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立ち幅跳びと運動能力・生活行動との関係

11月は立ち幅跳びの測定を行い、子供達の動作チェックを行っています。
いろんな飛び方をする子がいてこちらも新たな気づきを得ることができ、1回約1時間のスクールで得たものを子供達に還元していけるよう時間を共にしています。

なぜ立ち幅跳びを確認したのか

▶︎ 運動の発達段階を推測するため
▶︎腕振り有・無での立ち幅跳びの飛距離で腕を上手に使えているかを推測するため
▶︎ 日頃の動きの感じと立ち幅跳びで出現する動きを照らし合わせるため
▶︎ 照らし合わせたことをスクールでの指導のヒントとするため

今回は、
測定から見えたものと
これまでの高校チームのフィジカルトレーニングの経験、スクール指導と文献の情報を元に
立ち幅跳びと運動能力の関係
幼児年代の立ち幅跳び能力と生活行動の関係性
 
をまとめてみましたので、参考にされてみてください。

今回の記事でわかること

・立ち幅跳びが伸びてきやすい子・そうでない子の特徴
・立ち幅跳びは 腕振り・膝と股関節の曲がり具合・タイミング・着地時の平衡性・反動をつける際のしなやかさ・手足のつながりが重要
幼児期の跳躍能力(ジャンプ)は、成長過程での体力特性全般に強い影響がある
・幼児期に跳躍能力を身につけることが、小学生以降の土台となる
・跳躍能力の土台となるのが動感覚
・立ち幅跳びは生活行動との関連がある
 
(注意力・判断力・傾聴力など)
運動有能感が運動発達と成長の鍵
・立ち幅跳びの平均値

▶︎前半部分はスポーツをがっつりしている子供・保護者様向け
▶︎後半部分は全ての大人の方に関わってくる部分
後半部分は、成長過程での運動能力と生活行動とのつながりを文献をもとに、まとめています。
スポーツをまだ始める前のお子様をお持ちの方・スポーツをする予定が今はない低学年のお子様をお持ちの方は後半部分のみでも、お読みいただきたい部分です。

それでは本題に入っていきます

高校指導チームの測定結果から考える、小学生までに獲得したい能力

立ち幅跳びは、個人的にも運動の発達とジュニアアスリートの能力向上にも非常に重要であると感じている部分です。数年サポートしている高校サッカーチームの今年の主力選手は、年間のトレーニング前の段階でも立ち幅跳びは高値を示していますし、トレーニングを進めていくと半年後にはU -18サッカー日本代表選手レベルの数値まで向上しています。

伸びやすい選手と伸びにくい選手の特徴と傾向


▶︎ 伸びやすい選手の特徴と傾向
数値が伸びてきている選手の身体の特徴を考えると、腕振り・膝と股関節の曲がり具合・タイミング・着地時の平衡性・反動をつける際のしなやかさ・手足の協調性などが入学時からある程度いい感じである子が多いです。

上記のような身体の使い方ができる子は、さらにウェイトトレーニングなどで
→  筋力・力の発揮速度を高めるトレーニングが効率よく行え
→  トレーニングで高めたものを  別の動作 ”立ち幅跳び” など に繋げやすい
(ウェイトトレーニングのような筋力を高めるための競技から切り離して行ったトレーニングを、競技につながるようにトレーニングを行うことも、トレーニング効果を最大限引き出すことになります。中学・高校年代では非常に大事な部分ですがこのnoteでは一旦置いておきます。)

▶︎伸びにくい選手の特徴と傾向
チームで同じように、筋力トレーニング・ジャンプトレーニングを頑張っているけど伸びてこない選手もいたりします。そのような選手は、上記の身体特徴が不足していたり、お尻が使えていなかったり、背骨が硬かったり、床に力を伝えることがうまくできていなかったりする子は伸びにくい傾向にあります。

腕振り有・無で、飛距離が有りの方が優位に遠くに飛べていれば、腕を上手に使えている判断材料になります。そこにはもちろん見た目の上手に腕をタイミング振れているか?という点も重要になります。
腕振り有りと無しで距離の差がほとんどない場合は、腕の使い方を改善していくと立ち幅跳びが向上していきやすいです。


