身長差331.5メートルの恋人
東京で働き始めて半年(うち2ヶ月は休職)、
初めて東京タワーを見た。
職場の最寄り駅から山手線で2分だけ離れた場所に、
私のことなど知らんぷりで立っていた。
真昼間の浜松町の路上で、
東京タワーを見上げて感慨に耽る私の横を、
絶えず人々が行き交い、
時間は忙しなく流れ続けていた。
会いたいと思っていた人とは
必然的にかつ偶然的に出会えるように
心の準備を何もできていないまま
私は会いたかった東京タワーと会えた。
「こんな近くにいたんだ」
青空を背景にした東京タワーは
思ったより寂しくなさそうで
それが少し寂しかった。
ビルに囲まれた東京タワーは
思ったより高くなくて
それが少し嬉しかった。
文学だ、と思った。
これが、文学的瞬間だ。
休職したあとの職場復帰は
休職前と違った心の苦しさがあって、
動けなくなる前に休んだはずなのに
「既往歴あり」と経歴に書かれて、
急に人生の難易度が上がった気がして
もう転職とかできない気がして。
ふっと気を抜くと不安で吐きそうになるけれど
そのぶん
文学的瞬間が多い気がして
それは私が愛したいものな気がして。
緊急事態宣言が明けた東京は
浮足立って眩しくて、
私の人生の緊急事態事態は
明けたのかどうだかわからんけど
夏前よりはきっと変わっていて。
この世界線上で、
今日あなたと出会えたことを、
忘れないでいたかったんだよ。
今度は夜、ひとりで会いにいきます。
待ってなくてもいいけどそこにいてね。
私が東京にいるうちに
話したいことが沢山あるんだよ。
150弱センチメートルの私から
333メートルのあなたへ。
眠れない夜のための詩を、そっとつくります。