宇宙での貧血って??
宇宙空間に滞在する宇宙飛行士の体内では体液シフトにより、血液が上半身に多く集まり、濃縮状態になります。血液が濃縮されると血栓などの危険性が高まることから、身体の順応により、濃縮された血液を薄めるために赤血球の破壊(溶血)が行われて全体的な血液量が少なくなります。これが宇宙貧血と呼ばれる症状です。
小学生時代から陸上をやっていた
小学生時代から陸上をやっていたのですが、夏にトレーニング中に
どうしてもうまくいかない時期がありました。
気合が足りないのかと頑張りましたが、どーしてもダメで、
調べてみると、、、、貧血でした。
練習できないわけです。
さて、宇宙に行った場合、貧血になるって聞きましたが、、、??
貧血とは
病気がみえる vol.5 血液 より
貧血とはどういった状態のことをいうのでしょうか?
血液中には赤血球という細胞があり、
その中にヘモグロビンというタンパク質があります。
このヘモグロビンが酸素を運搬する働きをしています。
そのため、不足で酸素をうまく全身に運べなくなり、
息切れ、疲れやすさなどの症状が出てきます。
ヘモグロビンは赤い色素をもつヘムという成分をもっているため
血液は赤く見えます。
ヘムを構成する重要な分子として鉄分があるため、貧血=鉄不足
というイメージになっていると思われます。
(カブトガニは銅が使われており青い血液です)
貧血は、WHO(世界保健機関)の定義では
血液中のヘモグロビン値が男性で13.0g/dl以下、
女性で12.0g/dl以下のことをいいます。
赤血球は骨髄で産生されます。
約120日間体内を循環した後に、脾臓を中心とした臓器で破壊されます。
貧血には様々な原因があります。
鉄が不足した「鉄欠乏性貧血」が最も有名かと思います。
他に、ビタミンB群や葉酸が不足してなる貧血、
癌や関節リウマチなど慢性疾患が原因でなる貧血もあります。
そして、白血病や多発性骨髄腫など血液の病気でもなります。
宇宙での貧血
宇宙飛行のミッションの間に
骨粗鬆症のような病態が進行することは知られています。
しかし、造血組織として骨髄に何が起こるかは
未解明の状態です。
地球上での実験では、骨髄中の脂肪細胞が増加し、
赤血球と白血球の生成が少なくなる可能性があることが示唆されています。
赤血球が減少することで貧血を引き起こし、、脱力感、持続的な倦怠感、
脳機能の低下などの日常生活への影響が起こります。
白血球が少なくなると、体は感染症に対してより脆弱になり、
放射線被曝に対してより敏感になります。
宇宙空間に滞在する宇宙飛行士の体内では体液シフトにより、
血液が上半身に多く集まり、濃縮状態になります。
血液が濃縮されると血栓などの危険性が高まることから、
身体の順応により、濃縮された血液を薄めるために
赤血球の破壊(溶血)が行われて全体的な血液量が少なくなります。
これが宇宙貧血と呼ばれる症状です。
上述のように説明され、理論的なようにも思えますが、
その詳細な発生メカニズムは未だ解明されていませんでした。
最新の知見
オタワ病院に所属するガイ・トルーデル氏らの研究チームが、
宇宙貧血のメカニズムを解明するために
宇宙飛行士の血中成分の経時的な変化を調査して、
論文として発表しています。
研究では14人の宇宙飛行士に対して
宇宙滞在開始から5日・12日・3カ月・6カ月経過した時点の
血液と呼気のサンプルを提供して、赤血球と白血球の機能を評価しました。
また、ガスクロマトグラフィーによって呼気に含まれる一酸化炭素の量も
分析し、溶血によって破壊される赤血球の数を推定しました。
(溶血が生じる際に、一酸化炭素が生成されるためです。
一酸化炭素は溶血以外の要因でも生成されますが、
人体で生成される一酸化炭素の85%は溶血の際に
生成されると考えられています。)
加えて磁気共鳴画像法(MRI)を使用して
宇宙飛行前後の骨髄の脂肪含有量を確認しました。
分析の結果、
地球に着陸した直後に採血された13人の宇宙飛行士のうち
5人は貧血でした。
また、地球では毎秒約200万個の赤血球が破壊されているのに対して、
宇宙空間では毎秒約300万個の赤血球が破壊されていること
が明らかになりました。
さらに地球への帰還から1年後に同様の分析を行ったところ、
宇宙空間に滞在していた宇宙飛行士の体内で破壊される赤血球の数が
一般的な人と比べて約30%高いことも判明しています。
(継時的に改善は示していますが)
このことは宇宙での貧血が長引き、長期宇宙滞在や月面や火星への
着陸に影響を及ぼす可能性が示唆されています。
加えて、骨髄の脂肪含有量の増加も示唆されていました。
今後の対策としては、栄養の補助や
赤血球を破壊する「脾臓」に何らかのアプローチをすること
が考えられています。
着陸中に貧血に??
宇宙における貧血は、飛行後に収集された血液サンプルに基づいており、
着陸のストレスや地球の状態への再適応など、
さまざまな要因の影響を受ける可能性があります。
総合的な判断が必要とする意見もあります。
しかしこの場合も、火星や月面などへの着陸の際は必ず貧血が問題と
なりそうです。
地球への適応可能性
宇宙貧血についての病態理解や解決策によって、
高齢者、寝たきりの患者、リハビリテーション治療を受けている患者
で貧血を起こしやすいこと、
リハビリを促進する要因などがわかる可能性があります。
感想
今回も全く知らないことばかりで、調べていてワクワクしていました。
推定の病態である体液シフトによる溶血の進行が、
実際の研究でも明らかになったことの意義は大きいと思われます。
【参考文献】
病気がみえる vol.5 血液
https://edu.jaxa.jp/contents/other/if/pdf/003.pdf
Nat Med. 2022 Jan;28(1):59-62.
https://www.biomedcentral.com/about/press-centre/science-press-releases/12-09-17
執筆者
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