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“伝統工芸“の枠にとらわれない施設への挑戦 | 駿府の工房 匠宿 統括責任者 杉山浩太さんインタビュー

今年5月にリニューアルした伝統工芸の発信地、匠宿を案内をしてくださったのは、プロサッカーリーグ清水エスパルスの元選手である杉山浩太さんです。

木工職人の戸田勝久さんはどのような想いで匠宿にやってきたのでしょうか。また、匠宿を運営する株式会社創造舎の山梨社長とはどのような方なのでしょうか。

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ものづくりのまち静岡としてやるべきこと

せっかくなので、匠宿自慢の職人たちにも話を聞いていってください。

みなさん、独自の技術やこだわりを持った素敵な方々です。本当だったらすべての職人のインタビューを記事にしていただきたいところです(笑)

工房にいらっしゃった木と漆工房長 戸田勝久さんにお話を伺うことができました。戸田さんはどのうような経緯で匠宿に関わるようになったのでしょうか?

【戸田さん】

僕の事業所は静岡市内の別のところにありますが、製作の拠点は今はもう匠宿ですね。

一年籍を置いて、やっと自分の役割が定まってきたように感じます。チームでの仕事に慣れましたし、周りのスタッフたちも製作の時間を確保してくれるようになりました。

僕も杉山さんのように山梨社長から直接ご指名を受け、ここに関わることとなりました。

ある日、山梨社長から急にお電話をいただいたんです。もちろん有名な方ですからお名前くらいは存じていたのですが、直接的な関わりはありませんでした。

「今から少しお邪魔させていただけないか」といった内容の電話でした。てっきり製作の依頼かなんかだと思っていたので、あまり深く考えずに「大丈夫ですよ」と答えました。

しかし、それがなんと「匠宿の木工セクションで作品製作を披露してくれませんか」というお願いだったんです。最初はびっくりしました。

数々の優れた職人たちがいる中で、「なんで僕に声をかけてくれたんだろう」という疑問もありましたが、話をするうちにすっかり山梨さんの魅力に引っ張られて、一本釣りされちゃいました。

職人として独立して十年の節目だったことやコロナ禍での先の見えない不安などもあり、もしかしたら「匠宿がなにかの転機になるかもしれない」という期待もありました。何より僕を選んでくれたことへの感謝が大きかったですね。

【杉山さん】

戸田さんが来てくださったのは新設の工房なのでノウハウがまったくありませんでした。ご自身の製作で忙しい中でいろいろしていただいて、本当に頭が上がりません。

【戸田さん】

現在製作中の作品について説明させていただきます。

これは栴檀(せんだん)という木から作ったものです。栴檀は樹木の中でも早く成長する早成樹で、今後、木工業の要になるのではないかと静岡市が注目している木材です。

こちらはその試作品として作った短冊を入れる箱です。

自分だけのオリジナル作品を作ってくっていうのがベースにあるんですけど、このように誰かと一緒に作品を作っていくことには一人でやる創作とは違った喜びがありますし、新たな学びも多いです。

どの技術を使ったらお客様に喜んでいただけるか、つねに考えながら製作をしています。

僕は基礎となる木工技術を京都で身につけました。伝統的技法で木製品をつくる、いわゆる京指物を勉強していたんです。静岡とは歴史や文化が違うのですが、新たな環境に身を置くことで、製作意欲が刺激されていく感覚があります。

木工は生活の中で重要なポジションを占めてます。テーブルや椅子、テレビボードも木でできています。ただ昨今ではライフスタイルの変化もあり、全国的に売れ行きが伸び悩んでいます。

