企業の広報ってこれであってますか? 〜広報担当三人による座談会〜
広報の勉強会で知り合った三人が、企業の広報のあり方についてざっくばらんに話し合いました。
スピーカー紹介
株式会社イシダテック 小山和希さん
ユーモラスな文章で人気の記事を書いているのはこの方。
伊豆川飼料株式会社 伊豆川剛史さん
ツナ缶ブランドの立ち上げを機に、情報発信に力を入れ始めた伊豆川飼料株式会社の取締役。
株式会社LEAPH 須藤茜(通称:茜さん)
顔出しNGなのに、さまざまな方面に顔をツッコミたがる静岡みんなの広報の中の人。
広報を始めた理由
茜:
まずはnoteやSNSで広報を始めたきっかけについて伺ってもいいですか。
イシダテックさんも伊豆川飼料さんも、それまで企業としての広報活動をしていなかったのに、なぜここ数年で発信に力を入れるようになったんですか?
小山さん:
よくよく考えれば、私たち全員「広報を専門的にやっている人」じゃないですよね。最近になって広報せざるをえない理由が生まれただけで。伊豆川さんにいたっては経営者ですもん。大変そう。
伊豆川さん:
大変じゃないと言えば嘘になりますが、今のところ一人でカバーできる仕事量です。
茜:
私も、肩書きこそ「広報兼プランナー」となっていますが、静岡みんなの広報のインタビューにも行ってますし、社長にくっついて営業回りみたいなこともしています。実質、何でも屋です。
そもそも私なんて入社してから数ヶ月しか経っていないので、広報と名乗ることがおこがましいくらいです。
小山さん:
入社数ヶ月でその活躍ぶりはすごい!
伊豆川さん:
では、僕から広報を始めた理由をお話ししますね。
伊豆川飼料にはもともと広報がいません。というのも、取引先は会社さんばかりなので、「うちのことを一般の方々に知ってもらいたい」という気持ちがあまりなかったんです。
ところが仕事をしていくうちに、「自分たちのお客さんにだけ影響を与えることは無理なんじゃないか」って気がしてきました。大きな流れをつくって多くの人々を巻き込んでいかないと、お客さんも業界も変えられないかもしれないって。
小山さん:
それは私も感じたことあります。いわゆるブランド力みたいな、「みんなが知っている」の力は強いですよね。
伊豆川さん:
うちの商品は、ざっくり言えば静岡の魚です。その魚の食べられないところを飼料として加工して販売するのが我々の仕事です。ところが、その肝心の魚の漁獲量と加工量は年々減ってきています。
また、うちの肥料を使ってくれている農家さんも後継者が見つからずに困っていたりとか、一生懸命野菜をつくっても売れなくなってきたとか、マイナスな話ばかりが飛び交っています。
「このマイナスを放っておいたら大変なことになるぞ」と。現状を打開するには大きなムーブメントが必要だと思い、商品開発をし、それにともなうお客さまへの周知のために発信を始めたのが、僕が広報に足を突っ込んだきっかけです。
茜:
「自分から動かなきゃ!」ってところに伊豆川さんの本気を感じます。
伊豆川さん:
逆にいえば、僕にはそれしかできなかった。魚の数を増やすことも、農家さんの後継者を見つけることもできない。
だったら、静岡でつくっているものの価値を世間に認めてもらって静岡が元気になれば、自然と仕入れ先のお客さんも元気になって、巡り巡って自分の仕事も順調になるんじゃないかと思ったわけです。
茜:
見え方が変わったんですね。
伊豆川さん:
ただ、小さい缶詰屋さんは諸事情あって、自分たちが目立ちたくないんですよね。「新しいことやりましょう!」と言っても、「いや、うちはいいや」と言われてしまいます。「そこをなんとか」と頭を下げて、やっとのことで任せてもらえました。
そんな経緯で生まれたのが、持続可能な循環を目指す「とろつな・しろつな」というブランドの缶詰です。
▼「とろつな・しろつな」誕生の軌跡をもっと知りたい方はこちら▼
小山さん:
これで記事が一本書けそうじゃないですか(笑)
茜:
ドラマもいけそうです。
伊豆川さん:
話は戻りますが、結局、なぜ自分で広報をやっているかといえば、やる人がいないから(笑)。自分の思っていることを代弁してくれる人はどこから連れてくればいいんでしょう……。
その点、イシダテックさんは幸せですね。優秀な広報がいて。
小山さん:
いえいえ。私も発端は茜さんと同じです。私の属する総務課も何でも屋で、広報をやれと言われたらやるしかない。
社長が「採用のために広報やるぞ!」と言い出して、たまたま白羽の矢が立ったのが私だっただけ。というか、私しかいなかった。
