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【書誌】「DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール」ダイヤモンド社

【書誌情報】

William O. Perkins Ⅲ, 2020, DIE WITH ZERO Getting All You Can from Your Money and Your Life, Massachusetts, Houghton Mifflin Harcourt Publishing Company. (児島修訳, 2020, 「DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール」, ダイヤモンド社) 

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【読書目安時間】

3~4時間(278ページ)

【目次】

・著者の紹介

・作品の背景 

・本の内容 

・感想、評価、批評 等

【著者・訳者の紹介】

ビル・パーキンス

1969年、アメリカテキサス州ヒューストン生まれ。アメリカ領ヴァージン諸島を拠点とするコンサルティング会社BrisaMaxホールディングスCEO。アイオワ大学を卒業後、ウォールストリートで働いたのち、エネルギー分野のトレーダーとして成功を収める。現在は、1億2000万ドル超の資産を抱えるヘッジファンドのマネージャーでありながら、ハリウッド映画プロデューサー、ポーカープレーヤーなど、さまざまな分野に活躍の場を広げている。本書が初めての著書となる。

児島修

英日翻訳者。訳書に『脳にいい食事大全―1分でアタマがよくなる食事の全技術』『天才の閃きを科学的に起こす 超、思考法―コロンビア大学ビジネススクール最重要講義』『自分を変える1つの習慣』『一人になりたい男、話を聞いてほしい女』(以上、ダイヤモンド社)、『やってのける』『自分の価値を最大にするハーバードの心理学講義』(以上、大和書房)などがある。

 本文から引用した、著者と訳者の情報は以上の通りである。

少し補足すると、著者のビル・パーキンスさんの通ったアイオワ大学は、1847年に創立され、アイオワ州最大の図書館を持つ。彼は、在学中はフットボールに熱中し、電子工学(情報処理や電子機器の基本となる工学)を学んだ。ここで培ったという、「物事を最適化する」という考え方は、本書のテーマともなっている。また、2人の娘の父である。

 訳者の児島修さんは、ノンフィクション出版物の翻訳を専門とするフリーランスの翻訳家である。本文からの情報では成果物のみが記されているが、1970年生まれであり、著者とほとんど同年代であるようだ。趣味は読書と裏山の探索らしい。

(日本会議通訳者協会, 2020, 『【JITF2020】児島修「ノンフィクション出版翻訳の素晴らしき世界 ~その特徴と制作の流れ、翻訳者に求められるもの~」』, https://www.japan-interpreters.org/news/forum2020-kojima/, 参照日:2021/9/1)

【作品の背景】

ことの始まりは、パーキンスが若い頃に安月給から節約を重ねて貯めたお金について、上司から「お前はバカか?」と問われたことだった。それ以降、支出と収入のバランスについて深く考えるようになった彼は、金で買えないかけがえのない経験をした同僚の話を聞くうちに、豊かな人生を送るために必要なものは、思い出をつくること(=経験すること)であると気づいた。それから彼は、友人に「名誉億万長者」と呼ばれるほどに、「今何ができるか」「今しかできないことは何か」を考えて、自分がしたい経験をしてきた。この本は、そのような限りある人生の時間やエネルギーの最適化を多くの人に広めるために、煩雑なデータの処理をするアプリを開発しようとした企画が元になっている。 

【本の内容】

本書では、「人生の経験を最適化する」ことをテーマとして、「今しかできないことをする」ことで豊かな人生を送るための9つのルールを紹介している。タイトルの「DIE WITH ZERO」は、ただ浪費を推奨しているわけではなく、死んだときに残ったお金とそのお金のためにする労働は、自分自身の人生のエネルギーや時間の無意味な消費であるという考え方を示す。以下より、ルールごとに内容を整理して紹介していく。

<ルール1:「今しかできないこと」に投資する>

このルールは、本書で繰り返し述べられる基本的な考え方である。人生において、自分にとって有意義で思い出に残る、「今しかできないこと」はどんなものがあるだろうか。今はいつでもできることでも、いつまでもそのことができるとは限らない。人生は経験の合計であるため、自分が何をすれば幸せになるのか知り、その経験に惜しまず金を使うことで、経験を最大化して豊かな人生を送ることができる。

