月という名を持つ罪
名前に「月」がつくひとは残酷だと思う。
一度出会った人に、月を見る度その名前を思い出させてしまいかねないから。
かくいう私も残酷な人間だ。
しづくという名は、心に月と書く。
ほんの少し、思い出してほしいとも思う。
思い出さずにいられるくらい、幸せであってほしいとも思う。
思い出すことを幸せだと感じてもらえるほど、幸せなことはないとも思う。
そんなことを願うのは烏滸がましくて月が笑う。でも私は、にやついた口みたいな形の三日月が好き。
満月は少し怖い。
あまりにも完璧に満たされているから。
今宵、どれだけの人が月を見上げるだろう。お月見団子はいくつ売れるだろう。経済はどれほど回るだろう。文学は何編生まれるだろう。
月が綺麗ですねなんて、軽率に言ってしまえよ文学少女たち。
月なんていつだって綺麗なんだよ、わかったか漱石先生。
私はあなたの文学になりたい。
今宵月を眺めている方、
真夜中の隅っこで私と待ちあわせしましょう。
眠れない夜のための詩を、そっとつくります。