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娘は母親のもっとも苛烈な批判者

授業後に学習相談をしていると、親子ゲンカに遭遇することがまれにあります。
子どもの言うことをよくよく考えてみると、なるほどなあ、と学びが得られることも多いです。
今回はそんな親子ゲンカの一例をご紹介します。

(以下、許可をいただいた上で、個人が特定できないよう、脚色を加えています)

Aちゃんはみんながやりたくない学級委員を引き受けてくれるような、自己犠牲をいとわない優しい子。
ただ、かなりのんびりやさんで、なかなか塾の課題が終わりません。
素直で「あんまり勉強は好きではない」と私にも言う子です。

Aちゃんのママはかなり高学歴のコンサルで、話し方も論理的*1。
Aちゃんの日々のタスクを整理し、なんとか次の授業までに終わるよう、Aちゃんに毎日声がけされています。

Aちゃんは勉強があまり好きではないということもあって、算数の宿題は途中の式を適当に書いて、あらかじめ塾の授業中に覚えておいた答えを書く(覚えられる暗記の能力がすごいのですが…)、なんてこともしてしまいます。
(私が途中の式を説明してもらうので、適当に書いていることがバレてしまうのです。)
算数だけでなく、さまざまな課題で「終わらせる」ことが目的になってしまい、内容がスカスカになっていました。

授業後、ママもいるところで
「この勉強で最難関の学校を目指すのは厳しいよ。今の最難関志望校はあくまでチャレンジの位置づけにして、もう少し偏差値では易しめの学校を第一志望に考えても良いんじゃないかな?
易しめの学校を第一志望にするんだったら、今より課題を減らせるよ。課題の量をしぼれる分、今よりも内容のある勉強ができるんじゃない?」
と伝えたところ、
「だったら、志望校を変えたほうが良い」
と即答。

今まで第一志望の難関校にこだわっていたAちゃんが、あまりにアッサリだったため拍子抜けして、よくよく話を聞いてみると、
ボソッと
「ゴチャゴチャ言われながら勉強するのがイヤやねん…」
とか細い声でつぶやきました。

「ゴチャゴチャ」ってなんや?
と疑問に思いながら話を聞いていると、ママの管理(声がけ)のことを言っているようなのです。

怖っ!ケンカ売ってるやんか。

私は怖すぎてママの顔を見ることができませんでした…。
幸い、度量の大きい(?)ママが
「じゃあ、一週間、ママはなんも言わへんから、それでやってみよう」
と建設的な提案をして、その場は収まりました*2。


私は上野千鶴子さんが

娘は母親のもっとも苛烈な批判者です。10代の自分自身がそうだったから、よくわかります。そしてそういう苛烈な批判者が自分の傍らにいたら、と想像するだけで身が竦みます。わたしが母になることを選ばなかった理由のひとつは、その恐怖でした。

上野千鶴子・鈴木涼美『往復書簡 限界から始まる』(幻冬舎, 2021年)

と書かれていたのを思い出しました*3。

Aちゃんの指摘は鋭いのです。
優しい性格のAちゃんにとって、たしかに、ママの管理の仕方には、ちょっと言い方のキツい直接的な指示が多かったのでしょう。

アサーション(アサーティブ・コミュニケーション、対等な関係で互いに尊重し合うコミュニケーション)という観点で考えると、ママの声がけによって、「できるママ↔できないAちゃん」という構図になってしまっていたようにも思えます*4。

中学受験を通じて、親子がお互いの人格をより深く知り、より良い親子関係を築いていただきたいな、と私は思っています。
このケンカが、Aちゃんにとっても、ママにとっても、より良いコミュニケーションのきっかけになればいいな、と願っています。

また、Aちゃんのか細い声は、もっと上手く私をモチベートする仕組みを考えてよ、という静かな抗議だったようにも感じました。私自身、非常に耳が痛いです。

「○○しなさい」と指示して、勉強してこない子どもを批判するのは三流。一流の講師は子どもが自然と勉強したくなるような授業を展開します。
家庭教師として、子どもが楽しく勉強できる仕組み・環境をどう作るのか。
自分自身がもっと実践しなければならないし、ご家庭にももっと提案できないとダメだな、と感じました。


こうした親子ゲンカは少し極端な例ですが、授業後の学習相談は私にとっても学びが多く、とても大切にしている時間です。
直接勉強に関わりのない内容も含め、いろいろなお話をお伺いしたいと思っています。


*1 私がAちゃんに「100%合格します、って言うことはできひん。どんなに優秀な子だって、落ちる可能性がある。だから、落ちたとしても『やり切ったんだから、仕方がない』って後悔しない受験にすることが大事やで。だから、今、毎日、目の前のことに全力で取り組まんとあかんよ。」と言った後、ママが「Aちゃん、先生の言ったこと、ほんまに分かっていますか? 合格・不合格、やり切る・やり切らない、4通りあるけれど、自分がどう感じるか、全部考えてる?」と一言。
Oh…Aちゃんのママ…さすがコンサル…。MECE(漏れなく、重複なく)ですね…。しかし、Aちゃんはそんなすぐにフレームワークを作れないと思います。。

ママの頭の中にできていたであろうフレームワーク

*2 受験勉強はできるだけ自立して行うべき、と私は思っているので、「1ヶ月くらい自分一人でやったほうが良いのでは?」と提案しましたが、ビビリのAちゃんは「一週間がいい」とのこと。もし自分で上手くできなかったら、ママにまたガッツリ管理してもらいたいということらしいです(虫がいいなあ)。
私は「『ゴチャゴチャ言うな』なんてケンカを売った以上、元の通りの管理に戻すなんてよほどのことやで。中学生になっても、ずっとパパママに勉強見てもらう、なんてことはできひん。いずれ自立せなあかんのやから、今から自立しなさい」と伝えました。
果たしてAちゃんが自立できたかどうかは、また別の機会に書こうと思います。

*3 私の頭の中では上野先生の声で再生されています。ぜひ上野ヴォイスを想像しながら読んでいただきたいです。この続きに書かれていることも。

*4 決してママが悪いわけではありません。ママが受験で成功してしまっているため、どうしてもこういった構造になりやすいです。


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