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さよならロザリオ 2


洗濯機の前で三回目の洗濯物が回るのを、ユミはぼんやり眺め、朝の出来事を思い出し目を瞑った。

もうすぐ2年生になるというのに、いつまでも
おねしょが治らないマキに、またきつく当たってしまった。
マキだって、わざとおねしょをしているわけじゃないのもわかっている。
どもりながら、謝るマキにもイライラした。

いつまでもベッドの上でグズグズしているマキの腕と足をつねり、乱暴にシーツをはがした。
その反動でマキはひっくり返りベッドの角におでこをぶつけた。
あ、と思った時には遅く、やり過ぎたことに胸が痛んだ。

「いい加減にして!」
大きな声に驚いたマキが、またメソメソしている。
泣きたいのはこっちだった。

同じ部屋の低学年の洗濯物は、4年生から6年生が洗濯をする規則になっている。
ユミの部屋には低学年が4人、6年生が1人、中高生は中学生2人、高校生1人。
中高生は自分の洗濯物は自分でする。
6年生のユミは毎日5人分の洗濯をしなければならなかった。

洗濯物は、学校に行く前にする時もあれば、
学校から帰ってきてからする時もある。

ランドリー室には洗濯機が4台しかない。
夜は大体中高生が洗濯機を占領してしまう。

ユミは朝ご飯の前に、洗濯物全てを終わらせたかった。

ランドリー室に行くと、洗濯機の前には上の部屋のハルがいた。
ユミは舌打ちしたい気持ちを抑えた。
もうすぐ洗濯が終わるのか、ハルの足元にある洗濯カゴは空だった。

やっぱり遅かったか。
洗濯機は4台とも空いていなかった。

次、空いたらかして!

ハルに言うと、ハルは脱水が終わった洗濯物をカゴに詰め込み、
次はミズキだから。と冷ややかな口調で言った。

じゃあ、こっちが空いたらかしてよ!
次、ナオちゃんだから。
ハルは意地悪く笑い、わざわざユミの持つ洗濯カゴにぶつかり、ランドリー室から出て行った。

ああ。ムカつく!
ハルの人をバカにしたような、冷めた目も
どもってグズグズしてばかりのマキも
毎日毎日大量の洗濯物も、全部嫌だ!
大体、ひとりで2台も洗濯機を使うハルもどうかしてる!

ユミは深呼吸して、ママのことを思い出した。


一年前までは、ママが洗濯をしてくれていた。
一年前までは、朝はママが優しく起こしてくれていた。
一年前までは、朝はママがパンにマーガリンと
いちごジャムをたっぷり塗って、オムレツを作ってくれた。
ママ、、、。
いつも優しかったママ。
ママ、、、。

一年前までは、ママと一緒に暮らしていた。


ユミはピアノが上手だから将来はピアニストかな。と優しく笑っているママの顔が一番好きだった。
幼稚園から習い始めた楽しかったピアノも、ママにピアノを褒められることが、何よりもうれしかった。
時々帰ってくるパパも、欲しい物は何でも買ってくれた。ユミの頼みは全部受け入れてくれた。
前の学校で、ユミは人気者だった。
勉強も出来たし、ピアノは学年で一番上手だった。
足も速くてクラス対抗リレーではアンカーに選ばれるくらいだった。明るくてみんなに優しいユミはどこに行っても、何をしていても中心的存在で、クラスメイトの羨望の眼差しを一身に浴びていた。

一年前までは、全てがキラキラしていた。

今は、、、。
ママも居なければ、友達もいない。

ママのことを思い出すと
少し泣きそうになった。
すぐに迎えに来るって言ったママ。
すぐっていつ?どれくらい?
ママ。寂しくないかな。

ママ。

会いたい。ママに会いたい。


なんとか、洗濯物を脱水まで終えて、
朝ご飯を食べに食堂に下りた。
ユミの姿を見て、マキがビクッと体を震わせたのがわかった。
ベッドにぶつけたおでこが赤くなっている。
ユミは、マキの顔を見ないようにして、ご飯を食べた。

