。
 だから討論を見て、スタンフォードのエリートや弁護士・政治家だからと言って、うまく話せるのが当たり前ではないと感じました。
 スピーチにしても、訓練に訓練を重ねて、本番に立つことを繰り返して、やっと習得する。さらに、本書で扱うspontaneous(自然発生的)なやり取り、つまりアドリブでの会話は、また別の訓練が必要なんですよね。

編 この本では、会話力を鍛える手前に、話すことの恐怖や不安に立ち向かうための「不安対策プラン」を自分でカスタマイズして身に着けて、いつでもそれを繰り出せるようにする、という部分がありましたよね。これがとても具体的かつ実践的でした。

 そうですね。「会話力」の本題に入る前の部分が、結構ミソだなと。実は今回、インタビューのために水のボトルを用意したんです。

 それ、本書で出てきた対策プランの1つですね!
 不安になると、体温が上がり、顔がほてる。この反応を止めるためには、体温を調整する機能を持つ「手」を冷やせばいい。だから水のボトルを用意しておいて、いざとなったらボトルで手を冷やす。
 今日も「話す日」だから、用意しておいたということですね。それ以外に、本書の内容で実践してみようと思ったことはありますか?

 翻訳という仕事を選んだ以上、実際のところあまり話す必要がないんです。  ただ、イギリスでは他人と話す機会が多くなります。東京よりも、以前住んでいたロンドンの方が雑談が重要視されるし、ここ数年は北イングランドのヨークに住んでいるんですが、ここではもっと人との距離が近い。近所の人に会ったら、一言二言話すことになるんです。
 私は新参者で、ここは外国人も少ないから、相手も不安じゃないですか。だから、「ご機嫌いかがですか。今日はいい天気ですね」って話す必要があるんです。私もあなたと同じように、天気がいいとうれしいんですよと。
 お互いの不安感を解消していく意味で雑談は重要で、そこから共通基盤を作らないと次の関係にいけないんですよね。

編 「共通基盤」も、本書に出てきたワードですね。相手との共通基盤を築けていれば、会話はうまくいくと。

「何―それが何―それで何」

見 本書では、話し方の「型」がシチュエーション別に紹介されています。
そのなかでも、「何―それが何―それで何」という型が、けっこう使えるんです。
 例えば、ヨークでタクシーに乗ると、百発百中でドライバーに話しかけられるんです。「今日どこ行ってきたの?」と。
 そこで、「ロンドン行ってきました」で終わっちゃうと、向こうも困るし、こっちも居心地悪いじゃないですか。
 でも、「ロンドンで歯医者に行ってきたんですよ」と続けて、「ヨークに引っ越してきたんだけど、歯医者がまだ見つからなくて、ロンドンまで行ってるんですよ。この辺でいい歯医者さんを知りませんか」って聞いてみる。
 やっぱり、本書の言う通り、自己開示をして、言い切るのではなく1つ情報を付け加えて、もう1つ踏み込んで相手に渡す、ということを気にするようになりました。

  見事なまでに、きれいに本書の型を生かした会話ですね。
 私は小さい頃、かなりの恥ずかしがり屋で、 大人から何か質問されると、「はい/いいえ」で答えて終わらせていたんです。でも、母にあとで、「『はい』、それで何なの?」とよく言われていました。まさに、この型どおりですよね。
母は、決してお喋りではないんですけど、聞き上手なんですよね。

見 「もっと聞かせて」といつも言うマット(著者)の義理のお母さんみたい。

 そう。だから会話力というのは、話す力でもあるし、聞く力でもありますよね。

 本当に、それが人間関係の基本だと思います。

当たり前のことを再認識する

編 「話し下手」や「話し上手」と言うと、 本人の話す量が多いか少ないかというイメージがあるけど、そうじゃないんですよね。
 相手にちゃんとボールを投げられて、それを受け止められて、受け取ったボールを打ち返す。キャッチボールができる人が、「話す力のある人」ですよね。言われてみれば当たり前のことなんですけど。

見  そう、当たり前と言えばそうなんですよね。
 ただ、「書く」には起承転結などの型があるけど、「話す」にも型があるというのは、本書を読む前はあまり考えたことがありませんでした。

編 確かに、プレゼンならまだしも、普段の会話のキャッチボールでも型が使えるというのは、意識したことがないかもしれないですね。ほかに、本書を読んで改めて発見したことはありますか?

