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そこかしこに芽吹くいのちの成長点をただただ愛でる、そんな世界を守りたい

 植物の根の最先端は成長点と呼ばれ、細胞分裂を繰り返しながら現在進行形で新たな成長を遂げてゆく。未来が過去へと絶え間なく転換され続ける「今ここ」のゆるぎない一点だ。かたや、乳幼児期のこどもたちの一日一日いや一瞬一瞬もまた、すさまじい勢いで繰り広げられるこころとからだの死と再生の新陳代謝の連続ドラマだ。成長スピードは一定ではなく、こどもたちの昨日と今日のある一点を比較したとき、そこには別人かと思えるほどの、目を見張るような成長ぶりが確認されることも珍しくはない。
 その日、馴染みのこども園のお砂場で、いわゆる「気になる」こどもたちの様子を観察しながら、担任の先生と立ち話をしていた。”青空カウンセリング”と私が勝手に呼んでいるフリースタイル、ライブ形式の心理カウンセリングもしくはコンサルテーションだ。
 「これあげる!」ふいに弾んだ声が響き、オレンジの視野が広がった。驚いて周囲を見回すと、年中さんくらいの男の子が何ともいえないグラデーションに色づいた楓の葉っぱを小さな指でつまみ、頭の上高く掲げていた。「え、いいの?こんなに色もかたちも綺麗な葉っぱ、なかなか見つけられないでしょ。せっかくだから大事に取っておいたら?」内心どぎまぎしながら伝えるも、「いいの!あげる!」と照れ隠しなのか目も合わさず、けれど彼はきっぱりと繰り返した。そうならばとそうっと赤みがかったオレンジの小さなバトンを、私はありがたく受け取った。「ありがとう!とっても素敵ね」。そばで事の成行きを見守っていた小さなお友だちは「赤ちゃんのお手てみたい。かわいいね。うふふ」とほほえみ合っている。泥水で灰色にぬりたくられた手足やほっぺもしばし忘れ、その”小さな秋”のきらめきをまん丸な瞳で見つめる子もいた。宝物を手放し颯爽と立ち去った彼はというと、振り向きもせず次の遊びに一直線。澄みきった秋の蒼天に届けとばかりに「素敵なプレゼント!どうもありがとー!」と私は声に思いを乗せた。前置きもあとがきも一切残さないすがすがしいサプライズに、ともすれば滞りがちな私の新陳代謝に、スイッチONの音が聞こえた。
 こどもたちは「今、ここ」をより濃く生きる天才だ。身近で見守る大人たちは、そのいのちの萌芽を細心の注意をもって見守らねばならない。なぜならそれは、より明るく温かい未来へ向けたミクロの一歩となりうるからだ。


 


#未来のためにできること


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