<ルール2:一刻も早く経験に金を使う>

 なぜ経験に時期の早さが必要なのかというと、「記憶の配当」があるからである。これは、経験を思い出したり共有したりすることで生まれる経験(副次的な経験)は、時間が経過するごとに、投資における複利のようにどんどん積み重なっていくという考え方である。早く経験すればするほど、経験が人生に与えるプラスの影響は大きくなっていく。だが、その理由はこれだけでない。他の理由については、ルール678を通じて紹介する。

<ルール3:ゼロで死ぬ>

 タイトル回収の章。データから、老後のために使うと貯めたお金ですら、医療費を含めて多くが使われていないことが示される。年を取ると、人はお金を使わなくなるのだ。死んだ後に残ったお金(=使わないお金)をためるために、自分自身の人生のエネルギーを消費して仕事をしてしまう人のなんと多いことか。仕事が好きで仕方ない人も、仕事外で仕事のためとなるような、有意義な金の使い方をするべきである。

<ルール4:人生最後の日を意識する>

人生最後の日は必ず来る。自分の人生の終わりを知らないと、人生の計画を効率的に立てることは難しい。遺伝子情報や平均データを用いることで、自分の余命を知り、それに対しての最適な手段をとるべきである。つまり、死ぬまでに資産が尽きないようにしつつ、できる限り人生を楽しむ(=経験を積み、その経験とともに生きる)ことを考える。高価すぎる最新の医療を用いて、数十年かけて貯めた金を数年で使って延命するのもいいが、潔く死ぬ選択肢もある。それより、予防に金を使うべき。それか、介護保険や長寿年金などを使ってリスクに備えるべきだ。

<ルール5:子どもには死ぬ「前」に与える>

子どもへの相続や慈善団体への寄付に関しては、生きているうちにする方がよほど彼らのためになる。なぜなら、無計画に死ぬタイミングでお金を渡すよりも、お金の価値を最大限引き出せるような適切なタイミングで、適切な額をその都度に渡すことができるからである。また、相続や寄付の分のお金を予め取り分けることによって、気兼ねなく自分のためにお金を使うことができるだろう。

<ルール6:年齢にあわせて「金、健康、時間」を最適化する>

当たり前だが、歳をとるごとに健康状態は悪化する。また、誰にでも等しく存在すると思いがちな時間に関しては、その価値を相対的に低く見積もりすぎることが多い。その結果、お金の価値を必要以上に高くとらえてしまう。これらがどれも同時期に揃うことは難しい。健康は若い頃からの継続的な維持行為が大事で、時間は金で買えることがあるということを覚えておくようにしたい。くわえて、お金から価値を引き出す能力は年齢と共に低下していく。そのため、早いうちに貯蓄を抑えてでも経験に投資してできるだけお金を使うべきだ。

<ルール7:やりたいことの「賞味期限」を意識する>

死ぬ直前に後悔することとして、自分に忠実に生きなかったことや働きすぎたことを多くの人が挙げるという。そのため、そのような後悔がないように、死ぬまでにやりたいことリストの内容を、5~10年の間隔でバケツに入れていくグラフ(=タイムバケット)を作ろう。これによって、物事の適切なタイミングや計画、両立の可否などが分かる。このグラフから、今いつでもできることがあることを見つけたら、すぐにやるべきだ。もちろん、これも頻繁に見直して作り直すべきである。

<ルール8:40~65歳に資産を取り崩し始める>

 ゼロで死ぬためには、純資産を減らすタイミングを自らが計画する必要がある。そのタイミングは多くが、45-60歳の間である。この計画を立てるためには、老後の資産を計算する必要が生じる。利息分も含むため、一般的に言われている額の70%ほどでいいこともある。死ぬまでに最低限必要な額をためたら、金額だけではなく時間や健康に基づいてピークを決める。多くの場合、ピークはリタイア前にやってくるため、時期が来たら稼いだ額以上に支出することを目指そう。

<ルール9:大胆にリスクをとる>

この章は、若者に向けてのメッセージだ。少し趣が変わるが、この章があるおかげで、どんな年齢の人も吸収できるものがある本に仕上がっている。若いうちは失敗しても簡単に再起可能であり、人生にはリスクを大胆に取るべき時がある。そのため、大胆に行動するためのポイントを3つ挙げる。