後は、個人的に重要であると感じている部分は、
自分の動きを自分で感じ取ることができる能力』(動感覚)が備わっているか否かが、パフォーマンスの向上を左右しているように思います。

立ち幅跳びで上手に跳べる子、そうでない子、腕を振れている子、そうでない子の間には、この動感覚が関わっているように思います。


小学生のうちに動感覚を磨いておく

動感覚とは

『感覚しつつあることであると同時に、それを引き起こす運動の意識でもあり、私たち自身によって生み出される私たちの運動としての意識』

日本スポーツ運動学会

日本スポーツ運動学会では上記のように記されていますが、正直難しいです。

僕の学びの中での解釈では、簡単に述べるとすると”運動の経験・記憶を自分ごととして頭の中に書き留め、それをもとに自ら動くこと”… 簡単にしても少し難しくなってしまいますが、個人的にものすごく大切にしている部分です。

もっと簡単に表現するのであれば、『とにかくたくさん動いて、自分の動きの経験値と運動の記憶の種類を増やし、それをもとに記憶の中から自ら動き出し、それぞれの動きを繋げていくこと』…と僕は表現したりしていますが、これが『コツやカン』と言われる部分です。(このコツやカンと出会えるよに、スクールでは言葉・助言のタイミングを一人ひとり変えるようにしています。)


伸びやすい選手・伸びにくい選手を高校のフィジカル測定結果から考えてみましたが、トレーニング初期は立ち幅跳びの数値がを低値でも、伸びてくる選手は伝えたことの感覚を自分の身体と一致して考えることができ、すぐにその動作をなんとなく行えるという点です。つまり、動感覚が備わっているということです。
また、BODY schoolでもジャンプ動作が上手な子のほとんどが、言葉で伝えたことをそのまま実行できたり、お手本の動きを見て、それを自分の身体で表現することが比較的スムーズにできる子が多いです。また、左右でバラバラな動きでも、動作を真似してスムーズにできる子は、ジャンプが上手な傾向にあると現時点で感じています。
そういった子達は、筋機能が発達していたり、空中での姿勢コントロールが上手だったり、着地する前の動作が上手だったりと、動きを統合して実行できる能力が長けているように思います。その根底に、動感覚があると考えています。


高校チームの話に戻ると、動作のポイントを伝えたりしても、自分自身の動きを自分がうまく理解していなかったり、動きを真似できなかったり、動きを感じとってそのように動く能力(動感覚)が不足している高校サッカー選手は、あまりパフォーマンスが伸びてきていません。この能力は、小さい頃の運動経験と運動感覚の蓄積によるものが大きいと言われています。同じ競技だけをひたすら頑張ってきた選手でもこういった現象が起こっています。

もうすでに中高生である子で動感覚が乏しい子は、今の自分にあった方法でトレーニングを選択していかなければ、みんなと同じような方法でトレーニングをしていても、自分だけ効率よく伸びていないという悲しいことが起きてしまいます。
これは、小さい頃から特定の競技のみを繰り返している子が陥りやすい現象です。
逆を言えば、小さい頃に動感覚を高めておいて、しっかりと効率のいい動きができていることで、中高生からウェイトトレーニングをさらに効率良く行え、しっかりと計算されたトレーニングであればパフォーマンスは伸びやすいです。

文献の中にも、『幼少期の跳躍動作の発達が体力特性全般に関わっている』という報告もあり、現場レベルで全てが当てはまるわけではないと考えてはいますが、大方そうであると感じています。
ただ、選手の幼少期を見ることはできませんので、立ち幅跳び指導前の動作からの推測になります。しかし、スクール生を見ていても、立ち幅跳びの動作が上手な子は、走動作などのその他の動作も比較的スムーズに行っていることが多いです。

また、運動の発達は、『思春期以降のスポーツ参加への積極性にも影響する』と言われています。
幼少期のうちに立ち幅跳びなどの跳躍動作を向上させていけるような機会を子供達が経験しておくことは、将来的に非常に大切なことだと病院勤務時代から思っていましたが、実際にこれまでの子供達と関わってきて更に強くそう思うようになりました。

