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傲慢と善良 [辻村深月]

傲慢と善良の視点で記される、二人の男女の恋愛ミステリ。

読書メーターで書いた、まとまってない感想はこちら。今年4冊目。
このペース維持したい。

一つ前も辻村深月を読んでいて、上下じゃなく一冊で収まってる短めのヤツが欲しいとジャケ買いしました。この表紙は一体誰。勝手に、この娘が真実ちゃんだと信じて疑わずに読み進めてたけど。
この真美ちゃんなら、わいは100点。

恋愛ミステリと題されていますが、恋愛の絡んだ男女の成長物語です。
傲慢な生き方をして、結婚したいと思ったときに結婚のできなくなった架が、苦しんだ婚活の末、ようやく出会えた善良なだけの真実。彼女と結婚に向けて生活を共にしていたころ、忽然と真美の行方が分からなくなる。架は必死に真美の行方を捜すが…。

というあらすじはミステリっぽい。話の構成は DESIREパターンなマルチサイト。前半は架パート。後半は真美パートで、二人の心情がこれでもかと書かれています。微に入り細に入り、ホント丁寧に細かく記述されています。

架パートは、ミステリのように話が進んでいきます。突然いなくなった真美を探すため、最初警察へと事件と捜索の依頼をします。しかし、よくよく考えると、ストーカーが誰なのか以前に、その人物像すら全くの不明です。その結果、ただの行方不明者扱いとしかならないと挫折するところから、真美の捜索が始まります。架は、真美が住んでいた実家の両親や、結婚相談所、相談所経由で実際に会っていた男性たちと会い、話を交わしていきます。

架は、彼らと会うことで、彼らの傲慢さや善良を目の当たりにします。そこから、真美の実情を理解しつつ、善良さというか彼女の良さを理解します。半年にわたる捜索も手がかりもなく、手詰まりに陥ります。そんなときに、女友達たちから誘われ、真美の真実(わかりにくい。マミのシンジツ)を知ります。善良の鏡だったような真美が、傲慢な手法をとって結婚への道を取っていたこと、架が70点を付けたことから、真美が離れていったことを理解します。

架は、この騒動で、自分の傲慢さを理解していきます。いわゆる反省をしていくという流れとも言えます。なぜ70点(結婚したい気持ち70%)としていたのか、婚活の苦労の末の妥協点だったのだろうか、今までの生き方は何だったのだろうか。とにかく、彼一人で、さまざまなことを考え、余計なことをしてしまった女友達に強く怒りや憤りを表すこともなく、ただただ自分の傲慢さとたたかうのです。

良い意味で取れば、彼の心の成長です。悪く取れば、女をだしにして、男をおとしめているとも読めます。まぁ、ただ男女関係に関してなので、逆もしかりですから、たまたまこういった人が男性だったと理解しましょう。架は、40も手前になってから、ようやくイロイロと気がつくのです。これが、〆に近いところで表される「鈍感」に繋がっていく様です。

辻村深月の驚きは、その伏線の回収の仕方です。何もかもを回収するわけでもないですし、ボランティアの話のようにわかりやすい繋がりを示すものも多いです。ただ、このように、架を200ページほどかけて、心情をとにかく細かく書き記した結果として出てくる傲慢ではない「鈍感さ」からの善良な部分をずっと書き示しています。この鈍感さ故の善良さは、真美パートの最後で「彼の鈍感さが優しである」と結びつけています。

架はずっと傲慢でしたが、実は、真美にとって、ずっと誰よりも善良だったのです。

真美パートは、冒頭文の書き直しから入ります。ストーカーはいなかった、を明文化しています。架の女友達は一瞬で気がついたストーカーいなかった説。この辺、男は鈍感、女は敏感というステレオタイプな性差を表現しているように感じます。良し悪しは別として、なんとなく一般的に言われていることですし、まぁ女性は怖い。

善良たるいい子であった真美の傲慢さは、ほとんど、架の女友達から宣告されて露わになってもたらされていきます。彼女たちへ抱く恐怖は、確実性ではなく「勘」で解き明かしていく点です。女性特有の恐怖が根底にあることを表現していますね。確かに、女性はちょっとした変化に対して敏感です。ただ、確実性のないことを、そこまで自信を持って言えることがスゴイ。こわい。恐怖です。

真美は、ストーカーがいなかったという事実を架にばらされると思い、実家に逃げ帰ろうとしますが、結局あきらめて宮城へ行きます。以前、金居から聞いた話を思い出して、住み込みのボランティアへと進んでいきます。

その後、真美は宮城でのボランティアやバイトを通じて、今までに出会ったことのないタイプの人たちと知り合っていきます。そこで、自分の考えていたいい子であること=善良とは異なる善良に巡り合っていくわけです。結局、彼女は善良を演じ続けられずに、結婚をするために傲慢さをとるわけですが、傲慢さを獲得したことを良かったことだと感じたのではないでしょうか。自分がやりたかったことをするために、善良であることだけでは成し遂げられない。そういった傲慢さが必要であって、彼女はそれをよしとするわけです。

