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種違い

父親の一番下の弟だけ、種が違う。

幼い頃に会ったことがあるのだろうが、彼のことは記憶になかった。大人になり会ったとき、彼は、私にとって初対面と一緒だった。


道を外れた人。

息子二人は、ちんぴら。


それが晴れがましい席で彼らに対して抱いた、私の最初の感想だった。と同時に、種違いが頭をよぎった。

同じ兄弟でもこんなにも違うものか。一人だけ他の兄弟と似ていない。みんな小柄だが、ひとりだけ上背がある。他の兄弟は真面目だが、彼だけいきがっている。

そして何より、同じ環境で育っても、下卑た人間になる。

彼はとにかく、浅ましかった。
それは、息子も同様だった。

息子たちは、夫婦と子供で披露宴に参加し、ご祝儀はそれぞれ一万円だったらしい。

父親の教育の賜物。


披露宴が終わった後、彼がカラオケに行きたいと言い出した。勝手に行けばいいと思ったが、カラオケを予約しろ、タクシーを手配しろ。金を出せ。もっともっと、もっともっと俺をもてなせと言い募る。

当時まだ小娘だった私なら、いくらでも自分の言いなりになると彼は思ったのだろう。幹事でもない私に詰め寄ってきた。これに、これ幸いと知らない親戚のおっさんも便乗してくる。
カオスだった。

下品な振る舞いに、怒りで体が震えそうだった。だが、親の立場もある。場の空気を壊さぬよう、静かに静かに怒りを爆発させた。

私は、元来気が強い。
東京の荒波で育ち、東京での厳しい就職戦線を勝ち抜いた。そして、毎日満員電車でおっさんどもと戦い、日々鍛えられている。

地方で、のんびりぬくぬく暮らしている人間が随分となめたことを。そして、なにより25歳という一番調子に乗っているときの私だ。人生で一番プライドが高かった時だろう。

彼は、私のことを何一つ分かっていなかった。たかる相手を間違っているということを。


突然、忌まわしい過去の記憶がよみがえってきた。もう、四半世紀近く前のこと。

今、思い出しても腹が立つ。
妄想の中で、こてんぱんにやっつけてやった。

あのちんぴら一家が、身をもって私に教えてくれたこと。(本当のちんぴらではないと思うが、風貌がちんぴら風)

まず第一に、種の問題があるかもしれないということ。
第二に、本人のひがみ根性。
第三に、周りの甘やかし。
第四に、本人の甘え。
第五に、開き直り。

随分と昔の田舎での出来事だ。
父親はすでに亡く、母親も間もなく特殊な事情で亡くなったと聞く。守ってくれる大人がいなくなり、周りの人間からあれやこれや言われたことは容易に想像がつく。

自分だけ父親が違うことを恨んだかもしれない。どんなに頑張っても自分の力では変えることができず、一生ついて回る出生を憎んだかもしれない。

その思いが、妬み、僻みとなり、毒を放つようになる。まず自分を蝕み、それから周りを蝕んでいく毒を。周りは手に負えなくなり、腫物を扱うように彼に接するようになる。そのことが、彼を増長させてしまったのかもしれない。

自分は特別な人間だ。

望んで父親の違う子供として生まれたわけではない。勝手に作って、勝手に産んで、勝手に死んだ親が悪い。自分は、何も悪くない。だから、何をしてもいい。
何をしても許されなければいけない。


思いあがった種違いは、災いを招く。

同情すべき点はあるが、その後どう育つかは自分の心の持ちようだ。いい大人になってもふてくされ、周りからの同情の上にのさばって生きることは不幸だ。

今の時代に生を受けたということも、何かの縁があってのこと。生まれながらにして大きな宿命を抱えているが、その宿命と向き合うことが、今生での魂の課題なのではないだろうか。

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