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大河ドラマと戦争

ドラマや映画において「戦争」は極めて扱いが難しい(それも他国との史実の戦争は特に)代物だろう。この世に戦争賛美などあってはならないし、無論引き起こしてもいけない。ところがドラマや映画の戦闘シーンはカッコいい。視聴率もとれる。あらゆるドラマや映画の関係者にとって、常に頭を悩ませているテーマだと推測する。
従って「戦争をどう扱うか」は脚本家や監督の意向が反映されやすいテーマの一つともいえる。私はNHK大河ドラマはそこそこ見ているので、日本全体に影響力の強い大河ドラマの戦争描写について、過去10年を振り返ってみたい(下記、私の「記憶」によるところも大きいです。あしからず。)。

・2014年「軍師官兵衛」(黒田官兵衛、脚本前川洋一)


最近では珍しい「王道大河」というべきか。官兵衛が関わった戦の多くをきちんと描いていた(ただ主人公が足の不自由な「軍師」なので、それほどドンパチはなかったが)。
荒木村重反乱時の人質惨殺、城井谷殲滅事件などもしっかり表現しており、「大河ドラマ」として日本で起きた「歴史」を知らしめるという役割を果たしていた気がする。どうせやるなら上月城攻めや宇留津城攻めの時の敵方処刑など、もっと戦国時代の「現実」を見せてもよかった気がするが、あれもこれも言っては尺も足るまい。好感度の高い大河ドラマだった。

・2015年「花燃ゆ」(杉文、脚本大島里美他)

吉田松陰の妹が主人公という難しい設定だったが、決して主人公がヘタな「非戦論者」になることもなく、禁門の変、池田屋事件、第2次長州征伐、萩の乱などをよく描いていた。
幕末、特に長州藩は例えば吉田松陰を「偉人」と見るか「テロリスト」と見るかなどかなり難しい問題で(「正義」と「正義」がぶつかり合う今のイスラエルやロシアのような状況であった)、下手な脚本家の解釈などを織り込むと話が変になってしまったかもしれず、また全体的なタッチの軽さは気になったが、これはこれで健闘したのではないかと思う。

・2016年「真田丸」(真田信繁、脚本三谷幸喜)

信繫自身は大坂の陣以外はあまり戦にかかわっておらず、戦国時代のわりに戦に関する描写は少なかったが、歴史に造詣が深い三谷氏の脚本ならではというべきか、コメディタッチが多い中でも「現実」を視聴者に直視させるシーンもあった。
たとえば大坂冬の陣の和議の際、徳川方阿茶の局の「城があるから兵がたまり戦になる。だから取り壊してしまえばよい」という口車に豊臣方大蔵卿局がすっかり乗せられてしまい、豊臣家滅亡を招くというシーン(史実は違うようだが)は、現代日本の国防への警鐘に思えた。

・2017年「おんな城主直虎」(井伊直虎、脚本森下佳子)

資料が非常に乏しい女性城主の井伊直虎を扱った(しかも男性説が有力)今作であるため、かなり脚本家の創作の強い作品だった。前作と異なり「戦を嫌がり平和を希求する」女性リーダーを表現していた。
例えば主人公直虎に本拠地井伊谷を「武家を再興などせず、みんなが楽しく笑って過ごせる場所であれば、それでよい」と言わせるなど、時代背景を無視したシーンもあり、やはりそれが仇となったのか前作より大幅視聴率減となってしまった。

・2018年「西郷どん」(西郷隆盛、原作林真理子、脚本中園ミホ)

久々の王道大河。寺田屋騒動、戊辰戦争、西南戦争など西郷が関わった戦を変に脚色することなく描写していた。
どうも西郷の人格を美化しすぎの気もしたが(歴史に対する功績が大きいのはむしろ大久保の方)、まあ主人公はそういう扱いだから仕方あるまい。何年かしたら大久保主人公の大河ドラマを見てみたい気もする。難解さが避けられない幕末の大河とはいえ、見ごたえのある作品だった。

・2019年「いだてん」(金栗四三、脚本宮藤官九郎)

無論戦争の直接的な描写はなかったが、時代的に戦争との関係は避けられず。スポーツと政治(国威発揚)が不可分であることを表現していたのは意義深かった気がする。
また終戦後日本人がソ連兵に射殺されるシーンがあったりと、ヘタに「日本人とソ連兵と中国人が力を合わせて~」などないのもまたよかった。
日清、日露、第1,2次世界大戦と、なかなか日本ではドラマも映画も少ないが、いい加減ある程度他国らからのクレームやなんかは覚悟のうえで、きちんとした戦争映画を作ってみたらどうか?それ以前に秀吉の朝鮮出兵をまともにやってほしいものだが、、、

・2020年「麒麟がくる」(明智光秀、脚本池端俊策他)

「麒麟」というのは作中のオリジナルキャラが願う「天下に太平をもたらす存在」のこと。このオリキャラ(門脇麦)に「お武家様はいつも戦ばかりして!!」とか言わせる脚本には不評も甚だしかった。
新型コロナに襲われたとはいえ、まともに描かれた戦は長良川の戦いくらい。せっかく光秀を扱ったのに長島の一向一揆殲滅などの主要な戦い、更には丹波における赤井氏、波多野氏との戦いをほとんど扱わないというワケのわからない大河だった。

・2021年「青天を衝け」(渋沢栄一、脚本大森美香)

渋沢が若いころに直接参加した戦いがあるわけではないが、それでも大河ドラマとして「天狗党の乱」をしっかり扱ったのは意義深かったように思う。
実業家になってからも日露戦争の結果に大喜びしたりと、決して渋沢を美化しない描写だった。

・2022年「鎌倉殿の13人」(北条義時、脚本三谷幸喜)

コロナが続いており、義経の対平家の戦いはかなり簡略化されていたが、義時の本領は頼朝が死んだ後の壮絶な権力闘争であるため、こちらは一つ一つの戦いを丁寧に描いていた。
「必要悪」として不穏因子を先んじて排していき、何だかんだで安定した政権を作り上げてきた義時からは、政治とは?権力とは?を考えるいいいきっかけになったとも思える。

・2023年「どうする家康」(徳川家康、脚本古沢良太)

何といっても築山殿と長男信康に「戦ではなく慈愛による国作り」を志向させ、エセの戦をさせるという無理のある設定が大いに不評だった。
家康がモチベーションにしたのは築山殿から託された「戦のない世界を作ること」(実際には戦がなくなったのは結果論である)だったという設定も、脚本家古沢氏の「プーチンや自民党に対する意地!!」みたいなものが垣間見える。他にも大阪城砲撃を見た秀忠が涙した上に、家康に「これが戦という人間の最も愚かな所業だ」と言わせるなど、もはや古沢氏は大河ドラマを通じて政権交代を実現しようとしたのかもしれないとも思えてくる。案の定視聴率等「数字」に反映されてしまった。

・2024年「光る君へ」(紫式部、脚本大石静)

始まったばかりだが、「戦のシーンはない」ことは大石氏が公言している。個人的には藤原隆家が登場するなら「刀伊の入寇」を扱ってほしかったが、まあ紫式部と関係ないのだから仕方あるまい。毎週楽しみに見ることにする。


そんな感じで「戦争」をどう扱うかは脚本家次第。ただやはりあまりにひどいファンタジーものだと視聴者は離れてしまう傾向。やはり大河のファンは時代考証にのっとった「歴史」を知りたいのだろうと思う。影響力の強い大河ドラマ、今後はどんな作品が作られていくやら。

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