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かがみの孤城 [辻村深月]

とても印象の深い作品でした。忘れにくい。ある程度のことは予測が立つんだけれども、大事な重要な内容は最後の最後で。

あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた―― なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。 生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。

かがみの孤城 辻村深月 | ポプラ社

人の悩みの9割は人間関係です。その人間関係の悩みというか、あらすじにも書かれている「生きづらさ」を軸にした物語です。異世界というか超常現象まっただ中のかがみの孤城を中心にしてはいるものの、それ以外は本当に現実という日常だけを切り取っています。

7人の中学生とオオカミさま。そのオオカミさまだって子どもの風体で。ほとんどが子どもたちだけで構成されています。

この物語の謎は「オオカミさまはなんなのか」「ここに呼び出された子どもたちは、何者か」「この孤城はなんなのか」というあたりでしょうか。
上巻では、主人公である「こころ」が一体どうであったかが丁寧に描かれています。他の6人の子どもたちと関わりあいながら、少しずつ変わっていく様がよく分かります。上巻では大人たちの変化が見えにくいのですが、喜多嶋先生と呼ばれる人が重要な位置づけにいることは分かります。

そして話の急転する下巻。急転とは言っても、最終日の前日である3月29日までは、大きな変化はありません。少しずつ分かっていくという流れは上巻と変わらずです。

ただ、下巻では隠されていた情報が多く出てきます。急転直下する前だけでも、同じ中学校の生徒であるはずなのになぜか出会えない。パラレルワールドではないか。「×」印。オオカミさまからの必要以上のヒント。

下巻ちょっと読んだタイミングで、とてもピンとくるんですよね。

  • なるほど時間軸が違う

  • 喜多嶋先生は、アキだ

この辺でかなり安心してしまって、最後のオチまで読めてきちゃったんです。ただ、分かったからつまらないってコトはないです。この分かりやすい伏線自体が引っかけというか、オオカミさまのことを忘れさせてしまう程度には、別の点へ話題を持っていかれすぎました。途中から答え合わせの気分になっているのですが「孤城とオオカミさまのこと」についてすっかり忘れてしまっていたんですね。

そうして、現実世界で萌と話せたことで一歩を踏み出せそうになっているこころに急転直下の出来事が発生するわけです。

アキが時間外まで残ったことで、その日、城にいたこころ以外の全ての子どもたちがオオカミに食べられてしまうのです。

わたしを残念に感じたのはここです。ここまで来て、このオオカミと7人の子どもたちは「狼と七匹の子ヤギ」であることに気がつかなかったのです。大昔に読んだことはあったものの、赤ずきんちゃんに引っ張られすぎて、このような童話があったことをすっかり失念していたのです。

とは言っても、本題はここからでした。それにしても、なぜ鍵の在りかを探せなかったのか、というところは腑に落ちてませんが、話の繋がりとしてはとても良いです。伏線の立て方がきれいで良いですね。分かりやすいです。

そして最後に、全員の回想から出てくるリオンの姉。わたしの頭の中は「アキは喜多嶋先生なんだろ、早く教えてくれ」という妄想にとりつかれていたので、この姉がオオカミさまであろうとは考えもしませんでした。本当に大事な話を最後の最後に持ってくることで、予測を立てられない状況にしていたんですね。ミステリだったら最悪の諸行ですが、これはミステリではなく、わたしの勝手なミスリードによってやられたことです。

この急転直下によって、わたしはすっかりやられてしまったわけですね。ああ、オオカミさまもちゃんと繋がっていたんだというところで。

最後の直前に、リオンとリオが二人で話すシーンはとても印象的です。リオンのお願いも、そしてその後に続く物語もこのリオンとリオがいたからこそ何でしょう。

そして最後の最後に喜多嶋先生ですよ。感涙って書かれてしまうと斜に構えてしまうんだけれども、分かっていても感動的だという点において、すばらしい終わり方でした。

さまざまな思いをのせて乗り越える、乗り越えていった子どもたちの、ちょっと不思議な世界の物語。良い話じゃないですかね。

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