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労働強化は農場を強くしない

◯農繁期になると、やらなきゃいけない仕事が山積み。残業がちになる。
◯カイゼン活動を始めると、時間短縮のために「労働強化」に間違って向かいがち
という現象がある。
労働強化とは、作業のムダとりでなく成果を増やそうという動き。「速くする」「時間外にやる」が発生しやすい。

経営者の立場からすると、従業員たちがより速く作ろうとしたり、時間外でもせっせと働く姿は、「頑張ってるね〜」と声かけしたくなるような、一見すると有難い景色ではあるが、これは「あるべき姿」ではない。

BEFORE

カイゼン活動へ着手した当時は、
「これまで一日5枚の田んぼを作業していたものを、一日6枚にする」
という目標をこなすため、
◯移動を早歩きにする。なんなら走る
◯ハンドル回すのを速くする
◯作業スピードをもっと速くできないか試す
という、誤った施策を行ったことがある。

でもそれはカイゼンではなく、まさしく労働強化だったのだ。
遅くまで働く姿は、高度経済成長のジャパニーズワーカーズスタイルでは美しいとされてきたが、良くない点が多いと思ってる。

労働強化が良くない理由

①危ない(危険につながる)
労働強化によって、遅くまで、早くから、取り掛かる。超過労働により、ミスも起こりやすいし、ムリをするからケガや労働災害の可能性も増える。
可能性の段階なのに気にしすぎでは?とも言われるが、可能性が増えることは、避けられるなら避けるべきだ。

②工夫が生まれない
締め切り付近になるとやむ得ないという場合もあるが、労働強化することで、生産歩留まりを向上しようという志向ではなくなりやすい。
あとでやれば良いか、というだけで思考停止になってしまう。
それでも、どれだけ偉い人でも1日は24時間しかないし、睡眠時間やプライベート時間を削って作業出来ないことはないけど、その道路の先には行き止まりがあって、「なんのために仕事してんの?」に至る。体も壊すしね。

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かつて父トシハル(会長)が
「自分壊すな
 家族壊すな
 会社潰すな
 自分の面子くらい潰せ」
と、いっちょまえに言ってたことがある。
ボクが結婚した年、
4Hクラブの北陸ブロック理事、石川県中小企業家同友会、石川県倫理法人協会、風土金澤の新店オープンとか、ガムシャラに首を突っ込んでた時があった。国産イタリア米も本格出荷の時期ということもあり、あちこち行くわ居たら居たで夜9時から作業再開するわ...と、いま労働強化良くないってどの口が言ってんの?と言われる有様だった。
やりすぎだと指摘され父、母、ボク、カミさん含めた家族会議になり、その場で父から言われた言葉が「自分壊すな〜」の言葉。
面子モンスターみたいな父から言われたことは横に置いておき、その言葉は言われた通りだなと受け止め、見直しすることにし、いくつかの取り組みから手を引くことになった経緯がある。やり切らずに手を引くのは、とても嫌だ。

その当時は、選択できる時間があった。
カミさんとの時間は削られていたので、今でも「あの時からもうちょっと早く帰ってくる事できたんじゃない〜ぷんぷん」と突っ込まれることはある。
次第に子供が生まれ、子守りだったり家事の分担だったり、断るとカドが立つ大人な事情のアレコレが発生するようになり、だんだん、1日24時間という与えられた時間から、ハイまず茶碗洗い30分、風呂トイレ掃除30分...と、次々に取られていく感覚があった。
そこらあたりから、仕事のリストラクチャ(やめる、手放す)だけでなく、工夫や改善に取り組むようになった。

農業にとって労働強化っていうのは
食卓の醤油のように「常にそこにある」存在だったりする。
「これは時間外労働ですだぁ?はぁ?なめんな!」と言わんばかりに、遅くまで働くことが当たり前。遅くまで作業してない農家を「これはこれは、ボンボンのおぼっちゃま」とあしらうことすらあるほどだ。

19時まで稲刈りして、その後、ビール飲みながら籾摺りするのが農家じゃい!を否定はしないけど、18時に稲刈りを終わらせ、籾摺りは別部隊がこれまた18時に終わらせる、仕事の平準化に取り組むことで、農繁期は「無理をする期間」ではなく「作業の歩留まりがとても良い時期」に変えることが出来るはずだ。

ムリはムラを発生させ、ムラによる不良のムダを発生させる。
それが回り回って、さらにムリにしわ寄せが来るループがある。

工夫や改善は、小さなものから大きなものまで様々。

設備投資で、時間60kgしか精米出来なかったものを時間120kgでできるものに変える、といったお金をかけるものもあれば、
米を詰める袋の配置を変えて、より手元に置けるようにした、という小改善もある。
トヨタ自動車さんとの米作りカイゼンネットワークという繋がりもあり、現場指導も色々していただき、たけもと農場は年々変わってきているのを実感している。

カミさんに「今年なんか余裕じゃない?ヒマになったん?」とついさっき言われたが、コロナでヒマになったわけではない。
ミスが圧倒的に減り、段取りがよくなったことで、子供を延長保育にしていた2年前が懐かしくなるほど、時間に余裕が生まれた。


AFTER

先程のBEFOREであった少しずつ誤解の先入観を見直し、カイゼンの取り組みを行なった。
◯外段取り(事前に仕込めるか)
◯動作のムダの排除
(箱をとりあえず置く、バケツリレーみたいに人に渡して渡してを繰り返す、持ち上げる)
◯作りすぎの排除
(苗なんか特に余裕を持って作りすぎる傾向があるけど、それが浮けば作った分のコストも時間も短縮できる)
◯種まきの工程では機械のペースを落とし、その分5人→3人に人を減らす
(差し引きの2人は別の作業ができるので、トータルで作業はすすむ)
といった施策により、何かの設備を入れるとか、人を増やす等していないけど、なんだか早く仕事終わるぞ...を実感していった。

カイゼン活動は、時に狐につままれるような感覚になることもある。
「動作が減ったのに、より仕事ができる」
「ペースを落としたのに、より早く終わる」
この経験が実感を伴うようになると、さらにカイゼンできる箇所がないかを探すようになる。

たけもと農場で働く上では、
遅くまで働く →  ラクになるよう働く
速く作業する →  早くなるよう工夫する
というマインドで、仕事をゲーム感覚で攻略する人材に育ってほしいと願っている。ボクや父が遅くまでやってるのは、仕事が遅いのもあるけど、ゲームで夜更かししているようなものなので、あまり参考にしないようにね。

ほんならまた。



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