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【私の感傷的百物語】第十七話 幽霊三重

「ヒュードロドロ」でお馴染みの、お化けの登場音楽。あれは「幽霊三重(ゆうれいさんじゅう)」という曲です。上方落語の出囃子を集めたCDでは単に「ドロドロ」という名前でしたが、私的には、幽霊三重の方が趣があって良いです。

今でも、日本でスタンダートな怪異の登場シーンには、この曲が流れるのが定番となっています、ですが、「形式」よりも「リアルさ」を追求するホラー物語が主流となったためか、このところはギャグシーンで使われる方が多くなってしまったように感じます。

しかし、機会があれば、一度じっくりとこの曲を聴いて欲しいです。太鼓の連打音と、それに対をなすかのような弱々しい笛の音、そして霧の中から聞こえてくるような三味線の音が合わさり、背筋がひんやりとしてきます。

ここで、ちょっとした自己流のこの曲の楽しみ方をお伝えしましょう。ホラー映画や動画を観ている時に、いざ怪奇現象が起こった、というシーンになったら、すかさず映像の音だけを消して、幽霊三重を流すのです。たとえ外国が舞台の話でも、一気に江戸の風がスクリーンに吹き込み、「和モダン」と言える味わい深い怖さへと雰囲気が変わります。言わば現代版無声映画といった感じでしょうか。多くのホラーシーンにピッタリとマッチするところに、古典の力の偉大さを実感できます。

不協和音や電子音楽を駆使して、絶対的な恐怖を与える作品が主流の昨今。しみじみとした伝統の恐ろしさに身を委ねることができるホラー演出、幽霊三重を、ぜひお試しいただきたいです。

円山応挙「幽霊図(お雪の幻)」。
眺めていると頭の中に幽霊三重が鳴り響く。

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