見 1つは、Part 1にあるマインドセットの部分です。話す時にどういうマインドセットが最も役に立つのか、うまくまとまっていると感じました。
 たとえば、 “Dare to be dull”。日本語で「ありきたりであれ」と訳しましたが、会話力を高めるための準備をしっかりしたなら、あとは「普通にやれ」と。最低限のことだけをやればいいんだ、と自分に言い聞かせやすいですよね。

編 毎回爆笑をとる必要も、口を開くごとにいいセリフを言う必要もない。頭の片隅に置いておきたい言葉ですね。

頭に残る日本語訳へ

編 "Dare to be dull"という、語頭を「d」でそろえたキャッチーなフレーズを、「ありきたりであれ」と、「あ」でそろえて訳しましたね。こういうフレーズは訳すときに悩むと思いますが、本書で訳しづらかったところはありますか?

 さっきも会話で出た、この本の中核である、「spontaneous」という言葉です。
 spontaneousな受け答え、spontaneousな やり取り、spontaneousな話し方など、何度も何度も出てくるのですが、全て「自然発生的」で訳してしまうのも……。バリエーションをつけるために、あらゆる副詞や名詞を使いました。「とっさの」、「唐突に」、「アドリブで」、「即答が必要な」など、その都度工夫する必要がありました。
 あとは、「さあ話してください」と言われたときに抱く感情や生じる状態を、原書ではあらゆる英語のバリエーションで表現しているのですが、どうすれば日本語で読んだ際に読者に自然と共感してもらえるか悩みました。
 anxious、awkward、disempowered……、原語の表現から一歩離れて、自分の身体感覚としてどういう状態になるのかをイメージして訳したつもりです。

編 それは、非常に工夫されているなと、読んでいても感じました。
 話し方の「型」の名前を訳すのは大変ではなかったですか? 例えば、原書では、「Information」「Impact」「Invitation」「Implication」を「The 4 I's」とまとめていますが、それを「気づきを伝える」「どのような考えを持ったかを説明する」「改善への協力を呼びかける」「改善策の効果に言及する」、まとめて「4つのK」と訳していますね。

見 当初は、そこが一番悩むかなと思っていたんですが、実際のところ、集中していろいろなパターンを組み合わせていたら、わりとすんなりできました(笑)。

編  パズルみたいですね。「4つのI」にしても、英語の頭文字のままだと、日本人は覚えられませんよね。

見 
そうなんです。「きかいに感謝」も「SOS」もうまくまとまったと思いますが、結局日本語で覚えられることがミソなので、気を遣うところではありました。

 「型」の名前は帯にも入れさせていただいたし、アピールになっていると思います。

140回以上のポッドキャストが詰まった1冊

 では最後に、本書のおすすめの「読み方」を教えてください。

見 Part 2はシチュエーション別に書かれているので、特定の課題を抱えている人であれば、それに該当するところから読み始めてもOKです。
 ただ、著者も述べているように、長期的に養っていく必要がある心構えやスキルはPart 1に書かれているので、 最終的には全部読んでみるとすごく面白いと思います。

編 それぞれのお悩みに応じて、好きなところから読んでいけばいいということですね。

 そうです。やっぱりこの著者の本領は、ポッドキャストにあると思うんですね。実際に聞いてみると、面白いしためになる。
 ただ、1回20分の配信が140回以上もあるんですよね。好きなところだけ聞けば良いですが、イチから聞いていくのは大変でしょう? でもこの本を読めば、140回分のポッドキャストの要点が一冊で学べるんです。
 そんなところも、本書をおすすめしたいポイントですね。


〈訳者紹介〉見形プララットかおり
英日・独日翻訳者。国際基督教大学(ICU)教養学部社会科学科卒業後、ドイツのヴィアドリナ欧州大学で欧州研究の修士号を取得。「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」日本版などで社内翻訳者を10年以上経験した後、フリーランスとして独立。英国翻訳通訳協会(ITI)正会員、日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。2007年から英国在住。訳書に『High-Impact Tools for Teams』(翔泳社)がある。

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