春日ほか(2016)は、幼児期の体力・ 運動能力の優劣は小学校入学後の児童期にまで持ち越されると報告している。この研究において、男女ともに幼児期の跳躍能力、投能力および筋力特性は,その後の体力特性全般に比較的強い影響を残すと示唆されている。さらに、幼児期の体力・運動能力の優劣は、思春期以降のスポーツ活動参加の積極性にも影響するとの指摘もある(Barnett et al., 2009)

日本幼少児健康教育学会誌 Jpn J Health Educ Child 7;2021;17-28
幼児の跳躍能力向上を目指した運動遊びの効果

あらゆる情報と経験を加味すると、小学生未満の子は今のうちに、たくさんいろんな動きを経験する中で、効率のいい動作を習得していくことが、その先でパフォーマンスを効率よく向上させていく鍵となります。その中でも、コーディネーション能力(※1)を高めれる運動などを通して動感覚を育んでいくことが大切なことだと思います。その過程で、結果として立ち幅跳びなどの動作が向上していければ理想であると思います。

※1 コーディネーション能力とは、さまざまな種類の能力が総合的に発揮される能力のことで、定位能力、変換能力、連結能力、反応能力、識別能力、リズム能力、バランス能力の7つに分けられています。
BODY schoolでは、小学生以下の子では非常に重要視している部分です。

ここまでを整理すると今回の記事での立ち幅跳びのポイントは

▶︎立ち幅跳びは
 腕振り・膝と股関節の曲がり具合・タイミング
 着地時の平衡性・反動をつける際のしなやかさ
 手足のつながり
が重要
▶︎幼少期に動感覚を形成しておくこと
▶︎動感覚形成のためにたくさん動きを経験しておくこと
▶︎動感覚が乏しい中学生以降は、周囲と同じトレーニングをしても伸びにくい

ここまでは”立ち幅跳び”を題材にして、僕が指導させていただいている高校チームの立ち幅跳びが伸びている子の特徴と、スクールで見させていただいて感じていること、文献などの情報と照らし合わせながら、普段僕が考えていることをお伝えさせていただきました。

ここから先は、幼児期(未就学児)の子供達に関係してくる内容ですが、小学生のお子様を持たれる保護者の方にも、何かしらのヒントになることが個人的にはあると思いますので、最後まで読み進めていただけると嬉しいです。

立ち幅跳び能力と生活行動の関係

近年は、体力の低い子どもが増加し、低い体力水準の子どもの値が全体の平均値を 下げているという報告があります。幼児においても運動パフォーマンスに二極化傾向がみられるようになり、特に立ち幅跳びにその傾向がみられることが報告されています。立ち幅跳びは遺伝的要素も関係はしていると言われていますが、成長していく中での運動経験などが複雑に関わりあって成り立つ運動とも言われています。

そして、これまで述べてきた『立ち幅跳び』が幼児期での生活行動と関係性があると報告されています。

調査された報告では

男児では
・とっさの動きができない
・体が固い
・群れ遊びをしない
・理解力が低い
・注意力
・判断力が鈍い

女児では
・とっさの動きができない
・ 意欲や気力がない
・理解力が低い
・注意力・判断力が鈍い
・体が固い
・集中できない
・仲間や保育者の話を聞かない

上記の順に、立ち幅跳び能力との生活行動の関係性が報告されています。

男女で順番の違いはありますが、立ち幅跳びで見られる瞬発的な動作が関わる、『とっさの動き』は、どちらも一番目に関係があるとされています。
この関係性は、ぶつかって怪我をする事故などが増えていたり、防げるはずの怪我が増えていることの、一つの理由になるのではないかと思っています。

一方で関係性の中で、大きな割合を閉めるのが認知面の関係性が挙げられています。このことを踏まえても、小さい頃から運動をしておくことのメリットとしては、脳機能の発達にも大きく貢献することだと思います。

・理解力が低い
・注意力・判断力が鈍い
・集中できない

こういった運動から離れた認知能力的な部分も運動と関係していることが解明されてきている現在で、”理解力が乏しい子”  ”集中力が周りと比べて少し欠けている子”  に、なんで『わからないの?』『聞きなさい!』『集中しなさい!』と伝え続けていくよりも、楽しく動きながら動作を獲得していく過程で、そういった生活行動もより良い方向へ変化していけると、子供たちも言われ続ける、見守られ続ける日々よりも、楽しく安全に成長していけるのではないのかなと思っています。

