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【魔女と獣とふたり旅】くさび石となまけた龍と溶岩湖(10/10)【TRPG/リプレイ/完結済】

スフィ
「...はい!よろしくお願いします!ネルさん!」

紅き龍
「……」
 
ガチリと組み交わされた二つの手。聞き慣れない名を気に留めつつ、叫んだ。

「落ちるなよッ!!」

次の瞬間、龍はその両翼を羽ばたかせ、空気を掴み、押し出し、爆速で天空に向かう。

「ガーッハッハッハッハ!!速いのう!!心地よい速度だ!!」
 
スフィ
風圧に耐えかねて目があまり開けられていない。しかしそれに慣れた頃、頂上の更に上で見る景色に

「すごい...」
 
感嘆の言葉を漏らす。

紅き龍
この世界が持つ力、魔力が火山活動として暴発する。眼下には、人間の君にとっては圧倒的なスケールの災厄が広がっていた。

「スフィよ、お主は麓から来たのだな?」

視線が君の出身の街に向けられる。
 
スフィ
「えぇ。そうですね。灰が降る街...」

灰対策のドームに覆われた生まれ故郷へとつられて目をやる。
 
紅き龍
「ガハハ。そうかそうか。ではちと手を入れておいてやるか」

大きく息を吸いこみ、火炎を圧縮した熱線を放つ。街を大きく避ける様に、大地に罅を入れる。火砕流はその割れ目に沿って流れていく。

「魔力の流れを調整してやった。…住み慣れた場所でしか出来ぬ芸当だが…これより先はお主にやってもらうとしよう」
 
スフィ
「えっ!えっ!?」

目の当たりにした光景に頭が追い付いていない。

(と、とりあえず返事しとかなきゃかな!?)
「え、あの、は、はい!」
 
紅き龍
「…して、スフィよ。……ネルとは誰の事だ?」 

バサリッ。宙に器用に留まりながら、怪訝な顔で首を傾げる。
 
スフィ
「あ!その...これから旅へ連れて行ってもらうのに、ずっと『龍さん』じゃ忍びないかなと思って...」

「...レッドスピネル...自然に生成される紅い宝石の中で強い赤を放つ石...。」

「灰降りの街では、その中でも最も強い魔力を秘めた物を”クリムゾン・スピネル”と呼ぶらしいんです。アタシ自身、お目にかかったことは無いんですけど、龍さん...ネルさんを見た時にそれを思い出して...」
 
龍の顔色を伺うように見上げ、呟く。

「ご迷惑でしたかね...?」

紅き龍
「…迷惑も何も……お主……なんともないのか…?」
 
何故か心配そうにキミを見つめた。
 
スフィ
「え?何がです?」
 
紅き龍
「……生きている…だと……」
「…四肢の欠損はない…等価交換……?!」
 
まじまじと観察し、息を呑む。

「はぁ…スフィよ…魔獣に名を与えるという事がどんな意味を持つか、何を齎すのかを…知らんのか……」
 
スフィ
「え!?何かまずいことがあるんですか...?」

冷や汗が一筋流れる。
 
紅き龍
「力が同一な者同士でしか結べない契約。それが名を与える…という事だスフィよ。」
「お主から授かった証…」
 
頭を揺らす。前髪と共に、角に括り付けられた宝石が揺れる。

「この契約は、一時的な物。魔力の多寡は関係ない。…それが名づけとは違う点だ。」
「我という強大な存在に名を与えたならば、普通であれば、我が魔力を吸い尽くして殺してしまうのだ」
 
