仏像とモーニングコーヒー
ここは、仏さまと朝のおつとめ、いやモーニングを食べれる喫茶店。
店内がスモーキーなのは、線香の煙ではありませんよ。
仏像がいらっしゃいませ
仏像カフェと看板を上げているでもなし。お寺の経営でもなさそうな商店街の喫茶店。
菩薩さまの、ほほえみに吸い込まれるか、弾かれるかは気分しだい。
人間五十年。いまでは五十年が人生の折り返しかも。人生は長くなりました。
そして人生に比例して、悩みは尽きず降り積もる……。じぶんの煩悩まみれの人生を感じながら。
半世紀を生きてきて、余計なものが捨てれるようになりました。
なんで、こんなにモノを欲しがったのか?
若さゆえの物欲。食欲。名誉欲。
その他もろもろ。
たまったモノは、自然に還らない。
処分費用、その高さにハッと気がつく。手に入れるより手放すことが。
仏さまとモーニングコーヒーを。
いいかしら?ささやかな食欲を持ち込んで。
「ブツブツ言わんと、いらっしゃい」
仏さまに足がすくむ
扉を引く。自動ドアではないのです。ドアさえじぶんで開けなくなった時代。モノには重みがある。
左手に、丸カーブのガラスが光る。これは相当に古い陳列棚でしょう。
わたしは仏像のことは、わかりません。最初は足が、すくんでしまいました。
右手の背中は金剛力士像でしょうか。マッチョです。
英語の歌が……よく聞くと洋楽。お経でなくてよかった。
シャンデリアがきらめく。ディスコ世代は思う、ゴージャスな仏像サロンだと。
「仏像が、ぶつぞう」まさにそんな喫茶店です。
リアル等身大
小さな仏像を置いてある店は数あれど。
店内では、人間のようなサイズの仏さまに囲まれる。お賽銭箱もあるし、仏さまの足元には小銭がビッシリと。
そ、掃除が……大変だ……!
「仏」
そうでした。モーニングを、食べに来たのです。
毎回掃除が大変と思ってしまうのは修行が足りませんね。
朝のうちは、店の奥の席に座ります。光背やら後光やら。神々しい。いや、仏さまだから違います。
「もう、京都や奈良へ行かなくても
いいんじゃ……」
篝さんに来るたび思います。そういう問題ではないですが。老化は、いいが、老害はいけません。
アイスコーヒーの飲み方
マスターと娘さんと常連さん。仏さまに護られた空間。
ハムトーストのパンは焼いてあります。サクッとしておいしい。
冷たいパンより焼いたパンがすき。
ある夏の日、お昼を過ぎてトーストを食べたいと思い、篝さんへ。
マスターいわく、ドリンクしかないとのこと。
朝のモーニングが11:30までなので、売り切れも致し方なし。
アイスコーヒーだけでも飲みたい。こころの浄化を兼ねて。
「アイスコーヒーのおいしい飲み方があるよ。
ストローを使わず直飲みするの」
マスターに教えてもらったとおりに
カップに口をつけてアイスコーヒーを飲む。
ちべたい~!
ごく冷え、極ひえ!
「銅よ」どうよ。仏さまの声がした。
やはりモーニング・朝のおつとめに限る。
焙煎機
店内の奥に、大きな大きな焙煎機があります。仏さまが脇役にも、シルエットのように見えます。それほど大きいのです。
もしかしたら夜な夜な、仏さまが焙煎しているのかも。まめまめしくコーヒーの修行をしているのかもしれません。
焙煎機の横の席が空いてたら、迷わず座ります。
使い込まれた焙煎機と、じぶんの人生。
もうひとつの仏さま。
そしてじぶんの「煩悩の豆粒」を全部取り出して、焙煎機に放り込む。
焙煎機は動いてないのだけれど、脳内で。
ホットコーヒーが運ばれてくる。
琥珀色と湯気と仏像。
焙煎したての、おいしいコーヒー。
煩悩まみれのわたしが、煩悩を飲みほす。
苦い時にはミルクをたっぷり。
そうだ。
お正月に向けて
年末に、もう一回来よう。
108の煩悩の豆粒を持って。
いつも こころに うるおいを。
水分補給も わすれずに。
最後までお読みくださり、
ありがとうございます。
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