もちろん言葉で伝えることも大切ですし、言語コミュニケーションは発達発育に大きく関わる部分です。だからこそ、その能力の向上にも運動・立ち幅跳びが関係しているとなると、より一層小さい頃からの運動機会の創出が大切だと思います。

スクールでも、立ち幅跳びの動作を獲得しているであろう年代でも、動きが拙い子が見受けられます。そういった子供達の能力向上・障害予防も目的としている施設なので必然的に目にする機会は多くなることは理解しています。
今出会っている子はもちろんですが、まだ出会っていないそういった子にもBODY schoolのことを知っていただき、動きを獲得していく過程で、防げるはずである怪我を防いだり、伸び悩みを減らせるように関われたらなと思っています。

ここまで文献を元に、立ち幅跳びや運動能力が生活行動との関係があるということを述べてきましたが、必ずしもそうであるとは一概には言えないのも事実です。

立ち幅跳びが生活行動の良好さに繋がるから、立ち幅跳びを向上させよう』という思考は、子供達の本来の『動くことを楽しむ』ということから外れているように思います。
そういった情報を参考にしながらも、動くことを楽しみ続けてきた結果、運動が好きになり、動きが良くなったり、飛べるようになったり… そのような過程で
出来た』体験・経験から『運動有能感』(※2 )が高まり、結果的に上記に示してきたような、認知的能力や運動能力が育まれている…そういった流れや関わり合い、運動機会の創出が、幼児年代では大切なのではないかと考えています。

(※2)運動有能感とは、運動が得意であるという「自分に対する自信」や「努力すればできるようになるという自信」、運動場面で周りの人々から「受け入れられているという自信」のことを言います。

僕はまだ、”親”としての見方を持つことができませんが、子どもであった経験はあるので、昔を思い返しながら、理学療法士・フィジカルコーチとして、”今現在の経験と情報”と、何よりも大切な”目の前の子がくれる情報・言葉・行動表現”から、その子目線になり、動感覚が大切であると度々述べてきましたが、記事の中には一度しか出ていない『運動有能感』という大切な部分も向上させれるよう、引き続き向き合っていきたいと思っています。


立ち幅跳びの平均値

最後になりますが、令和2年度体力・運動能力調査結果の立ち幅跳びの平均です。

スポーツ庁:令和2年度体力・運動能力調査結果

数値を最後にしたのは、数字は指標になりますが、小さい頃はそれが全てではないとういう個人的な考えがあるため、最後に載せました。
もちろん数値を基準として、そこまで引き上げるにはどうしたらいいか?という判断材料にはなります。スクールに通ってきてくれている子の中で、運動に自信がある子は自分から計測した数値を見にくる傾向にあれば、純粋に飛んでみたいという気持ちで数字は気にしない子もいます。
また、数字を測ることに最初は抵抗を示す子もいます。そういった子には無理に強制して測定をすることもしていませんし、そのような反応が今の運動や自分に対する認識であるというような指標やアプローチ判断材料にもなります。
純粋にスポーツ・運動を楽しんでいる子には、その子の運動特性を可能な限り見抜き、自然と理想に近しい動きになれるように、状況設定や言葉を選びながら接しています。
その逆で、パフォーマンスを上げたいと競技に意欲的な子に関しては、要素を分解してトレーニングのアドバイスに繋げるようにしています。

数値は参考にしつつも、数値だけを見らず。
数値や行動・表現から得たものを子供立ちに還元していきたいと思い、
11月は立ち幅跳びの測定を実施しました。


ここまで長くなってしまいました。
途中で記事を閉じた方もいらっしゃるかもしれません。
書き始めは『立ち幅跳び』で7,000字を超えるとは思っていませんでした。
書いている途中で、生活行動とのつながりはまた機会を改めて書くか悩みましたが、切り離して書くよりも、今回一緒にお伝えした方が関係性のイメージが伝わりやすいかなと思い、結局最後までまとめて書き記してしまいました。

ようやく最後になりますが、
初回の記事に引き続き、今回の記事もまた1人でも多くの方に目を通していただき、子供達がよりよく成長していける、一つのきっかけとなれば幸いです。

今年も残りわずか、引き続きよろしくお願いいたします。


BODYschool
理学療法士 / フィジカルコーチ
石田 將


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