medium 霊媒探偵城塚翡翠 [相沢 沙呼]
もう、こんなに感心するようなミステリ小説にお目にかかるとは思いもしなかった。ここ数年で最高の出来である。まるで某ワインのよう。
出会いは所謂ただのジャケ買いである。こんなのジャケ買いするしかないような表紙じゃないか。しかし、言うなればこの表紙だって、伏線なんだわ。
まだ読んでいない人はこの先読まずに、この小説を買ってちゃんと読んだほうがいいです。
死者が視える霊媒・城塚翡翠と、推理作家・香月史郎。心霊と論理を組み合わせ真実を導き出す二人は、世間を騒がす連続死体遺棄事件に立ち向かう。証拠を残さない連続殺人鬼に辿り着けるのはもはや翡翠の持つ超常の力だけ。だがその魔手は彼女へと迫り――。ミステリランキング5冠、最驚かつ最叫の傑作!
この小説には、4つの事件が入っています。3つまでは前哨戦です。
死者を通して犯人を見通すことのできる霊媒師。こんなきっかいな前提条件でも付けなければ、もう新しいミステリ小説は作れないんだというのが第一印象でした。屍人荘の殺人のようにありもしないゾンビを使ってクローズド・サークルを作るように、非科学的なものを使って、すわコロンボか、古畑任三郎か、と言わんばかりの霊媒で知りえた犯人をあとから理詰めで追うシリーズ。
表紙の絵もあって、三つ目の事件までは「ジャケにだまされたライトノベルか」みたいな感じです。こんなものでミステリのランキングや、本屋大賞に選ばれるのかと、日本の小説界を憂えていました。
すいません、私が悪うございました。
四つ目が核心となる事件で、冒頭から話題に上がっている連続殺人事件の真相が描かれています。
もう本当にびっくりです。なんてことはない、犯人はヤスです。ポートピアタイプでここまで驚愕させるのは、伏線がというか前提条件の置き方が素晴らしかったとしか言いようがありません。
なんにせよ、それまでただの主人公作家先生である香月が、急に連続殺人事件の犯人として名乗りを上げ、ドラマ展開が始まります。気を抜いていました。ただの雑なライトミステリ小説だと高を括ってしまった私には、この時点で敗北の二文字しか思い浮かびませんでした。大敗北です。
こうなったらもう流されるがままです。さぁ、翡翠は一体、この難局を一体どうやって回避するのか。
「わたしはインチキ霊媒師ですよ」
とんちきすぎる。まさかの前提条件から違ってた。ただの詐術にまみれた奇術師とか、そんなのはずるすぎる。表紙に大々と表現されている「霊媒探偵」自体が嘘とかもうね。もうこの小説の中の香月先生と同じ状況ですよ。もうすっかり騙されました。2回ひっくり返りました。いや、そうだよよく考えよう、表紙が翡翠じゃん。香月が主人公のわけないじゃないか…!!1 orz
これ、相沢沙呼がマジシャンだと知っていたら、こうはならなかったのかもしれませんが、もうなんも知らんかったので驚愕の事実すぎます。そうなんだよ、この小説は城塚翡翠の物語なんだよ、表紙に嘘いつわりなかった。勘違いしてしまっていた。
その後は、筒井康隆の「ロートレック荘事件」で描かれる推理小説のようでした。いくらなんでもキャラが変わりすぎだろという翡翠の推理の説明が延々と続きます。
嗚呼、もう自分に自信のある女怖いな、とか思いながらも自分のつっかえていた部分やわだかまりも解けていきます。香月の推理がいつも無理やりで、そこまでのことは、ないはずなんだがと思っていたものがその通りだったと思いながらも、翡翠、おまえ…の方が印象が強すぎて終わりの推理の方がだいぶすぱっと進むとともに、嗚呼、こんなに時間をかけたら、もうそこに警察いるんじゃないのと思っていたらその通りのエンドです。
ジャケ買いで成功です。なにも知らないで読むのが吉です。
終わりにも出てきますが、彼女は四つ目の事件であるような性格のえぐい娘じゃない、ただのドジっ娘であることは免れないようなので、'invert' 行きますかね。続きは萌え小説でありますように。
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