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[読書メモ] 図書館戦争 [有川浩]

表紙絵がパーフェクトすぎる。

2019年。公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる『メディア良化法』の成立から30年。日本はメディア良化委員会と図書隊が抗争を繰り広げていた。笠原郁は、図書特殊部隊に配属されるが……。

図書館戦争

SF強化月間なので、日本の有名なSFに手を出してみました。

図書館と戦争。SFと図書館。なにもかもがまったく想像のつかない組み合わせでしたが、読んですぐにひざをぽんと打ちました。なんという皮肉った作品か。

表現を取り締まる法律による検閲から、本を守るための図書館の制度が生まれたという背景で話は進んでいきます。主人公は一体誰か論が個人的にありましたが、笠原郁が主体として話は進んでいるようなので、郁を主人公として見なすのが正統派な様です。上官となる堂上の物語としてみるほうが面白いんだけど。そんな彼女が高校生の頃に助けてもらった図書隊員を追いかける恋愛小説としても成り立っているのが、日本の文化っぽくて好きです。嫌いじゃない。

話は分かりやすいです。ただ背景の説明がどうしても多くなってしまいます。それはSFとして重要なことで、なぜこの状況が生まれているのかという説明は必要十分の内容です。

2008年当時から考えると 2019年は近未来でしたが、2023年に手を取ってしまった私には、この作品が近未来ではなくなっているというのが、切実に残念です。2019年を妄想しながら楽しむ、みたいなコトはできず、2019年の事実を知った状態で過ごしてしまったけれども、まぁSFなんてこんなものです。何らかの答え合わせをしながらはにやにやできるのはそれはそれで楽しいです。それにしても、スマホ的デバイスの出てくるSFってドラえもん程度しか思いついてません。

さて、実際の小説はというと。本屋大賞に入賞される程度には面白い出来です。本が生み出されるプロセスに対して、検閲のプロセスが中途半端なゆがみが法律というものを体現しているかのようです。そのようなゆがみの中で出版されてしまう書籍と、それをどんな手を使ってでも守ろうという図書館の対立は想像を超えています。
ただ、ここまで平和な日本で、どうして本を巡る争いだけが、ここまで軍事作戦になってしまうのかが不思議でなりません。ここがこの小説の根本部分なので、ここに疑念を抱くと、すべてがつまらなくなってしまうので受け入れるしかありませんが、図書に関してだけ厳しい日本という世界観は不思議でなりません。表現に対しての規制という意味合いで、漫画などの話は出てくるんだけれども、映画や音楽といったところには及んでいなさそうなところは不思議です。話だけで見てみれば面白いんだけど。

そして、並行して紡がれる恋愛模様。作者本人が「月9連ドラ」を意識して書いた結果だと思われますが、嗚呼日本のエンターテイメント、という感じです。残念ながら、月9ドラマ化はされていませんが、映画化されています。郁が榮倉奈々、堂上は岡田准一という配役を見れば分かる通りの結果です。本当に日本向き。結果を見ても分かる通り、良くできた日本向けのあらすじです。

本書のあらすじは、郁の成長過程を描きながら堂上の元へと所属するまでのどたばた劇場から始まります。話を押さえるためのポイントとして、郁が物覚えの悪さから手塚や小牧から説明を受けることで、図書隊というものの存在意義や設立の背景などを知ることができます。郁が座学を聞いていないという大前提で使える手法ですが、さすがに特殊部隊に任命されるのに、ここまでバカでいいのかという気持ちもあります。手塚の気持ちよく分かる。
尚、隊員からの説明では補完できない過去の襲撃事件や、郁が王子様と出会う場面などは、過去の回想として途中でぶっ込んできます。

その後、所属された後に発生する「子供の健全な成長を考える会」と中学生との対立事件で世相を皮肉った後から、話は大きく動き出します。野辺山情報歴史資料館を管理していた、大層に力を持つ野辺山氏が亡くなった後の蔵書を巡ってきな臭い話へと移っていきます。蔵書を移管する図書隊と、それらを奪還しようとするメディア良化委員会との軍事作戦の勃発です。郁はこの移管作戦ではなく、要人警護側へとアサインされることから、もう1つ別の事件へと関わっていくことになります。
奪還作戦が一息ついた頃、要人たる司令が郁とともにさらわれます。この時、郁の機転により図書隊は司令を華麗に奪還するところまでが、本編の範囲です。その後、堂上の昔話などもありますが、本編的には郁の暢気な手紙で終了します。結局、ここでは郁の親は出てこないんかい。

郁と小牧のキャラの所為で、終始、コメディにしかならず。けが人や死者が出ても重く感じられないところで、アニメ感は強い作品です。ラノベ特有のなにかですね。SFっぽさは感じられません。嗚呼、アレだ。戦争の場面が少ないガルフォース地球の章だ。

面白い内容です。ただ、面白いんだけどってなりがちです。後で思い返していくと、突っ込みどころはやっぱり満載です。この後の作品を読み続けるかどうかは、他のSF読みおえてから考えます。キャラが立ちすぎているコトで、本筋の話が見えにくいと感じました。話の内容を通して、設定自体は面白いものの、内容はよくあるパターンです。先も読めるので驚きもありません。堂上が出てきてすぐに「こいつが王子じゃねぇか」って分かりやすすぎるのは、良いのか悪いのかよく分かりません。与えられたパーツがワンパターンなので結末含めて読みやすいので、SF部分はただの設定だけで、二人の恋愛模様を追う恋愛小説だと思って読んだほうが利が高いです。

そして、一人称小説だと思ったら、思ったより視点が変わります。性質上仕方ないのかもしれませんが、セリフの多いこの小説。セリフの流れの中で気がついたら視点が変わっていることがあります。「えっ」てなります。「あれっ」てなって、数ページ戻りながら、いま誰だろうって陥りがちです。郁、堂上、手塚、柴崎の4人だけだったと記憶していますが、たまに主観のない客観的な描写だけの段落もあって、いま、自分の置かれている状態が分からなくなることが数回ありました。自分がただの寝不足の所為かとも感じましたが、読みにくかった印象です。

視点が変わることによって、郁、堂上、手塚らがどのような事を考えていたかは明確になりますが、手塚のキャラ設定もおかしいので、内面は知らずにもっと妄想させても良かったような気はしています。
他にも柴崎なんかは強キャラ過ぎて、すべてにおいて彼女が裏ボスで、すべて影で操っている全能感が強すぎます。ここまで強靭なキャラを作ってしまうと、神様がいるようなものなので、結局コメディ感がぬぐえません。
どうも自分がコメディなSFを受け入れられないかとも思いましたが、ハルヒは好きなのでそうでもないようです。 単純に設定が受け入れられなかった感じがあります。それがなにか、まだよく自分でも理解できていません。

この後、どう進むのか、それ自体は興味なくもありませんが、マンガ版が「花とゆめ」から出版されているってことを考えると、そういう流れにしか至らないのかなぁという興味の失せ方はしています。

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