脈光
ボクシーの走行距離が22万キロを超えた。
そんな老体に初心者マークを貼り付けてひた走った。寝るのは車中泊。暗くなる前に温泉に入る。普段使っているマットレスをそのままぶち込んで寝る。
宿を休みにしてる時に限って当日予約や問い合わせが多い。電話の雰囲気によっては勝手に泊まってってーとかもやっていたのだが。
ふと北海道を回ると、ライダーハウスは本当に減ったし、旅人の生態も様変わりした。
どこの道の駅も綺麗だし、圏外の場所も殆どない。日本一周も同時期の人等と会いたいときに合流出来て楽しいだろうな。
便利はいい。俺も享受してる。
ただ俺がもしもう一度日本一周に出かけるなら、日本の地理の記憶がなくなるまで頭を叩いてからスマホを叩き割って出掛けたい。
ガス欠寸前でやってるかわからないスタンドまでニュートラルで峠を下ったり。
道を聞いたおばあちゃんの道案内を逆にすることになったり。
昨日のライハにいたおじさんが今日の宿にもいて入るか迷ってみたりしたい。
美味しいもの、きれいな景色がいいだけじゃない。
コンビニのおばちゃんが美味しいって言ってたもの。知らないおじさんがうまいぞって言ってくれたものを食いたいんだ。不味いものもたまには食うからいいんだ。
検索して見たものを確かめに行って何が楽しいんだ。「なんか微妙そうだね」「へーこんな感じのとこかー。」
旅なんて、知識がなくて馬鹿な方が楽しいに決まってる。
そんなどうにもならない思いを抱えながら今日も宿をやる。どうして宿をやってるのかももうわからないけど不思議と辞めようとは思わない。
完全な自惚れだけど、知らない事が少なくなるというのは悲劇だ。
今日も知らない事を楽しそうに話してくれる人が来てくれたらいいな。
こんな嫌われる爺みたいな事を考えてる人の宿だけど。
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