ランドリー室に戻ると脱水が終わってカゴに入れたはずの洗濯物が床一面に散らばっていた。
踏まれたような跡と、どこから持ってきたのか、枯葉や泥までついていた。

ハルのやつ!
ユミは、頭にカッと血が上るのがわかった。

食堂に戻ってハルの顔を引っ叩いた。
ハルはびっくりしたような顔で頬を押さえている。

「なんで、あんなことするの!?」

ハルはまだ、とぼけたような顔をしている。

「洗濯物、全部ぐちゃぐちゃにしてなんなの?
文句あるなら直接言え!陰険なんだよ!ハル!」

一気にまくし立てた。

ハルは顔色ひとつ変えず
「なんのこと?なにもしてないけど」
また、冷ややかに笑っている。

ユミの怒りは収まらない。ユミの中で何かが弾けた。もうどうでもいい。どうなってもいい。押さえられない何かが、ユミの体も心も支配したような感覚だった。
ハルの髪の毛を引っ張り、あやまれ、クソ、てめえ、死ね、汚い言葉を叫び
ハルの顔や頭を殴った。

ハルは、少しだけ驚いた顔をし
「先に手を出した方が負け」
と不適な笑みを浮かべ、ユミの腹に蹴りを入れた。

先生が慌ててケンカを止めにきた。

先生に抑え込まれたユミは、食堂の真ん中で泣き崩れた。

もう嫌だ!!
ママ!ママー!
ママに会いたい!
こんなところに居たくない!
ママ!ママ!
ママ!もう嫌だ!嫌た!!
ママ!ママ!
ママに会いたいよー!!

大声で泣きじゃくるユミを、先生が背中をさすってなだめた。
静観していた子達も、自分の席について
静かにご飯を食べはじめた。

ハルの唇からは血が出てる。
「わたしは、何もしてないから」

泣きじゃくるユミの横でうつむいたまま
涙目になっているのを隠していた。

「蹴ってごめん」
ハルは小さい声で言い、食堂から出て行った。


「ユ、ユミちゃん、お、おねしょして、、
ご、ごめんなさい、ユ、ユミちゃん、ご、ごめんなさい。ユ、ユミちゃん、なかなかないで、ユ、ユミちゃん、、、なかないで、、、」

マキがユミの背中に手を置き
先生の真似をして、背中をさすっている。

わかってる。
マキは何も悪くない。 
わかってる。わかっている。
6年生にもなって、こんなに大声で泣いて
ママに会いたいって、どうして叫んでいるんだろう。こんなこと言うつもりなんてなかった。
自分が自分じゃないみたいで嫌だ。嫌だ。
イライラも、嫌な気持ちも消えてなくならない。
マキに優しくしたいのに、優しくできない。
自分より小さい子達が、こんなにいるのに
親がいない子もたくさんいるのに、本当は自分が恵まれているのが、ここに来てはじめてわかったのに、どうして、どうして、どうして。
ユミの胸は張り裂けそうだった。

顔を上げると、ハルが園長先生に連れて行かれるのが見えた。


(ハル!ああ、待ってください。
連れて行かないで、待って、ハル!)
心の中で、叫んでも遅かった。


ユミはまた泣き崩れるしかなかった。


ごめんね。マキ。
意地悪してごめんね。
いつもつねったり
叩いたりしてごめんね。

ごめんね。マキ。


ごめん。ハル。




小さなマキの手を背中に感じながら
ユミは泣いた。







さよならロザリオ1を、めろさんに、
超おすすめ♡サポートして頂きました。
ありがとうございます。
とてもうれしかったです。

また、たくさんのスキや
コメントもたくさん頂けて
うれしい気持ちでいっぱいです。
ありがとうごいます。

ひとつひとつがうれしかったシズコンです。
ありがとうございました。

                shizugon


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