木工の盛んな静岡は、そこをなんとか盛り上げていかなければいけませんよね。

山梨社長の印象

戸田さんを含め、職人さんは企画、デザイン、営業を全部一人でこなす方が多くて、本当にいつも忙しくしています。

ここに来てくださったからには、一人で仕事をしていたら見られない景色を見てもらいたいし、一人では出会えなかったお客様にも会っていただきたいです。

職人の方々が気持ちよく創作に打ち込める空間を提供するとともに、心から「来てよかったな」と思っていただける施設にしていくのも僕らの使命だと感じています。

おそらくですが、社長の山梨も同じことを考えているはずです。

僕の仕事は営業、広報、ブランディングなど多岐に渡りますが、一番の仕事は社長である山梨の考えや行動を言葉にしてみなさんに伝えることかもしれません。

自慢話になっちゃうんですけど、社長の山梨は本当にすごいですよ。

エスパルスの営業として関わっていたころからひしひしと感じていましたが、一緒に働いてみて、ますます尊敬できるところが見つかりました。

社長がらみのエピソードで印象に残っているのは、初めて新しいスタッフと顔合わせをしたときのことです。

「机を並べておいてください」と言われたのでなんとなくで並べたら、「これだとみんなが向き合って座る形になり、意見が出にくくなると思います。円状に並び変えてください」と指示されたことです。

そういった細かいことまで大切にしているのが社長なんです。

スタッフ全員の名前を最初に覚えたのも社長かもしれません。大胆に建築物をつくる一方で、きんつば一つ売るのにも細かい気遣いを忘れない。僕の10倍くらい仕事も気遣いもしているのに、いつも元気。そんな社長を見ていると「自分もまだまだ頑張れるはずだ!」と思ってしまいます。

社長はいつも与えてくれる人なんです

緊急事態宣言で休館中のときなんて「スタッフも大変だから」と一ヶ月間、スタッフのランチを無料にしてくれたんですよ。スタッフ全員といったらそこそこの金額になりますよね。

こういうことをさらっとやられると、スタッフたちも「頑張らなきゃ!」と思ってしまうんでしょうね。もしかしたらそれが社長の策略かもしれませんが(笑)

僕なんてサッカー選手時代を除けば、社会人になってまだ四年ですよ。そんな僕に決断を任せてくれます。いつも広い背中を見せられているので、僕らも安心して挑戦ができます。

匠宿のスタッフたちも、社長や職人、ディレクターたちの人柄を見て、納得しているから笑顔で働けるんじゃないかと思っています。

匠宿の目指す場所

創造舎が再開発事業を進めているエリアに、静岡の街中の人宿町があります。人宿町は旧東海道の宿場町として昔から賑わっていました。

丸子もかつては丸子宿(鞠子宿)と呼ばれ、東海道上で人宿町と繋がっていました。昔から強い関わりのある二つのエリアをしっかり繋げ、お互いに盛り上げていきたいという想いがあります。

脈々と続いてきた人々の想いや技術を次に引き継いでいくのが僕たちの理想とするまちづくりであり、伝統工芸の魅力を人々に伝えていくことが匠宿の使命です。

ただ、最初から「工芸品」で集客するには間口が狭すぎます。だから、ポップでキャッチーな入口として、おしゃれなカフェやクラフトビールなどの話があります。

興味を持つ入口はどこでもよくて、最終的に伝統工芸に触れた人々が魅力に気づいて、「ここで働きたい」「職人になりたい」「工芸品てすごい!」と思ってくれることを狙っています。

ゆくゆくは海外からのお客様も増やしていきたいですね。コロナの影響もあってそこまで手が回っていないですが、ありがたいことに「海外の人たちに匠宿を紹介したい」と言ってくださる方々もいらっしゃいます。

海外のお客様を連れてくるための下見や外国向けの取材依頼も増えており、広報をしている身として、「お! これは動き始めるんじゃないかな」という期待を感じています。

これからも世界に誇れる伝統工芸の発信地として、また、歴史と未来を結ぶ場所としての匠宿を目指していきます。

今までの匠宿を知っている方も、匠宿を利用したことない方も、ぜひリニューアルした匠宿に遊びに来てください!


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