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ハーフタイム-A 二村さん、新しい恋愛論を!(石田月美)

二村ヒトシさま

前回の書簡では、二村ヒトシの真骨頂を見せていただいたようで改めて感服しております。変化を恐れず、誤りを認め、助けを求める。これは誰にとっても必要なのに、誰にでも出来ることではありません。その振る舞いを見せていただけたことが非常にありがたいです。私の方も、今まで以上に真摯に向き合った対話を心掛けねばと、身が引き締まる思いです。

そこで急なご提案で誠に恐縮なのですが、次から書簡の順番を逆にするというのはいかがでしょうか。今までは私、石田月美が先に書き、二村さんが後に書いてくださいました。それを逆にし、二村さんが先に書いた書簡に私がお返事させて頂けたらと思います。

ここまでの往復書簡で、私は「心の穴」の問題点を指摘させて頂きました。ですが、きっと私に言われずとも二村さんご自身もこの20年間、考え続けて来たことでしょう。問題点を明らかにするのに、最初は私の問いかけが必要だったかもしれません。しかし、そうは言っても二村さんには二村さんご自身のお考えや、私の問題提起に対する疑問や反論もたくさんあるはずです。

「これからの恋愛」と銘打った連載で、読者が待ち望んでいるのは「二村ヒトシの新しい恋愛論」です。これは決して私の謙遜や自己卑下でなく、私自身がそれを待ち望む一人であるからこその実感です。

そこで、まず現時点での二村さんのお考えや新しい恋愛論をお聞かせ願えたらと思います。その上で、対話者として一緒に考えさせて頂きたいですし、尽力惜しまず真摯に対話を積み重ねていきたいと心から願っております。

二村さんに「一緒に考えて欲しい」と言ってもらえたことは、私にとって身に余る光栄です。その期待に応えたいとも思いますし、是非とも誠実に向き合って考えさせて頂きたいです。ただその場合、「何について考えるのか」を明確に示していただけると、私の方もそれらに沿った形で応答出来るかと思います。

前回の書簡で二村さんは「『じゃあ、恋愛で苦しい人や不幸になる人は、どうすればいいの?』について考えなければならない」と書いてくださいました。しかし、恋愛の苦しみというのは、恋愛それ自体が持つ逃れられない作用のようにも感じます。また、人の幸不幸というのは一概には規定できません。なので、もう少し解像度を上げて教えてくださると、私も一緒に考えやすくありがたいです。そして解像度を上げることによって、これまでの書簡で確認したような問題が再発しにくくなるかと思います。

私が言葉にこだわりすぎなのでしょうか。そのこだわりに付き合わせているとしたら、大変申し訳ありません。それでもやはり、私は言葉を大切に扱いたいと考えます。それは私たち物書きを物書き足らしめる所以だからというのも勿論あります。しかし、そのような己の都合以上に、言葉を大切にするというのは読者を大切にするということだ、と私は考えているからです。

曖昧に誤魔化して断定した文章は、まるで冷水のようだと私自身感じることがあります。それを浴びた読者は、その冷水の衝撃が大きく、その後に美辞麗句で編まれたブランケットに包まれれば「なるほど! そうだったのか!」と錯覚してしまいがちです。しかしその実、衝撃だけで何も書かれていない本というのは少なくありません。「これを読めば○○のすべてがわかる」と謳った書籍は人気ですが、中古本屋にもよく置かれています。それは読んだ方が、本当に○○についてすべてがわかったから手放した訳ではなく、結局何も書かれていないことにお気づきになったからでしょう。

冷水という表現がわかりにくければ、相撲の「猫だまし」という技にも似ていると思います。目の前でパン! と手を打たれた衝撃に驚いているうちに一本取られてしまったと。相撲では至極大切な技ですが、言論においてはあまり褒められるものではないというのが私の意見です。なぜなら、私はそういう本を散々買って読んで後悔してきたからです。そして、この往復書簡はそのようなものにするのは避けたいと思いますし、二村さんも同じお気持ちでしょう。

私がまず初めに「痛みから出発させたい」と申し上げたのは、私の身体から出た言葉で書きたい、伝えたいと望むからです。だから「傷ついた」などとは申しません。傷などついていないからです。ただ、痛いのです。私は被害者意識からこの書簡を始めるつもりは、毛頭ありませんし、これまでの前半戦ではむしろ私が「心の穴」に対する加害を行っていることも自覚しています。どうか、20年間もお使いになられた「心の穴」をお守りください。そのためにも二村さんご自身の身体が伴った言葉を教えてください。

この往復書簡も気付けば三往復を終えました。そろそろ次のフェーズに移ってもよい頃かと思います。二村さんから現時点でのお考えを伺えるのが、一読者としてもとても楽しみです。

どうぞ、よろしくお願い致します。

石田月美