ひとりで人間を失格していた冬
大学一年の冬、大講義室の片隅で
講義を聞き流しながら『人間失格』を読んでいた私へ。
それを読んでもあなたは死なない。
あの恋人とは別れる。
あまり話さないあの子と親友になる。
身長はもう伸びない。
買ったばかりのプルーストは読まない。
アボカドを食わず嫌いするな。
一週間部屋で泣き暮らしても単位は取れる。
あなたが思うよりあなたは傷つく。
けれどあなたが思うよりあなたは強い。
大切なものができる。
大切なひとができる。
時々死にたくないと思う。
でもやっぱり死にたいと思う。
ただ、いっさいは過ぎていくけれど
たまに、忘れたくないと思える一瞬があって
会いたいと思えるひとがいて
心のどこかで夕暮れを待っているから
少なくとも今日はまだ、
私は死にたくない。
眠れない夜のための詩を、そっとつくります。