①人生の早いタイミングの方がいい。

②行動しないリスクを過小評価しすぎない。しないことで失うものもある。金以外にも。

③リスクの大きさと不安を区別すべき。最悪のシナリオを想定して安全策を検討するとよい。

【感想・評価・批判など】

本文中でも言及されているが、経済的な独立と早期リタイアを目指す「FIREムーブメント」(Financial Independence, Retire Early)の考え方を基本としつつも、明確に異なった考え方をしている点が大きく分けて2つある。

1つ目は、若い頃の時間の過ごし方について。前者においては、若い頃の時間を無駄にすることなく、自分の1時間あたりで稼ぐことのできるお金を最大化することで、より早く多くのお金を稼いでそのお金を投資などの手段でさらに増やすことを第一に考えている。後者においては、若い頃の時間を、お金から人生を豊かにするための価値を引き出しやすい時期ととらえ、経験のためにお金を消費することをいとわず、最悪借金してでも実りある経験をすることを第一に考えている。 

2つ目は、「金、時間、健康」の判断軸の中でも「健康」について。前者においては、「金、時間」に比べて、「健康」への意識の比重が低いことは疑いようがない。「時間」を「金」で買うようなことは考えても、その対象が「健康」になることはなく、熱心に「FIRE」の達成を目指すなら、予防に使うお金があったら投資したがるだろう。後者においては、これらの3つのバランスを強く意識されていることは、ここまでお読みいただいた方々なら承知済みだろう。このバランスが本書の一番重要な部分であり、筆者の伝えたいことでもある。

3つ目は、「金、時間、健康」の判断軸の中でも「時間」について。前者においては、「時間」はある意味で味方ともいえる存在だった。なぜなら、時間が経過すればするほどお金は増えるものだと考えられているからである。そのため、なるべく早く複業や投資を始めることが求められた。後者においては、「時間」は必ずしも味方ではない。なぜなら、時間が経過すればするほど、自分の健康を損なっていってやれることが少なくなるうえ、その経験から得られる価値が低下するからである。もちろん、「記憶の配当」を考えると、経験の増幅に時間が味方することもある。だが、繰り返し述べられるように、「今しかできないこと」を将来に先送りすることは、大きな後悔を残すこともある。

本書を読んで、「その経験が自分にもたらす価値はどのくらいなのか」を自覚し、その経験をする機会を自ら計画したうえで、実際の価値を判断するという、主観に基づいた作業ができるということが前提となっているように感じた。人生を送るうえでは当たり前のことのように感じるかもしれないが、本当の意味でこれらができている人はどれだけいるだろう。

自分が本当に求める経験の価値を知っている人はどのくらいいるだろうか。逆に、自分のやりたいこととやりたくないことが分かっていて、求める経験がはっきりしている人の方が少ないかもしれない。一時期流行った「自分探しの旅」に出かける人は未だに多くいる。

自ら経験の機会を計画して、価値を適切に判断できる人はどのくらいいるだろうか。価値を判断するときの自分の状態によって、その判断の結果が異なることは多くあるだろう。くわえて、自分の状態は必ずしも自分でコントロールできない。また、経験の機会を計画したとしても、偶然や外部の要因でその計画が失敗することがあり、それは予測できない。

だが、0で死ぬことを達成することよりも、それを目指すことで自分の意識や行動を変えて豊かな人生を送れるようになることと同じように、計画は立ててその達成を目指すことに意味があるので、できないかもしれない恐れを感じる前に、9つのルールを守ることを目指すべきである。

 また、自分にとって価値の高い経験を作り出すために必要なものは何だろう。

最近は、ウェブを使って事業を行う多くの企業が、マーケティングの一環としてユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験)を重視する施策を打ち出している。企業のSNSによる広報は今や当たり前のものとなったし、低コストで動画を制作したり生配信したりすることができる時代が来た。企業が求めるがままに自分にとって価値の高い経験を捏造していないだろうか。自分のする価値判断を、友人やインフルエンサー、ネット上の口コミを書く見ず知らずの人にゆだねていないだろうか。それでいい時もあるし、悪い時もある。でも、すべてがそうならないように、今一度自分にとって価値の高い経験とは何かを考える必要があるだろう。

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