冷たい校舎の時は止まる [辻村深月]

初辻村深月。小説のジャケ買いで平積みで見つけたのは「辻村深月」。どこから読んでいいのかよくわからず、ひとまず「冷たい校舎の時は止まる」を選択。上下巻と気がついてなくて、買ったあとに後悔したのも、今は思い出。

読んだ直後に感じた悔しい思いは、読書メーターに書いてあるので、疾走感ある悔しさを味わいたい人はこちらもどうぞ。ネタバレだけど。

ジャンルは、ホラーミステリー?。オカルトホラーとでもいうか。犯人当てクイズつきオカルト小説というのが、個人的にしっくり来る。

話としては。
学園祭最終日に自殺した子にまつわるクラスの委員会メンバーだけが、真冬の学校に閉じ込められる。この学校の空間を閉じてしまったホストたる自殺した子は、一体どのような理由で閉じ込め、何を思い出させ、どのような後悔を感じてほしいのか。その犯人を突き止めたあと、校舎で起きた本当の出来事を知ることになる。
という作品。

ホラーなんだけれども、怖いというよりも、異次元感を味わえる作品。上下巻と長いのは、登場人物が多くて全員のエピソードが細かく紹介されているから。そのおかげで、キャラが程よく立っている。しかも、それらのエピソードが本編にちゃんと意味があったりするので、とても緻密でうまくできている。

最初、うぇー全部で1,000P以上かよとか思ったけど、読後感の疾走感は素晴らしかった。よくできてる。悔しいけど、面白かった。

このあとはネタバレですぜ。

結論は、ホストと自殺した子は別々で。ホストは著者と同姓同名の辻村深月。自殺した子は、辻村深月を愛憎で責めた結果、学校からの居場所を失っていき、自滅した角田春子。みんながその時を思い出した結果、深月が自殺を幇助した悲哀を、長い年月をかけて癒やしていくお話。

閉じ込められた生徒たちは、男女4名ずつのクラスメイト。キリが良すぎる。組み合わせも含めて全てにおいて、ヒントがたくさんあるのに気が付かなかったことが悔しい。ただただ悔しい。自分の気が付かなさが悔しいほどにヒントが散らばっている。それを気が付かせないような心配りがちらちらとできているので、解決編からその後の流れまで、きれいに伏線回収できていて素晴らしい。ベースとしてはありえない話ではあるんだけれども、叙述含めうまくやりこめている。

この話は、二人ずつ関わりのある者同士が学校に登校するところから始まる。この時点でほとんど答えは出てたんだ。思い返すたびに感嘆する。

当初から関わって出てくる生徒8人。このうちの一人が自殺したという構造を回りくどく作っている。とても深く関わっていたはずの榊先生はどこにもいなくて、彼がいないのが不思議に思わせつつ、最後まで引っ張ったのは巧妙。ただ、リカが菅原に気が付かないのか、榊を完全に忘れていたのか。他の生徒もそうだけれども、榊先生たる若い時分の菅原は、従兄弟でもあるヒロたる鷹野と兄弟のようにそっくりではなかったか。小説ならではでもあるけれども、同一人物がしゃしゃり出てきても、文章だけでは気が付かない叙述的なトリック。映像化がちょっと難しいポイントな気はする。何故なら、榊と菅原は髪の色もピアスも同じなのだから。コミックだとどうなっているんだろう?

自殺に関してだけいけば、当初、春子が自殺したもんだと考えていた。ただ、春子が自殺するような流れだとすると、それはアンフェアだなと考えていた。この物語は、該当する8人の中にいるものだと定義したところから始まった。これは、清水が過去の事件から提示し事例を元に解釈して、情報を提供しただけで、なんのルールでもないのに、ここに閉じ込められていた。そう、わたしは冷たい校舎ではなくて、この清水の勝手に決めたルールによって時が止まってしまった。読者として、まんまと引っかかっていたわけです。著者からしてみれば、いい読者だったと思う。

それでも、辻褄をどうにかこうにか合わせていこうとすると、ホストと自殺者は絶対に異なるということだけは確定していた。最後に残ったのは鷹野か深月なんだけれども、過去、先に現実に戻っていったメンバーからは「深月じゃない」という証言が出ている。しかし、鷹野が最後に残るような様子ではない状態での解決編への流れなので、ホストは深月、自殺者は他の誰か。というところまで考えついてはいた。しかし、この場合、他の7人の誰か、だとした場合にはつじつまが合わない。春子ならしっくり来るんだけど。ここで、また清水のルールに縛られて答えが出せず。むしろ全員死んだんじゃねぇのとまで思う始末。流石にそれはありえないので、鷹野が死んだというパターンが、ぎりぎり辻褄が合いそうだなと考えた。結果は全く違った。そらそうだ。主人公だし。

途中、名前が呼ばれない、という示唆がある。実は、この8人の中で解決編になるまで菅原だけは、フルネームが出てこない。そこは気がついていた。そこまで気がついたのに、なんで。だわ。菅原はキープレイヤーだということまでは気がついたんだけど、名前が出てこないだけで、自殺したという理由にはなりえないし、菅原は最後、自殺した者+ホストたる者もいずれも助けようという気概があり、ある程度理解をしていた。ホストの可能性もあるのではとも考えた。けれども、何故か榊であるとは出てこなかった。ガッデム。髪の毛の色、ピアス、チャラさ、タバコ、たくさんの伏線が張り巡らされていたのに。彼の逸話だけが最後になっていたので、意味があるはずなのに、逆にスルーしてしまった。

そして、菅原エピソードに出てくる、ヒロとみーちゃん。ああ、そうか、この二人が鷹野と深月か。これすらも、ちょっと考えれば気がつくだろうに。しかし、まさかのこんな細かいエピソードまで回収した挙げ句、最終的に榊は小学校の先生になっている。拾いすぎる。すべてが繋がっている。

してやられた。

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