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夏の未練

会いたい人に思うように会えないまま、季節が変わっていこうとしている。
一夜ごとに闇の暗さは変わり、一雨ごとに空気の匂いも変わっていく。

あの日も酷く暑い空間だった。
思い出すだけでも汗ばみそうな。
でも不快感はひとつも無い。
肌を寄せても指を絡ませても吐息が混じりあっても。
文字通り喧騒に満ちた夜を影を重ねながら歩き抜ける。
笑いながら。
笑いこらえられずに フラフラとぶつかりそうになる腕を引き寄せ、また笑い合う。
視線が重なれば眼差しはその夜に吸い込まれる意志を、互いに確かめ合っていた。
きっと笑い合っていないと真実に押し潰されそうな夜だった。

そんな夏を味わってしまってから、
酷く暑い夏が嫌いになれない。

なんの煩いもない子供の頃から
人は夏の終わりには未練を感じるように刷り込まれているんだろうか。心做しかそう思う。
後悔 ではなく、未練。


もう同じ夏は二度と来ない。

一夜ごとに闇の暗さは変わり、一雨ごとに空気の匂いも変わっていく。
会いたい人に会えていても、季節は勝手に変わっていこうとしている。

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