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駅の光景

日本に住んでいた頃には見なかった光景をよく目にする。

それは良い光景と悪い光景とどちらもある。

私が今、住んでいるロンドンの最寄りの駅はその悪い光景を度々見せて来た。

エリザベス女王即位70周年で沸き立つロンドンの陰でこうした人々を目にするのは良くも悪くもイギリス・ロンドンという場所を知る事が出来たと思う。

というのはここではホームレスの人がたくさんいる。

日本にいた時には全く見なかったのかと言われると見たと言えるが男性のホームレスしか見た事がなかった。

ロンドンには男女ともに見られる。
駅の出入口の壁際に座り込んだ女性の前には紙コップが置かれていてそこには数枚のコインが入れられている。

店で食事をしていたら紙に「お金をください」と英語で書いて女性が入って来た。
その女性は最も近くにいた男性へと近づいて紙を差し出しながら交渉する。男性は食事を続けながら女性を遠ざけるのだが食い下がる。
飲んでいたスープの上に手を伸ばして皿に触れんばかりにねだるのを男性は強い語気で断るのだった。
女性が出ていって食事を終えた男性はその様子を見ていた私に「彼女に気を付けろ、気を付けろよ」と繰り返し忠告して店を出て行った。

駅前のバス停でバスを待っているとひとりの男性が近づいてきてお金をくれと言う。
聞けば刑務所帰りで住むところもお金もないのだそうだ。
カード支払いの普及したロンドンでなぜ、コインをねだるのが未だに根強く残っているのが不思議だが私は差し上げられるものを持っていない。
断ると男性は次の人へと話しかける。
体が痒いのかお尻や背中を掻きながらお金をねだる。持ち上がった服の裾とずり下がったズボンがぼろぼろでダニに咬まれたような赤い斑点をいくつも付けているのが見えた。

こうした光景をいくつも見て恐ろしくなった。
断るのも恐ろしい。逆恨みのように思われるのも嫌で丁寧に言葉を尽くして話しても丁寧な分だけ希望が見えるのか去って行かない。

これに慣れる価値観を持ちたくはない。
その点において私は日本を恋しくなった。

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