伊豆川さん:
僕と同じだ(笑)
小山さん:
「イシダテック」の名前を聞いてピンとくるのは、ほんの一握りの食品業者さまだけで、それ以外の人は知っているわけがないんです……。名前を知らない会社に入社したい、とはならないですよね。
若い人たちが就職先を探すときに、とりあえず見るのはインターネット。なので、とりあえずネット上にあるイシダテックの情報を増やそうと始めたのがnoteでの情報発信です。
会社のことを知ってもらうために組織のことや働いている社員のことを書いています。
だから、「私自身が何かを伝えたい」という気持ちで書いているわけではないので、伊豆川さんや茜さんがインタビューされている社長さんたちと比べて、会社への接し方はドライかもしれません。
伊豆川さん:
ドライだとはまったく感じないですけどね。温かみがあるというか、愛情があるというか。
僕がイシダテックさんの記事読んで思うのは、「こんな社員さんがいて羨ましいな」です。記事を書いている小山さんだけではなくて、社長さんや働いている方々のエピソードも含めて、魅力的な会社だなって思います。
小山さんは代弁者なんですよ。社員さんたちが思っていることを汲んで記事にしてくれる。これは発言者のことを理解してないとできない芸当です。
茜:
自分の意志が入り込まないぶん、一歩引いた視点で見られるのかもしれませんね。
小山さん:
たしかに、ノイズになるような熱意がないから社員の考えていることをクリアに書けるのかも。冒頭の二行以上に「私」が出てこないのも私の書く記事の特徴とも言えますし。
なお、何か意見を書きたい時は必ず「私見です」と書いています。あとは写真のキャプションかな。命かけてキャプションを考えています。あそこだけ自分が滲み出る場所ですね。
茜:
そこがイシダテックさんの記事の特徴というか、個性ですね。みなさん、ぜひ注目して読んでください。
ネタ探しについて
伊豆川さん:
僕から茜さんに質問していいですか。社長さんたちにインタビューしているのも茜さんとのことでしたが、やっぱり事前にインタビューの内容を細かく決めているんですよね?
茜:
そうですね、インタビューに行く会社さんのことは調べられる範囲で調べて、そこから質問を考え、また、質問への回答から展開される会話をある程度予想してから伺っています。
質問に答えやすいよう、先方にも事前にインタビューの目的や「こんなこと聞かせてください」という大まかな流れを伝えてあります。
小山さん:
なるほど、やっぱり考えてらっしゃるんですね。僕は社内の知っている人だから気軽に聞き出すことができるんですが、初対面の方に話してもらっている茜さんはすごいですよ。
茜:
社長さんたちは伝えたい想いがある方ばかりなので、自分からたくさん話してくださいます。あとは返ってきた答えを深掘りしていけば、もう立派な記事になってしまいますね。
むしろ、私はお二人のほうがすごいことをやっていると思っています。たとえば、書くネタを探すのは大変じゃないですか?
伊豆川さん:
僕なんかは何も考えず、あふれ出てしまうことを書いています。今noteに掲載しているのは、自伝を時系列に整理しながら書いているイメージです。
過去のことを思い出しているだけなので、とくに頑張ってネタを捻り出しているわけではありません。でも、だからこそ全部出し切ってしまったらどうしよう……とは恐れています(笑)
茜:
ネタ切れしないのか? という意味でも、イシダテックさんはすごいです。毎週アップしてますもんね。
伊豆川さん:
本当に尊敬ですよ。うちも毎週アップを目標にして始めたものの、一ヶ月も持ちませんでした。
小山さん:
noteを始めてから一年と二、三ヶ月になりますね。それはもうキツいです。ネタを決めること、書く時間を捻出すること、どちらもヒーヒー言いながらやっています。
茜:
ネタのストックはしていますか?
小山さん:
最近はしていないので、毎週社長に「次どうしましょう?」と相談しています。締め切りに追われる漫画家の気持ちがよくわかります。ネタや時間を捻り出せなくて挫折しちゃう会社さんも、そりゃ多いわけですよ。
伊豆川さん:
何か続けるコツはあるんですか?
小山さん:
続けるコツに関しては……こちらをご覧ください。
茜:
突然の宣伝ですね!
小山さん:
最後は気合と根性、そして図々しさです(笑)
発信するうえで気をつけていること
茜:
noteの記事を書く時って、字数や話題とかって気にしながら書いていますか?
