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水増し音読カード

 昨年度に続き、この1学期も宿題の主役だったのが「音読カード」だ。国語の教科書を読んでくる宿題で、カードにはタイトルと、読んだ回数と、保護者が感想を書く欄と、先生が感想を書く欄がある。1枚につき、タイトルを書く欄は10だ。
 新学期に1枚目から始まったのに、すでに78枚にもなった。同じタイトルをいくつも並べて書き、回数はそれぞれ1回、3回、5回など適当に書く。以前は20回や30回と書いていたが、娘自身もさすがにウソっぽいと思ったのか、最近は数が少なくなった。

 前は親が書く欄に娘が勝手に三文判のハンコを押したので注意したが、今学期は親の欄に絵を描いてほしいと言う。かわいい絵を描くと、先生がイチゴやゾウ、ウシ、サッカーボールなど、手作りのかわいいスタンプを押してくれるというのだ。

 一度、間違ってよその子の音読カードが混じっていたことがあり、見ると、その子のお母さんは絵が得意なのか、一つ一つの欄に表情がいろいろ変わる女の子や動物や、かわいらしい草花が描かれていて、その下にはこれまで見たことのない先生のカップケーキや汽車、キノコなどのスタンプが押されていた。

 娘は「このハンコを押してもらいたいから、上手に描いて」と言う。「え~、ママが上手に描いたから押してくれるわけじゃないんじゃないの? たまたまだと思うよ」と言いつつ、その日は下手な動物の絵などを描いたりしたが、毎日のことなので、たいていは適当に、一マスに一文字ずつ「じょうずによめました。あしたもがんばりましょう」などと書いて埋めたりして、しのいでいた。遊びに来たじーじが、「たいへんよいおはなしでかんどうしました」などと書かされていたこともあった。

 時には、親の欄に見覚えのないタヌキの顔が描かれていて、聞くと学童クラブで絵の上手な友達が描いていたり、「〇〇ちゃんのパパがもういいかげんにしろって怒ったんだって」(絵を強制されたらしい)」などという話も伝わってきた。

 最近は先生がシールを張ってくれることもある。そのシールを張ってもらいたいがために、さらにせっせせっせと項目を埋めていく。どう見ても、読んだ回数を水増ししているわけなので、ほとんど意味がない。「読んでないじゃん」と言うと、すごい速さで1回ペロッと読み、そして回数を「3」とか「5」と書き入れるのだ。

 音読カードは厚紙に1枚ずつノリで張っていく。すでに100枚に達した子もいるそうだ。もはや先生も水増しに気づいているのかもしれない。でもまあ、娘が楽しそうなので、いいかと思っている。下手な絵を描かされるのは勘弁してほしいけど。

2010年7月25日

☆2009年から2012年まで子ども向けの新聞につづった連載を改編したものです。

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