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饗宴フューラーを観た

    「エイリアンハンドシンドローム」以来に参加した。参加というのは正しいのかわからないが。今回は、昨年10月11月に行われた公演の千穐楽の上映会、しかも主宰とキャストさんのトーク付き。大好きな俳優谷口賢志さんの回でした。

 内容をまとめてみましたが、膨らませすぎました。読めたら読んでくださいますと、喜びます。私が。

出演者
・安西慎太郎
・鈴木勝吾
・谷口賢志
・萩野崇
・A:窪寺昭
 (※Wキャスト)

 画家になりたかったヒトラーくんは親から軍隊に入れと育てられてきた。しかしヒトラーくん、病弱な上精神的にも障害を持っており、その期待に応えられない。結局、軍人なれないと国から判断され、行き場をなくしたヒトラーくんは夜な夜な飲み屋に入り浸る。するとそこには同じように行き場をなくして人生を伸びたカセットテープみたいに生きながら、惰性を誤魔化しながらあたかも高い志を持っているかの如く語り合い、実際のところ早送りしてB面の終わりを待っているように生きる男たちが4人居た。「あいつらと俺とは違う」自分に言いきかせながら、この何とも言えない社会からの疎外感と焦燥と諦めのどん底から抜け出そうとするヒトラーくん。4人のうちの1人はヒトラーくんの幼馴染みの音楽家であるシンタロウくん。軍に入れず、好きな絵でも突き詰められないヒトラーくんを彼だけは、笑わず存在を認めて評価してくれた。ヒトラーくんが腐って立ち寄った酒場は、労働党の根城だった。そこには軍人のマサシ、党の共同設立者ハギ、詩人のクボ、政治家のショウゴが居た。
 シンタロウはこの惰性を高揚に突き動かされた党とするため、3人へヒトラーくんを新しい党首ヒューラーとして推薦した。シンタロウはヒトラーくんの才能に心酔していて、悪意なく、流れるまま生きるその日暮らしの毎日に高揚を与えてくれる救世主が彼だと思っていた。ただ、党首マサシだけは納得がいかない様子だった。変わらない毎日、同じ志で集った仲間だと信じた3人、自分の人間性で付いてきてくれてたと思い込んだ3人たちはいとも簡単に新しい党首に期待を抱いている。そうこうしているうちにヒトラーが講演を開けばたった7マルクが何十倍にも膨れ上がり、共同設立者のハギも彼の魅力に引き込まれる。詩人のクボは彼の美学に惚れ込み、講演の見せ方に感心が止まらない。政治家のショウゴは冷静でありながら、単なる酒場の作話が具現化されて驚きと拡大されていく党の規模に扇動されていった。マサシだけは沖に取り残されて、ただ「アイツは怪物だ!」と後に起こる悲劇を預言するような忠告をしても、もう誰にも届かなかった。混乱と鬱屈とした時代には考えてやっと人に伝わる難しい言葉より、分かりやすさが大多数に受け入れられるのかもしれない。かくしてこの怪物の予備軍が一国の支配者になるまで、そう長くはなかった。マサシはショウゴに幹部待遇にするから党に残るよう説得されるも、現状の変化に「己の心の高揚がないから」と誘いを断り、その数年後ミュンヘンで死去した。思いを簡単に言葉にできるヒトラーへの嫉妬は無かったか、悪意はなかったか。
 党はいよいよ大きくなり、詩人のクボが心酔していた美学より、軍としての規模が広がっていった。「もう十分じゃない?」かく言うクボもユダヤに対する怒りを持った悪意ある発言なのか、はたまた酒場の4人時代の未練なのか、小規模で好きなことをしたかったクボからすると、順を追わず踏まずの急激な組織拡大に対し、まさに「君のハテナは膨張」した。「何気なく過ごした日々が首を絞めていたと気づく」のだ。「んいや、唐突な(PIERROT)アジテーター✋」と私の中の霜降り粗品が突っ込みを入れたところで、阿片中毒詩人のクボが壇上でヒトラーと化す。窪寺さんが演じた役にのめり込んで、命を燃やしながら熱演する姿は、まるで何かに取り憑かれているようだった。丹精な顔立ち、小さな顔にスラリとしたスタイルの男性がこれほどまでに、狂気に取り憑かれたように叫ぶ姿を観たことがなかった。少なくとも大人の男性の迫真に迫る表情には圧倒された。程なくしてクボは党を去り消息不明に。
 ヒトラーくんの才能と組織の爆発的進化にすっかり陶酔していたハギも、異変に気づき始めた。我を忘れるくらいに全力で踏み外しを阻止しようとしたマサシを振り払い、信じてヒトラーくんへ付いてきた気持ちをすぐには変えられなかった。ハギは感情的にヒトラーくんを追い詰めるのではなく、優しく諭したが、その声も届かなかった。
 シンタロウはヒトラーを思い、身を案じた。親友だからこそ彼の暴走も踏み間違えも理解しようと辻褄あわせをしながら生きてきたのかもしれない。党へ呼び寄せた自身の責任、ただ弁の立つ青年を怪物にしてしまった自身の行動、すべてに悪意はなかった。親友だったが暴走して怪物と化した何かには、もう言葉は届かない。ヒトラーの猜疑心で埋め尽くされた心は誰も止めることができなかった。やがて親友であるシンタロウは粛正されてしまう。
 最後に残ったショウゴは高揚の象徴だったヒトラーが日に日に正気を失い、失墜していく姿を近くで見ることしかできなかった。「親友のシンタロウはどこ?」、ショウゴが答える「もう居ません」最後にショウゴも失い、始まりの5人はヒトラーのみとなってしまった。

 これからの続きが「知り難き〜」に繋がるそうなのですが、秋頃にこのフューラーが公演されていたときは何故か観にいけず、沢山の後悔でほとんど希望が薄い本公演のソフト化を望んでいました。なかなか観るのは叶わないとも思っていたので、このタイミングでの上映会の機会に参加でき、やっと始まりの5人の話を観ることができました。

 客席の間に軍服を着たマネキンが居る。そこから1人また1人とヒトラー役が変わっていく、音楽家クビツェクなら?ゲーリングなら?客席に居る誰かなら?様々なもしもが問いかけられる。ボケッと観ていると収録でなければたぶん間近で憑依された俳優から喝を入れられるかもしれないし、られないかもしれない。マサシさんから生「クソが!」をいただけるかもしれない。各俳優が代わる代わるヒトラー役を演じるため、場面説明は俳優の名前としました。

 個人的にはマサシさんの役に共感しました。一番人らしい役だったと思います。谷口さんのお芝居は幾つか拝見しましたが、とりわけ衝撃的でした。怖かったー!裏腹に、トークショーの言葉はカッコつけもなく心の底から選び出されていて、出会いと運命に感謝し、これからも谷口さんの演技を観て行きたいとあらためて感じたひと時でした。熱狂と高揚を思い出させてくださった1人は間違いなく谷口賢志です。

 そして窪寺さんをあまり観てこなかった事に後悔しています。劇団も窪寺さんも伝説になると信じてますが、なってからじゃ遅い。悔しい気持ちは次回の観劇のときに伝説の1ページの証人だという自覚を持って観に行く覚悟でいたいです。

 一度の記憶なので、違うところがもしあれば教えてください。感想もください。

長文お読みいただきありがとうございました。


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