伊豆川さん:
書き始めたら多くなりすぎちゃって、一回で終わらせようとしていたことを二回に分割してたりはします。多すぎると読むのが大変ですから。
当たり前のことですが、あとは悪口を言わないことです。特定の個人を狙って傷つけようとしてなくても、思ってないところで誰かを傷つけてしまうことがあります。私は基本が辛口のキャラクターなので、毒がポロッと出てしまわないように細心の注意を払っています。
茜:
言葉を選ぶ力はとても大切ですよね。読んだ相手がどのように思うのかもしっかり考えて、伝わりやすい言葉で発信していかないといけないなって思います。
小山さん:
私も意図しない形で読んでいただく方を傷つけたくないので、何度も慎重に読み返してから発信しています。それこそ間に誰も入っていないことが多いですから、自分のモラルが最後の砦です。
ただ、文字数に関してはだんだん無視するようになりました。読了率を調べても、「文字数が多い記事は読まれていない」なんてことはまったくありませんでしたので。
それに、読まれなかったら読まれなかったで全然いい。読みたい人に読んでもらえればそれでいいんです。もちろん読んでもらうからには、「おもしろかった!」と思われるように書いているつもりです。
茜:
私たちも、社長さんの想いをなるべく忠実に伝えようとすると、三つくらいの記事になっちゃいます。それでも読んでいただけているみたいです。
ただ、「一緒に他の社長さんのインタビューも読んでみようかな」には繋げられていません。ピンポイントで読まれて終わってしまうんです。そこが悩みですね。
伊豆川さん:
静岡みんなの広報さんの記事には、まちづくりに関心のある社長さんへのインタビューがたくさんありますよね。そういう記事を読んで、「静岡もまだまだ捨てたもんじゃないな」って思っていました。
まちづくりのシリーズが続くと静岡のことを思っている人たちが食いつくんじゃないかな。自分の住んでいる静岡の街が今後どうなるかって話題は、自分にとって身近じゃないですか。
やっぱり、興味のない企業の記事に興味を持ってもらうには、親近感を武器にする必要があると思うんですよ。
茜:
なるほど、親近感ですね。ありがとうございます!
広報のキャラクターと会社のイメージ
茜:
私は発信する時、なるべく等身大の自分を意識するようにしています。静岡に住んでいる私だからこそリアルな静岡について語れるんじゃないかなって。不器用だからカッコイイ自分を演じられないというのもありますけど。
伊豆川さん:
企業の中の誰が発信するかは大切ですよね。広報のキャラクターにもTPOがあると思います。
小山さん:
広報って企業の窓口的な立場にありますよね。ベンチャー企業の広報とかだと「白い歯を見せて笑うキラキラした若い人」のイメージが強いけど、それは「若さと爽やかさを前面に押し出していくぞ」って心算があるから成り立つんです。うちが“キラキラ”をやっても絶対に説得力ない(笑)
伊豆川さん:
キャラクターをうまく使っているのは茜さんじゃないかな。
若い女性の広報は一般的に、ガンガン前に出てくるじゃないですか。それをあえて仮面にして、顔出ししない道を選んだのが憎い演出だなって。
小山さん:
SNSでの発信を見ていても、会社紹介の前に必ず「茜さん」も姿がちらつく。茜さんが無機質な“会社”というものとの緩衝材になっている印象です。マスコットキャラクターみたいな。
それに、ミステリアスでいいですよね。仮面の下がどういう人物なのか気になりますし、茜さんが働いている株式会社LEAPHのことも気になってしまいます。
茜:
そう思ってもらえたのは嬉しい誤算ですね。もともとこのような形になることが決まっていたわけではありませんでした。紆余曲折あって、「茜さん」というキャラクターが生まれたわけです。
小山さん:
理由は教えてもらえないんですか?
茜:
それはナイショです(笑)
まあ、先日ラジオに出演して声を公開していましたので、もしかしたら、すべてを曝け出す日が来る……かも?
広報は○○である!
茜:
みなさん、広報を始めて何か変わったことはありますか?
