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【私の感傷的百物語】第二十五話 霧

映画化もされた人気ホラーゲーム、「サイレントヒル」。湖畔の霧に包まれた町で、主人公に未曾有の恐怖が襲いかかる訳ですが、このタイトルが、我が故郷、静岡県の直訳あることは、ゲームファンの間では有名な話です。ゲームプレイ中は、致るところで、なにが出てくるか分からない濃霧の中をさまよわなければなりません。

では、実際の静岡県で霧が有名かと聞かれると、少しの間考えてしまいます。霧ならば、どちらかと言えば、信州や北海道の釧路、京都の亀岡などのほうが有名でしょう。ただ、静岡県内でもよく霧に包まれる場所がいくつかあり、その中で、僕が怖い思いをした二ヶ所をここでご紹介したいと思います。

一つは、富士宮市にある「朝霧高原」で、名前の通り霧がよく立ち込めますが、なにも朝に限ったことではなく、夕暮れや夜間にも霧は発生し、その中を車で走るのはちょっとスリルがあります。以前、この高原を、友人の怪奇マニアSDK君の車に乗って夕方にドライブしたことがありました。その日も濃い霧が一帯を覆っており、目の前から少し先すらも見えないというような状態でした。じっと眺めていると、かろうじて道路、そして両側に延々と続く牧場の柵が見えました。霧は、車体にまとわりついては弾き飛ばされるように後方へと流れていき、さながら心霊映像に出てくるエクトプラズムのようでした。車の中なので、じっくりと外の様子を観察しているような余裕があります。しかし、もし徒歩で表を歩く事態になったらどうしよう、などと、僕は余計な妄想のせいで、内心ひやひやしていました。一方、ハンドルを握るSDK君はというと、実に平然としながら運転を続けていたのでした。感心していると、彼曰く、

「ウチの大学の辺りはこんなもんじゃないよ」

とのこと。

何を隠そう、もう一つの霧の場所は、そのSDK君が通っていた大学を含む、とある山の中腹にある土地です。現在は廃校になってしまったこの大学校舎は、僕が住む沼津市内にあり。、雨の後などはしょっちゅう「ガスる」場所でした。SDK君の話によると、霧が濃すぎて下校するのを教授から止められたことが何度かあったといいます。僕自身は、霧の日にこの山へ足を踏み入れたことはなく、いつも麓(ふもと)から仰ぎ見るばかりでした。霧の出る日に、近くのホームセンターの屋上駐車場から件の山を臨むと、校舎とその周囲は、存在がかき消えてしまったかのように、まったく見えなくなっていました。

何度か、霧のない日に、これまたSDK君の車で彼の大学校舎までドライブに来たことがあります。グネグネと曲がった茶畑の間を通る道を上り、建物までたどり着くと、そこから沼津の市街地と駿河湾が一望できました。これほどの絶景も、霧の日には一切見えなくなってしまうのだと、SDK君は話していました。

同じ場所に、夜来たこともありました。明かりはほとんどなく、黒い霧の中を走っているといった具合で、急勾配や連続カーブとも相まって、僕は気分が悪くなってしまいました。闇の中に浮かぶ校舎は(廃校寸前だった時期でもあったので)、ひどく寂しい印象でした。

ちなみに、この校舎群の、とある棟の一階トイレでは、鏡に謎の人影が映ると苦情が殺到し、鏡が取り外されたそうです。また、SDK君は同級生数人と、窓からひとだまのような光を見たと話していました。事実はどうあて、霧に包まれる建物には、怪異がよく似合うのかもしれません。サイレントヒルの町のように。

コチラは御殿場市にある住宅の展示場。誰も住んでいない建物が並び、濃霧が立ち込める風景はまさにサイレントだったが、クリーチャーは現れなかった。

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