スフィ
「...マジですか。」

口角をひくつかせて、青い顔をして答える。
 
紅き龍
「…心当たりがあるとすれば…先ほどの魔石料理か……」

ふぅ、とため息を一つ

「…ハッハッハ……して、スフィよ」 
「我が名は何と言う? もう一度言うてみよ。」

スフィ
「あ、はい...!」

先ほどよりも緊張した面持ちで深呼吸をしてから答える。

「魔紅の尖晶石【クリムゾン・スピネル】です!」
「...なので、ネルさんって呼んでも良いですか?」

また伺うように改めて聞き返す。
 
紅き龍
「クリムゾン……スピネル………」
 
ネル
「…ガーッハッハッハッハ!!! 良い!良い響きだ!愛称はネルというのか!ガハハ!」

優しい眼差しをスフィに向け、口を開いた。
 
「許可を求めるな、スフィよ。貴様にだけ、我を“ネル”と呼ぶ資格があるのだ。呼びたくば呼ぶとよいだろう?”スフィ”」

何気ない返答に使われるキミの名。それはどことなく、今までとは違う重みで使われている気がした。
 
スフィ
「あ...はい...!これから...」
「よろしくお願いします!"ネルさん"!」

それに応えるように、自分の心にも刻む様に。名前を呼んだ。

「ゃった...!」

小さくガッツポーズをして呟いた後に、

「えへへ」

と、はにかんだ。
 
ネル
「スフィ。森について、説明しておったな? 甘いぞ、詰めが。まだ見ぬ世界故にな。」

空いている手を、とある方向へ向けた。
 
スフィ
「?」

手の方向へ視線を向ける。
 
ネル
その先には、今いる場所より高い標高の山脈が見える。
「森と一口に言うても、湿度が高く、じめじめとした森。」
「凍てつく大地を割って、縦に真っすぐ伸びる森。」
「奴らは環境によって姿を変え、生き方を変える。実に奥深いものだ。」

視線を別の方向へ向ける。

「あの山脈の頂を見てみろ、白の冠があるだろう。あれは何だと思う?」
 
スフィ
「ゆき...雪!空から落ちる冷たい白い結晶...!あれが...!?」

好奇心に煌めく視線をネルへと向ける。
 
ネル
「きっとな、スフィ。お主の髪色より白いぞ、あれは。……我は近づくことは出来ぬがな…溶かしてしまう故に…」

別の方向をピンと指さす。

「水に過敏に反応しておったな。であれば、あれはお主の目にはどう映る?」

視線の先、そこには大運河が広がっていた。大山脈と大山脈に挟まれた大渓谷が遠く遠く伸びていた。
 
スフィ
「…あんなにいっぱい水が…流れて……。すごい…!青く…青く見えます!」

良く見るためか、瞳の色を赤に変えて、はしゃいでいる。
 
ネル
ひょいっと手を上に引き上げる。そして君は、吸い込まれるようにして、ネルの肩に跨る事だろう。

「目を凝らせ。更にその彼方には何が見える?広大な水溜まりが見えるだろう?」
 
スフィ
「っとと...」

肩に跨ってバランスを取りながら、言われてその奥を眺める。

「あれって...もしかして...!」
 
ネル
「ガハハ!博識じゃないかスフィ!あれが”海”って奴だよ」
 
スフィ
「大火山に分かたれる前の資料でしか見たことなかったです...!あんなに...あんなに大きいんだ!"海"って...!」
 
ネル
下からネルが見上げる。
「何処に行きたい、スフィ。何処へでも連れて行ってやろう?」

スフィ
「水の力が豊かな所に行きたいんです。街に、何か持って帰りたいから...」
「みんなのために!」

にかっと笑って答える。
―この時初めて心から思えたのかもしれない。みんなのために、って―
 
ネル
ガハハと高らかに笑う。

「それじゃ何処に行けばいいか分からんだろう!世界は広いからな!我が小さく見えるほどに!」
「…まぁよい。我とスフィ、2人で探せばなんでも見つけられる。」
「そうだろう?」
 
スフィ
自分の足の間に収まる小さな暴君から力強い言葉を投げかけられて、嬉しさがこみ上げる。

「…うん!ですね!2人でならいくらでも、どんなものでも!」
「じゃあ、ネルさん!あっち行きましょう!」

日の昇る方角を指差す。

「なんか、青いです!すっごく!!」

ネル
「ガハハ!!勘か!!よかろう!!」

――掴まっておれよ!
 
バサリと大きく羽ばたく。
ネルはスフィを乗せ、目的地すら定めずに、東へ一路、飛んでいく。

――こうして、未熟な弟子が
師匠に認められるために、街の皆を助けるために

紅き龍の”ネル”と共に、水を求めて旅立つのであったーー
  
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GM
第1話『灰色の天蓋を超えて ーくさび石となまけた龍と溶岩湖ー 』
終了!!!お疲れ様でした!!!!!!!!!!
 
スフィ
お疲れ様でしたー!!

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