二人とも、多くの変化を成し遂げた後、結局落ち合うことになります。このパートは、真美パートとして続いているので、架はどういった心情・面持ちであるかは多く語られていません。ですが、二人とも半年以上かけて変わったそれらの面をお互いに受け入れて、結婚へと進んでいきます。ただ、結婚がゴールだとはお互いに思っていないところが、この物語の怖いところです。二人とも、長い時間をかけて、傲慢と善良を学習してきました。その上で、将来に何が起こるかは分からないが、今はこれをよしとするわけです。

婚活の苦しさや、恋愛とは何か、と言う描写がこれらの流れで容赦なく出てきます。が、それらは本筋からしてみるとオプションみたいなもので、この話の筋道は傲慢と善良を兼ね備えることなワケです。タイトル通り。なんだよ、これも結局タイトル通りかよ、ちくしょー。

ということで、二人のいい年した男女が成長をするだけの、ただの成長物語です。ポイントを絞って読んでいくと、ありがちな話の連続です。急にいなくなることと、ストーカーがいたという嘘つくところだけは、突飛すぎておいおいって感じですけど。

最初読み始めたときは「これは一体、どういった話に流れていくのか」さっぱり分からずに、読み進めることに戸惑いもありました。ぶっちゃけ、つまらんと感じて。それでもなんとか続けて、途中から探偵ごっこ始まって、少し展開が変わってきてようやく先が気になってきましたが、急に女友達から宣告されたことで急変します。

で、答え合わせの真美パートです。架パートで「これが最後に交わした言葉」みたいなものがあって、ここでもミスリードを誘っています。もう架と真美は会うこともない、というミスリードです。このような叙述的な技で、オチにどんでん返し感を作る作法は、個人的には苦手です。

ただ、読み進めていくと、どうにも話が合わなくなってきます。真美パートを読み始めたころには「架パートの終わりの時点では、真美とは会話していない」という現実に対しての言葉だったという風に解釈して、最終的には結婚するんだろう、大団円だろうと思って読み進めていきました。結果、結局結婚してるじゃん。恋愛小説の終わり方としてはスマートでした。途中が異次元でしたけど。

わたしはなんともないんですけど、辻村深月作品、2作とも現実の時間進行に対して、急に過去が割って入ってくることがよくあります。章の切り替わりだったり、段落が変わっているのでわかりやすいように表現されてますけど、これって普段小説読まない人にも理解されてるのかな。なんか気になった。個人的に、過去が何度も入ってくるストーリーフローは好きじゃなくて、その辺がどうしても辻村深月作品に没頭できない部分です。話の切り替えを繰り返される作品。どちらの作品も、このパターンを使わないとどうしても表現できないようなので、結果的には受け入れていますが。

ということで、特に好きじゃないです、この作品。面白かったけど。

ステレオタイプなのと、そうそう、人は「傲慢」という言葉は使わないなと言うしっくりこない感が拭い去れませんでした。話の流れとか、物語の回収の仕方とかは、綺麗で素晴らしいと感じますが、個人的に好きな話しではありません。

とは言え、彼女の作品は分厚くてうんざりするような長さの小説なのに、他のわたしの大嫌いな分厚い本ばっかり書く作者とは異なり、テンポ良く意味のあることだけが書かれているので、お勉強になります。話の展開や区切り方は是非参考にしたい。

ちなみに、わたしの嫌いな分厚い本ばっかり各作者は、描写が細かすぎて、想像させてくれなくなるのが嫌なのです。いちいち、全てを説明するんです。Aは今どう考えている、それは実際にはどうこうで、とか説明文がずっと続くんです。話進めろ。

この作品も心情描写が細かくて想像の範囲を狭めてしまいそうなのですが、第三者視点がないのです。架パートも真美パートも、彼らの視点でしか表現がされていないので「バカだな、それが愛だよ」みたいな突っ込みを、外からできるスキマが準備されているのです。その辺の微妙さが、辻村深月の良いとこなのかなとか勝手に感じてます。

追記

なんでこの話好きじゃないのかに気がついた。この手の恋愛成長物語は、子どもから大人になるときに身についてしまうものという思い込みか、わたし自身、またはわたしに近しい人たちの一般的な考え方です。

そのため、いい年をした男女が40も近くなって、30もすぎて、という拒絶反応を示したようです。大人だったから忽然と姿を消すことができたとも言えますが、その行動が幼すぎます。その幼すぎる行動も含めての、傲慢と善良ではありますが、自分はその行為が受け入れられなかったので、好きじゃないという感想に至ったと気がつきました。

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