見出し画像

土曜、上野駅にて

昼前。
おじさんが3人並んで座り、話をしているのを見た。
そばには大きなカバンとビールの缶が置いてあった。
楽しそうだった。
世の中は暗いニュースで溢れているのに、おじさんたちの顔からは悲観が一切感じられなかった。
何の話をしているのか気になったけれど、待ちあわせの時間が迫っていたので通り過ぎた。

夕方。
さっきと同じ場所に、さっきと同じおじさんたちがいた。
穏やかな斜陽に照らされながら、喋り続けていた。
帰る場所があるひとたちの顔だと思った。
自分にとっての帰る場所をわかっているひとだけが持つ、穏やかな表情だった。
安くない家賃を払ってワンルームに住んでいる私より、昼間駅でずっと話をしているおじさんたちの方が、幸せそうな顔をしていた。

そうだ、帰る場所なんて、人の心の中にしかないのだ。

帰りたいと思った。
帰りたいと思いながら、
ひとり壁によりかかり、
忙しなく家路を急ぐ人々をぼんやりと眺めていた。

眠れない夜のための詩を、そっとつくります。