小山さん:
お客さまが「読んでますよ!」って声をかけてくださったり、リンクから自社のホームページを訪れてくださる方も増えました。
noteがそのまま名刺代わりになるんです。究極的にはSNS経由でお仕事をいただいたり、「真空管テレビで東京オリンピックを見た人がいる会社で働きたいです!」と言ってくださる方が出てくることに期待です。
伊豆川さん:
守秘義務があるからSNSで公開できる限界はありますけどね。「こんな製品が欲しいからイシダテックさんにお願いしよう!」までなかなか繋げられないことはありそう。
小山さん:
そうなんですよ! 本当はもっと仕事のことを書きたい。わさびやAIの話とかはお客さまがGOを出してくれたので載せられましたが、「A社さんのためにこんな機械をつくりました!」はお伝えできないことが大半です。
だからこそ多くの方に読まれる記事になったというのはあるかもしれません。機械の話は読み手の方も限られますし、組織と人フォーカスという観点は静岡みんなの広報さんと似ていますね。
伊豆川さん:
イシダテックさんの記事はおもしろくてどんどん読んでしまいます。で、読んでいるうちに頭の片隅にイシダテックさんが居座って、「何かあったら相談してみようかな」ってなります。
小山さん:
SNSを通じてイシダテックの名前を植え付けられたなら半分は目標達成です。当初の目標は認知度アップですから。
思えば、伊豆川さんとの出会いもSNS経由でしたね。
伊豆川さん:
そうなんです。イシダテックさんのファンになってTwitter上で冗談半分に「会社へ遊びに行きたいです!」とコメントしてみたところ、「じゃあ、会いましょう」と返事がありました。会ってみたら思っていた通りのナイスガイでした。
小山さん:
先ほどの缶詰の話を二時間近くしましたね。5本は記事を書ける自信があります(笑)
伊豆川さん:
新しい繋がりが生まれるのも広報の効果ですね。そのまま広報が営業の助けになることもあります。記事を読んだ方が「いいことやってるらしいじゃん!」「おいしいものをつくってくれそう!」と思ってくれると、交渉もスムーズにいくようになる。
広報は、ほとんど営業ですよ。
小山さん:
広報は営業! 箴言です。
茜:
たしかに、広報は最高の営業ツールです。私も最近は「静岡みんなの広報」を名刺代わりにインタビューのオファーをしにいくことが増えました。
先日もある企業の社長さんが、「静岡で雇用を生み出したい」みたいなことセミナーでおっしゃっていて、「静岡で働きたい人を増やす」ことを目的としたうちのメディアと相性バッチリじゃないか! と、さっそく“広報の力”使って口説きにいきました。
伊豆川さん:
茜さんの懐に入る力、恐ろしい(笑)
茜:
私は広報素人なので、とにかく行動しながら学んでいこうと考えています。思い立ったらすぐ行動で、社長には事後報告になることも。
伊豆川さん:
知識がないからこそ躊躇いなく動けるのかもしれませんね。
茜:
動いたことで課題も見えてきました。広報が真っ先に学ばなければいけないのは自社のことですね。自分の会社がどのようなことをやっていて、社長が何を考えているのかをしっかり把握して、自分ごとのように説明できないといけない。
先日も広報の集まる勉強会に参加した際、自社メディアのことをうまく説明できなくて歯痒い思いをしました。
小山さん:
小慣れすぎた広報よりいいんじゃないですか。手作り感というか、長いスパンで企業とともに育っていく姿に好感が持てますし、茜さんの言う「等身大」には、そちらのほうがふさわしい気がします。
伊豆川さん:
僕もいっときは「広報のフリーランスみたいな人を雇って記事を書いてもらおうかな」って思っていましたが、内部にまで入り込まないと経営者の想いは正確には伝えられないかもしれないですね。
小山さん:
伊豆川さんと語り合った私なら代弁できると思いますよ。なんなら私がこっそりやりましょうか。報酬はツナ缶で(笑)
茜:
いやいや、それこそ静岡みんなの広報の出番じゃないですか。取り上げてほしいステキな会社や取り組みがございましたら、下記の推薦フォームからご連絡ください!
小山さん:
宣伝来た!
茜:
宣伝返しです(笑)
みなさんにとって広報とは?
茜:
最後に、みなさんにとって広報とは何ですか?
伊豆川さん:
僕からいいですか。
「広報とは営業である」
小山さん:
ズルい! さっき言ってたやつじゃないですか(笑)
じゃあ私は、えーと、広報とは……うーん、思いつかない。ちょっと考えさせてください。急には言葉にできないですよ。いろんな意味合いがあって絞りきれない!
茜:
私は「可能性を広げること」かな。
伊豆川さん:
おお、かっこいい!
茜:
広報をしていると新たな出会いがあって、そこからさらに新しい依頼があったりして、仕事の幅がどんどん広がっていきます。
まだまだ広報としてひよっこですが、いや、ひよっこだからこそ、勉強会とかラジオとか、できることは片っ端からやって新しい繋がりをつくっていきたいです。
小山さんもそろそろ……。
小山さん:
決まったらメールでお伝えします(笑)
茜:
「広報に決まりはない」ということで、今回は終わりにしましょうか。みなさんにとっての「広報とは?」も、ぜひ教えてください。
▼後日の小山さんのつぶやき▼
小山さんにとっての広報とは…
▼イシダテックさんのnoteはこちら▼
▼伊豆川飼料さんのnoteはこちら▼
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