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科学的根拠に基づく母乳育児確立のためのステップ

「母乳は赤ちゃんを産んだら勝手に出てくるもの」と思っていませんか?
多くの場合、母乳はほっといて勝手に出てくるようなものではありません。
ではどうしたら母乳が出てくるようになるのか?
そこには科学的根拠に裏付けられた大切なステップがあるのです。
今回は僕の専門から離れてしまいますので、搾乳機メーカーのメデラのサイトを参考に、出産後の時系列順に並べて必要な知識を解説していきます。
(※当院助産師の助言を元に修正しました!R4.3.19)

【第1段階(妊娠中~産後3日頃):エンドクリンコントロール】

赤ちゃんは生まれてすぐからおっぱいをくわえようとします。
赤ちゃんがお母さんのおっぱいを口に含むと、お母さんの母乳分泌の「スイッチ」が入り、初乳が分泌されます1)。
可能であれば産後1時間以内に授乳してみてください2)。
最初の一時間はマジックアワーとも呼ばれ、とっても大切です。
24時間に8回以上授乳することも重要とされています3)!
メデラのこの動画が分かりやすいです。


おっぱいの吸わせ方

赤ちゃんのくわえ方は母乳をうまく飲めるか 、どう成長・発達するかということに影響するため、きちんとラッチオン(深く吸わせる)することは母乳育児の良いスタートを切る上で非常に重要です。
口の機能を育てるという歯科的な観点からも。
NPO法人ラ・レーチェ・リーグ日本のリーフレットが分かりやすいです。
この他にも色々なやり方がありますので、知識のある医療従事者から授乳姿勢の支援も受けることが好ましいです。

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【第2段階(産後3日頃~産後8日目頃):エンドクリンコントロール】

妊娠ホルモンであるプロゲステロンのレベルが下がり、プロラクチン、インスリン、ヒドロコルチゾンなどの母乳分泌ホルモンが準備を始めます4)。
赤ちゃんの誕生から3日目前後に「乳汁来潮」が起こり、おっぱいが硬く張り始めます。
でもまだ量はそんなに出ないのが普通です。
この時期の授乳の頻度や時間は赤ちゃんによって大きな差がありますが、24時間に8~12回はおっぱいを飲みます。
効率的に飲むのに必要な筋肉と動きはまだ発達中のため、授乳にかかる時間は、10~15分、長いと45分~1時間になります。
正直ここが一番しんどい時期だとは思います。
でも同時に一番大切な時期
一週間で赤ちゃんの胃はさくらんぼ大からアプリコット大まで成長します。
だんだんとしっかり飲めるようになります。
これもメデラの動画がわかりやすいです。


【第3段階(産後8日目以降):オートクリンコントロール】

母乳は飲ませたぶんだけ作られ、ミルクを足したぶんだけ出なくなる。

最初の数週間はお母さんの身体はどれくらいの母乳を作るべきか学んでいる期間です。プロラクチンレベルは乳房から母乳を出す度に急上昇し、乳房の完全な発達を促します。このプロセスは母乳の成分も成熟させ、量もどんどん増えていきます。
この時期は長期的な母乳分泌を確立していくためにとても大切です。
赤ちゃんが直接哺乳する頻度が高いほど、需要と供給のプロセスを通じてお母さんの体は多くの母乳を作ります。
「与えたぶんだけ作られる」のです。

赤ちゃんに哺乳瓶で不必要にミルクを与えると母乳量が減る可能性があります。
これは「つぎ足しのトラップ」と呼ばれ、ミルクで補って母乳が出ていく量が減ることが3~4日続くと、乳房は卒乳が始まったというメッセージを受け取ってしまい、それに応じて乳房は作る母乳量を減らしてしまいます2)。

【産後1ヶ月】

この時期でも赤ちゃんが頻度高く飲むことは正常なことです。
何度も欲しがるので十分な母乳を飲めていないのではないかと心配になるかもしれませんが、上記の通り頻繁な授乳は母乳分泌の確立に必要なことなのです。
可能な限り赤ちゃんが欲しがるときに欲しがるだけ授乳しましょう。

お母さんのプロラクチンレベルは乳房から母乳を出す度に急上昇し、乳房の発達を促します。このプロセスは母乳の成分も成熟させ、移行乳から成乳へと変化し、その量はどんどん増えていきます4,5)。

【産後2ヶ月目以降】

プロラクチンの上昇は、出産後に授乳をしないと産後7日~数週間で非妊時の状態まで低下してしまいます。
頻回授乳を続けることで、2〜3か月かけてゆっくりと非妊時の状態まで低下していきます。
つまり最初の1ヶ月までのこのステップが、母乳育児確立のためにとっても大事なのです。
このことについてもメデラが動画で解説してくれています。

母乳育児が確立するまでには確かに頻回な授乳が大変な時期もあったりします。
しかし母乳にはミルクにはない力がたくさんあることは間違いありませんし、できれば母乳で育てたいという方が多いのも事実6)。
そのために、科学的根拠に基づいた母乳育児支援がもっともっと充実してほしいと願っています。

母乳育児には長期的にも様々なメリットがあります。

僕が歯科医師として母乳育児を支援したい理由はこちらの記事にも書きました。

しかしなによりも一番の動機は、こう育てたい、という希望をできる限り叶えてあげたいという思いです。
子育てをするみんなが希望する育て方ができるように。

ミルク育てについても、次の機会にまとめてみたいと思っています。

1) Pang WW, Hartmann PE. Initiation of human lactation: secretory differentiation and secretory activation. J Mammary Gland Biol Neoplasia. 2007;12(4):211-221.
2) Kent JC et al. Principles for maintaining or increasing breast milk production. J Obstet Gynecol Neonatal Nurs. 2012;41(1):114-121.
3) Section on Breastfeeding. Breastfeeding and the use of human milk. Pediatrics. 2012 Mar;129(3):e827-41. doi: 10.1542/peds.2011-3552. Epub 2012 Feb 27. PMID: 22371471.
4) Ostrom KM. A review of the hormone prolactin during lactation. Prog Food Nutr Sci. 1990;14(1):1-43.
5) Cox DB et al. Blood and milk prolactin and the rate of milk synthesis in women. Exp Physiol. 1996;81(6):1007-1020.
6) 授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)厚生労働省

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